サステナビリティへの取り組み
サステナビリティへの取り組み
気候変動、資源の枯渇、環境汚染など、現代の私たちはさまざまな環境問題に直面しています。例えばプラスチックは自然環境で分解されず、このまま放置すれば2050年には海洋に流出したプラスチックごみが魚の量を上回るとする予測※1もあります。
こうした問題を解決する手段の一つが、持続可能な代替材料の開発です。マテリアルソリューション部の「Materials Informatics(MI/マテリアルズ・インフォマティクス)」は、スピーディな材料開発を行えるソリューションです。これまでベテラン研究者に大きく依存していた調査・設計・シミュレーションなどのプロセスを、AIが代替することで高効率化を実現できます。
これにより、新材料の開発にかかる手間やコスト、何より時間を大幅に削減。新しい材料を、スピード感をもって私たちの元へ送り出す一翼を担います。
2015年に国連でSDGsが採択され、環境問題の解決に光明をもたらすと期待される新材料の開発は、持続可能でより良い世界の実現のための重要な役割を担うとともに、高度な産業の発展に必要不可欠となりました。このような時代の流れから「Materials Informatics」のニーズは高まり続けています。
日本政府も注目しており、SDGs(持続可能な開発計画)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」をはじめ、さまざまな社会課題の解決を後押しすることが期待されています。
日本政府も物質、材料、デバイスといった「マテリアル」の産業・イノベーション上の重要性の拡大に応じて、マテリアル革新力の強化に向けた検討を近年実施しています。
材料開発におけるAIの活用について、従来のプロセスと比較してみましょう(図)。最初に材料の目標性能を設定するのは従来と同じです。大きく異なるのはその次からです。従来は類似の開発事例を調べる、設計を行なう、候補の材料に対してシミュレーションを行うといった一連のプロセスを人の手で行っていました。
これはベテランの経験や勘が物をいう世界でした。
一方、「Materials Informatics」では経験者の知見や勘ではなく、データに基づく解析をAIが行います。これにより、経験者の想像を超える未知の探索が可能になりました。
また、これまでは「やってみないとわからない」と実験をやみくもに行うことも多くありましたが、AIを使って導き出された実験計画の策定を行うことで、信頼性の高い実験のみを行えるようになりました。その結果、実験回数を大幅に削減できます。
分析にはお客様がこれまで行っていた実験データを使いますが、特許や論文、画像から抽出したデータを補完することもできます。
マテリアルソリューション部の玉井康之は、「Materials Informatics」の導入効果について、こう解説します。
「条件によって異なるので一概には言えませんがMIを利用したことで、実験回数を従来比4分の1にできた事例があります。これは材料の量、人員やコスト、発生するゴミの量、さらにはCO2排出量も4分の1にできることを意味します」
製造現場でのCO2削減は、業界を問わず課題となっています。「Materials Informatics」で実験回数を減らせれば、実験に使うエネルギー(熱や電力)による排出(スコープ1、2※2)だけでなく、原材料の調達・輸送から廃棄物の処理に至るサプライチェーン全体の排出量(スコープ3※2)も削減が可能になります。
導入先での評価は高く、以下のような声が多く聞かれています。
ベテラン化学者の経験や勘に頼っていた部分をAIが代替するという、「Materials Informatics」の有用性が証明された結果になりました。MI営業グループリーダーの野川祐弥は、こう語ります。
「サービスはサブスクリプション形式にして、クラウド上で提供しています。こうすることで大規模なシステムを導入する手間やコストを最小化できるので、中小企業を含む幅広いお客さまの導入ハードルを下げることができます」
「Materials Informatics」による分析のサポートは、データサイエンティストが行います。日立ハイテクだけでなく日立製作所・公共システム事業部と連携を取り、専門家が対応しています。在籍しているデータサイエンティストは、AIのエキスパートや化学の専門家など、さまざまなバックグラウンドを持っています。それぞれの専門分野を補完し合いながら、幅広い分析依頼に対応しています。
データサイエンティストの役割について、技師である面林康太はこう語ります。
「高い分析スキルを持っているのは当然ですが、何よりも大切にしているのが『課題解決能力』です。まずはお客さまの困りごと・悩みごとに耳を傾けること。課題をヒアリングするだけでなく、なぜそのような課題が発生したのか、背景までをさかのぼってお聞きするよう常に意識しています」
マーケティング担当者としてデータサイエンティストの活動を見守る川中理佐は、こう補足します。
「お客様から『他社で『無理』と冷たく断られたがハイテクさんは親身に話を聞いて解決策を提案してくれる』とお言葉をいただきました。どんな案件も丁寧にヒアリングをして、課題を見つけ出し解決策を提示する姿勢により、お客さまから高い評価をいただいています」
「Materials Informatics」は元々、2011年にオバマ政権下のアメリカで始まりました。日本でも持続可能な産業の発展や製造業による社会課題解決の有効な手段として、官民連携で推進しています。
日立グループとしては、日立製作所が2017年にサービスを開始しました。そこに日立ハイテクも加わり、2021年度から本格的な事業化がスタートしました。MI営業グループリーダーの野川祐弥は、日立の強みをこう説明します。
「日立グループはグローバルな舞台でさまざまな業界のお客さまに、多くのソリューションを提供してきました。また、日立ハイテクは『Materials Informatics』のシステムだけでなく、分析装置や計測装置の開発・製造も行っています。各種装置から分析ソリューションまでトータルでサービスを提供できる体制を整えていることは、他のITベンダーにない強みです」
さらにこう続けます。
「現在『Materials Informatics』は導入期と成長期の間にあります。まずは製造現場でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)をサポートし、地球環境問題の解決も見据えてGX(グリーン・トランスフォーメーション)へと発展させていきたいですね」
日立ハイテクグループはSDGsを踏まえて、社会課題の解決に向けて5つのマテリアリティ(重要課題)を掲げています。
「Materials Informatics」は3)を入り口に1)や2)、さらにはAIによる開発スピードの短縮を通して4)や5)にも貢献することが可能です。産業の振興と地球環境との共存という両面から社会課題を解決する「Materials Informatics」は、ますます活躍の場を広げています。