アスベスト分析
1. アスベスト分析の必要性
アスベストとは
石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。かつては耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に優れた「奇跡の鉱物」と称され、建築材料・電気製品・自動車・家庭用品等様々な用途に広く使用されてきました。しかし空中に飛散した石綿繊維を長期間大量に吸入すると肺癌や中皮腫の誘因となることが指摘されるようになり、現在では原則として製造等が禁止されています。
また、令和4年4月1日から、建築物等の解体・改修工事を行う施工業者は、大気汚染防止法に基づき当該工事における石綿含有建材の有無の事前調査結果を都道府県等に報告することが義務づけられています。報告は、厚生労働省が所管する石綿障害予防規則に基づき、労働基準監督署にも行う必要があります。
なぜ建材中のアスベスト分析で、偏光顕微鏡だけでなく電子顕微鏡も使用するのか?
建材中のアスベスト分析における試料観察には一般的には偏光顕微鏡等の光学顕微鏡が用いられます。
偏光顕微鏡による分析だけでも十分判断が可能だという声も聞かれますが、なぜ電子顕微鏡が併用されるのでしょうか?その主な理由を以下に記します。
1)高い解像度を有する
電子顕微鏡は光学顕微鏡と比較してより高い解像度を持っています。
アスベストは繊維状の鉱物であり、その特徴的な形状を観察する際、偏光顕微鏡では判断が困難な微細な繊維の観察が必要な場合に電子顕微鏡の有する高い解像度が重宝されます。
2)成分の解析機能を有する
電子顕微鏡はエネルギー分散X線分析(EDX)を用いることで、試料の元素組成を調べることができます。
アスベストの種類や組成を確認するために電子顕微鏡による成分解析が重宝されます。
偏光顕微鏡にて微細な繊維の屈折率(分散色)の評価に苦しんだ際も、高倍率での元素組成解析で活路を見いだせます。
3)光学特性の影響を受けない
観察対象の試料が加熱された状態などになると、光学特性(主に屈折率)が変化するので偏光顕微鏡では判断できない場合があります。それに対して、電子顕微鏡の元素組成解析(例:Si,Mg,Feなど)は、加熱の影響を受けないので加熱された試料(例:熱履歴のある断熱材など)の判別で重宝されます。
4)検査手法が記された根拠等
建材中に存在するアスベストを判別するには、繊維の形態観察と組成情報(元素分析等)が必要です。SEM-EDXを用いた分析手法は形態観察と同時に元素分析結果がわかるため、下図イメージ図①・②に記すように偏光顕微鏡・X線回折(XRD)らとともにアスベスト分析手法として認められています。(JIS規格に関しては、JIS A 1481-1群等を参照ください)
アスベストの種類と測定事例
※ 以下データは、SEM / EDX によるアスベストの観察結果と元素分析結果例です。
建材中のアスベスト分析に求められる電子顕微鏡の条件
JIS A 1481-1において、電子顕微鏡による定性評価の手法が認められていることがわかりますが、その詳細な仕様にはどのようなものが推奨されるのでしょうか?
厚生労働省『石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル【第2版】』において、
- 7.2 定性分析に用いるSEMの必要条件において、『使用するSEMは、加速電圧15~25 kv、倍率は100~20,000倍、分解能は60 nmを満たすもので、EDXの装着が必須である。EDXは、Na以上の特性X線を検出できるもの』。
- 7.5 繊維形態観察とEDX分析のポイント(9)加速電圧において『SEM-EDX分析は、15 kvより20 kvの方がよい。15 kv以下の低い加速電圧でのEDX分析はできるだけ避ける』
とそれぞれ明記されています。
上記からも、エネルギー分散形X線分析装置(EDX)を必須条件で、SEM-EDX分析において高いS/Nを実現するためには、加速電圧は20 kVを備えておいたほうが安心です。
125頁 7.4 及び 131頁 7.5. 9)をご覧ください。
2. アスベスト分析にはMiniscope®がおすすめ!
小型卓上なのに加電圧20 kV対応
アスベスト分析に対応し、信頼性向上のために、加速電圧20 kVによるEDXマッピングの高S/N化を実現
卓上顕微鏡 Miniscope® TM4000PlusII/TM4000PlusIIIは、コンパクトな卓上電子顕微鏡でありながら、加速電圧20 kVに対応し、厚生労働省のアスベスト分析マニュアルに記載されている分析必須条件を満たしております。
右の参考データは、アスベスト分析現場において、クリソタイルをEDX(定性分析)にて加速電圧15 kVと20 kVの2条件でデータを取得したものになります。クリソタイルを構成する代表的な元素【Mg、Si、Fe】に着目すると、20 kVのマッピング像の方が、15 kVと比較して高いS/Nでのデータ取得が行えており、特にFeのデータが繊維束由来の分布状況が明確に確認できています。
電子顕微鏡導入における心配事を解決する様々な機能を搭載
建材中のアスベスト分析において、必須となる偏光顕微鏡での確認が難しい場合に推奨されている電子顕微鏡の使用は、有効であることを理解できても、多くの方が導入をためらう理由に「自分たちで電子顕微鏡を使いこなせるか?」「作業時間がかかるのでは?」「人材育成はどうする?」という操作面に関する不安が挙げられます。
電子顕微鏡の導入前、一般的な電子顕微鏡の観察プロセスに関して多くの方が不安に感じていることは以下の3点です。
不安1)観察操作手順を覚えるのが手間であるのでは?
