サステナビリティへの取り組み
サステナビリティへの取り組み
通勤、通学、レジャーなど、さまざまな場面で私たちの日常を支える鉄道は、高速・快適に進化をとげてきました。環境負荷が低いことから、未来の移動手段としての存在感も高まっています。そして「安全」という大前提なしに、鉄道の運行は成り立ちません。
日立ハイテクは事故につながるリスクを早期に発見し、迅速かつ適切な対応につなげる検査・測定技術を提供。新幹線やJR在来線、私鉄や地下鉄など、各地で安全・安心な運行を24時間365日支えています。
近年は少子高齢化による人手不足や、ベテラン職員の退職による技術継承も課題になっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使した日立ハイテクの技術はこれらの要請にも応え、持続可能な鉄道事業に貢献します。
東海道新幹線が1964年に開業してから間もなく60年。新幹線は北海道から九州まで各地に路線を伸ばし、運行本数も大幅に増え、一部区間では時速300kmを超える運転を実現しています。
在来線も同様です。日本国有鉄道(国鉄)からJRに移行して約40年の間に高速化が進み、営業運転の最高速度は時速130kmに達しました。大都市圏では複数の鉄道会社が相互に乗り入れ、通勤や通学の輸送を担っています。
車両技術の進化により、快適な乗り心地や静粛性とスピードの両立も、もはや当たり前になっています。
安全・安心な鉄道の運行には、レールなどのインフラを健全な状態に保つことが欠かせません。日立グループは1960年代に当時の国鉄に軌道検測車を納入して以来、さまざまな検査・測定技術の開発に取り組んできました。
IS事業部IS営業部・部長代理の山村啓晃(ひろあき)は、こう説明します。
「日立ハイテクは新幹線や主要在来線をはじめ、さまざまな路線に安全を支えるソリューションを提供しています。近年はIoTをはじめとするデジタル技術によって毎年のように技術がアップデートされており、高精度の検測が可能になりました」
日立ハイテクが得意とする分野のひとつが、レール(軌道)検測です。レールは常に、歪みやねじれのリスクにさらされています。上を走る列車の重さや気温の変化によって、上下左右さまざまな方向に負荷がかかるためです。歪みやねじれが一定のレベルを超えると、脱線事故につながりかねません。
日立ハイテクの軌道検測装置はレーザー技術を用いて、「高低差(上下方向のずれ)」、「通り(左右方向のずれ)」、「軌間(レール間隔のずれ)」、「水準(左右レールの上下方向のずれ)」、「平面生(軌道面のねじれ)」の5項目を検測。レールの異常をリアルタイムで検知し、早期修復や事故防止に貢献します。
レールと並ぶ重要なインフラが、トロリ線(架線)です。鉄道の動力には電気と内燃(主にディーゼル)の2種類がありますが、新幹線や主要在来線の多くは電気が主流です。これらの電化区間では、架線からパンタグラフを通して車両に電気を供給しています。
架線はパンタグラフとの間で生じる摩擦によってすり減ります。パンタグラフ側の摩耗を考慮して左右ジグザグに張られるなど、構造もデリケートで複雑です。日立ハイテクの架線検測装置は、架線の直径から摩耗の状態を確認するとともに、位置や高さの変化も検知します。
レールや架線の検測装置はIoT技術によってコンパクト化が進み、営業車両の床下や屋根上への搭載が可能になりました。従来は専用の検測車両を用いていましたが、乗客を乗せて通常の運転を行なうと同時に検測を行えるようになったのです。
IS事業部IS営業部・主任技師のブライアン・ラットレイは、営業車両搭載のメリットをこう説明します。
「実際の営業運転そのものの条件で検測することで、列車のスピードや重さがレールや架線にどう影響するかをリアルに把握できるようになったのは大変な進化です」
日立ハイテクは他にも、電車線路設備(架線の付帯設備)や軌道材料(レールを枕木に固定するボルトなど)、周辺設備(線路周辺の障がい物)の検査・測定を行う装置を開発。IS事業部IS営業部・部長の朽木(くつき)史彦は、こう語ります。
「レールと架線については法令で定められた数値にのっとって検測を行えば良いのですが、それ以外については錆びやゆるみといった数値化が難しい要素が多く、保線職員の経験に依存する部分もありました。そこに4Kカメラなどの技術を導入することで、検査・測定の省力化・効率化につなげます」
近年の少子高齢化による人手不足は、鉄道運行の現場にも影響を及ぼしています。特にベテラン職員が引退した後、安全を守る要員をどう確保するかは大きな課題です。ベテランの技をデジタルで継承する日立ハイテクの検査・測定技術は、この課題に対する一つの解決策として期待を集めています。
朽木は、こう続けます。
「検査・測定をして終わるのでなく、装置が蓄積したデータを分析し、問題の早期発見やメンテナンス向上に結び付ける提案にも力を入れています。日立ハイテクは『見る・測る・分析する』技術の全てを有しており、データの利活用によるソリューションをトータルで提供できるのは大きな強みです」
日立ハイテクの技術は、検査・測定のあり方そのものも変えました。従来は設備の状態の良し悪しにかかわらず、決められた期間ごとに修理や部品交換を行う「TBM(Time Based Maintenance)」という方法が主流でした。
それがデータを利活用できるようになったことで、劣化の予兆を早期に発見し、問題のある部分だけを着実にメンテナンスする「CBM(Condition Based Maintenance)」が可能に。手間やコストを効率化しながら、これまで以上に高精度なメンテナンスを可能にしました。
全国には、人口減少やモータリゼーションの進展により、維持が困難な路線も少なくありません。その一方で、環境負荷が低い次世代の交通機関として、鉄道の良さを見直す動きもあります。少ない手間とコストで安全を守ることができる検査・測定技術は、地方路線の存続にも貢献できるでしょう。
朽木は、鉄道会社が期待する以上のソリューション提供に努めたいと、今後を見据えます。
「列車が走るのは日常的な風景ですが、過密な運行スケジュール通りに動いている背後には鉄道会社のたゆまぬ努力があります。皆さまの安全に対する意識は高く、私たちが教えられることも少なくありません。安全・安心を守るパートナーとして、これからも鉄道会社との協働・共創を深めていきたいですね」
日立グループは総合鉄道システムインテグレーターとして、車両の製造から駆動系技術の開発、保安装置や運行管理システムの提供まで、鉄道にかかわるあらゆる領域をカバーしています。欧州やアジアをはじめ、海外の鉄道事業にも積極的に関わっています。
日立ハイテクはグループの総合力を最大限に活かせるよう関係部門との連携強化にも努め、検査・測定技術のさらなるレベルアップを通して、持続可能な鉄道の未来への貢献を目指します。
日立ハイテクグループはSDGs(持続可能な開発目標)を踏まえて、社会課題の解決に向けて5つのマテリアリティ(重要課題)を掲げています。鉄道の運行を支える検査・測定技術は「2)健康で安全、安心な暮らしへの貢献」をメインに、他のマテリアリティにも間接的に貢献します。