不安2)観察ポイントを探す作業が手間であるのでは?
不安3)観察中に帯電が生じた際の対応や、事前対策の前処理が手間であるのでは?
卓上顕微鏡 Miniscope® TM4000PlusII/TM4000PlusIIIでは、どのような対策が工夫されているのか見てみましょう。
*こちらの観察画面はTM4000PlusIIのものとなります。
価格:お問い合わせください
取扱会社:株式会社 日立ハイテク
3. お客様の声
御社の概要を教えてください。
株式会社デイラボは、「アスベスト分析の専門機関」です。
弊社ではアスベスト分析に特化した人材育成・分析装置の選定・環境整備を行い、ユーザーへのより早く・正確なアスベスト分析結果のご報告を至上命題としサービス品質の向上に努めています。特に受付から24時間以内でのご報告が可能な1DAYプランにて、工事の最中に発覚した懸念材料の評価についてもいち早くご報告し、工事を止めた際に生じるコストを最小限に抑えることが可能です。
また、40名以上の分析資格者が在籍していますので大量検体も短納期での対応可能です。
アスベスト分析業界の現状や課題を教えてください。
法改正により業界全体で分析依頼が増加しているなか、以前と比べるとサンプルの傾向にも変化があり高難度化している様に感じます。(低含有率/アスベスト代替繊維の使用とそれに含まれる不純物/複数の改修履歴/建材分析の経験やトレンドが通用しない工作物・製品の分析増加…)それに伴い、分析も一つの見方に固執するのではなく、可能な限り様々なオプションを駆使しての取り組みが必要であると考えています。業界の動きとしてはスタートアップ企業の参入が目立ちますが、高い分析技能や知識・経験が求められる現状に対応できるかが課題となるでしょう。
なぜ、TM4000を採用されたのですか?
アスベスト分析は基本的に多検体分析であるため、価格や納期だけでなく作業効率やコンパクトさも重視しました。
また、卓上タイプでありながらTM4000の有する加速電圧20 kV・低真空観察・無蒸着観察という大きな特徴に魅力を感じました。
これからも観察精度と効率化の両面で最適な分析条件を確認・検証していくつもりです。
細い繊維を高倍率かつ組成も確認できるので、光学顕微鏡観察で迷う事があってもサポートとして安心できます。
実際に使用されての評価は如何でしょうか?
ひと昔前の電子顕微鏡(SEM)では、観察ポイントの位置合わせを電子顕微鏡の観察画像だけを頼りに行っていましたが、TM4000では試料室内に備えられている『光学カメラ(カメラナビ)機能』によって、シームレスで試料室内の光学カメラ画像~電子顕微鏡観察画像の観察が行えるので、試料の位置合わせが非常に楽になりました。更に、発見した観察対象物の座標位置情報をメモリすることができる『マップ機能』を活用することで、経験が浅いスタッフがスクリーニング作業を行った後で経験を積んだベテランにまとめて確認相談したり、「繊維の発見」と「詳細確認作業」を分担することによる『作業負担平準化』に役立つと思います。
また、従来の分析手法である偏光顕微鏡観察は観察者自身が様々な「確認・判断・考察」をこなす必要があることから、精神的負荷がかかるので、電子顕微鏡という異なる分析アプローチ手法を有することが観察者の負荷低減に寄与していると感じており、特に分析経験者の少ないラボに対する効果は顕著ではないかと考えています。
弊社では、昨今言われ続けている「働き方改革」のためにも各拠点に電子顕微鏡を設置するようにしています。
半面、建材分析において電子顕微鏡(SEM)独特の奥の深さや難しさ(夾雑物の影響など)も感じています。比較的簡単にできると耳にしますが分析試料によってはそうでもないこともあるので今後も観察スキルの向上に取り組んでいくつもりです。
これからの業界展望は?
分析機関において、高難度かつ大量のサンプルを「いかに精度よく素早く分析できるか」という課題を解決するには基本を大切にしながら常に新しい技術・要素を取り込んでいかなくてはならないと考えています。
特に昨今増加しているスタートアップ企業様においては経験不足をカバーするにおいて様々な分析オプション/サポート機器を駆使して「分析精度」にフィードバックしていく事が肝要と提言いたします。
4. 中小企業経営強化税制について
TM4000PlusII/TM4000PlusIIIは、中小企業経営強化税制 対象機種
(2025年3月31日迄)
価格:お問い合わせください
取扱会社:株式会社 日立ハイテク