2024年6月4日
株式会社日立ハイテク
走査電子顕微鏡関連装置が日本顕微鏡学会より「顕微鏡遺産」に認定
左から、「電界放出型走査電子顕微鏡 HFS-2」、「超高分解能走査型電子顕微鏡UHS-T1型」、「臨界点乾燥器」
株式会社日立ハイテク(以下、日立ハイテク)は、「電界放出型走査電子顕微鏡 HFS-2(以下、「HFS-2」)」、「超高分解能走査型電子顕微鏡UHS-T1型(以下、「UHS-T1」)」、「臨界点乾燥器(愛称:ドカン)」の3装置を、公益社団法人日本顕微鏡学会が募集した第1回「顕微鏡遺産」に応募し、認定されました。
「顕微鏡遺産」は、公益社団法人日本顕微鏡学会が2024年に創立75周年を迎えることを記念し、顕微鏡学の発展に大きく貢献したエポックメーキングな技術や製品を、文化遺産として後世に伝えることを目的に導入した認定制度です。
各認定製品の概要
「HFS-2」は株式会社日立製作所(以下、日立)が1972年に発売した世界初となる商用のFE-SEM*1です。電界放出型(FE)電子源は、シカゴ大学のA.V.Crew教授によって1970年に開発され、日立は同教授の技術指導を受けて、FE電子源の商用化に不可欠な超高真空技術やFE電子源制御技術などの技術課題を解決し、FE-SEMの商用化を世界で初めて実現しました。「HFS-2」で用いられるFE電子源技術は、熱電子放出型電子源の約1,000倍の輝度を持ち、それまでのSEM分解能を15nmから3nmへと5倍向上させました。現在、FE-SEMは、医学・生物学分野での微小3次元形状観測や、ナノテクノロジー関連材料の研究、半導体のプロセス条件形状決定など、顕微観察を必要とする幅広い分野において必要不可欠な機器となっており、「HFS-2」はその先駆けとなった電子顕微鏡です。
「UHS-T1」は、1985年に鳥取大学と日立によって新規に開発されました。FE-SEMに搭載された高輝度電子銃*2とインレンズ方式*3を併用したことで、それまで定説とされてきた理論的な分解能の限界(2nm)を超えた超高解像度の画像が得られる画期的な性能(当時世界最高の解像度:分解能0.5nm、最高倍率80万倍)を実現しました。1985年にはエイズウイルスの立体像観察に成功し、その写真が当時の新聞にも掲載されました。さらに新聞掲載を通じて世界中に配信されたことで社会に大きなインパクトを与えました。1991年にはSEMによりDNA二重らせん構造を観察し、エイズウイルスの観察とともに世界で初めての成功事例として、医療・バイオ分野の発展に大きく貢献しています。その後も、材料・デバイス工学分野の材料観察・分析に応用されるなど産業の発展に大きく寄与し、現時点で世界最高の分解能(0.4nm)である「超高分解能電解放出型走査電子顕微鏡SU9000Ⅱ型」の実用化にもつながっています。
「臨界点乾燥器(愛称:ドカン)」で用いられる臨界点*4乾燥法は、臨界点状態で液体の表面張力が消失する現象を利用した乾燥法で、1951年、Andersonによって紹介され、1960年代後半にSEM試料作製に用いられるようになったものです。他手法に比べ、微細構造をよく保存した良好な試料を作製できることが示され、SEM試料作製を支える重要な手法となっていきました。鳥取大学医学部解剖学教室の田中敬一教授は、企業と連携してAnderson式の装置を独自に改良した国産第1号となる「ドカン」を開発し、1971年7月から使用開始されました。
その後、日立はこの機器をモデルとして、「日立HCP-1型臨界点乾燥器」を開発・上市しました。FE-SEMと同時期に誕生した「日立HCP-1型臨界点乾燥器」および後継機の「日立HCP-2型臨界点乾燥器」は、日本の多くの研究者に利用されてきました。SEMの試料作製では欠くことのできないこれらの装置を用いて多くの研究論文が科学雑誌に発表されていることから、日本のSEMを用いた細胞・組織の3次元微細形態解析の礎を築いた機器と評価されています。
日立ブランドの電子顕微鏡は、1972年に世界に先駆けて実用化された電界放出型電子顕微鏡が2012年に「IEEEマイルストーン認定*5」を受けるなど、顕微鏡学の学術的・技術的発展および幅広い分野の研究・開発・製造の現場における課題解決に貢献してきました。
日立ハイテクグループは今後も、「解析・分析」のコア技術を磨きあげ、注力市場における専用計測・検査ソリューションの創出をめざし、「環境・レジリエンス・安全安心」の分野における社会課題解決に貢献していきます。
*1 FE-SEM (Field Emission Scanning Electron Microscope):電界放出形走査電子顕微鏡。FEは、先端が針状の陰極(電子放出素子)に強い電界を加えると高密度の電子が放出される現象。
*2 高輝度電子銃:ビームスポットを強く細く絞り込んでも明るさが不足しない電子銃。
*3 インレンズ方式:対物レンズの中に試料を挿入する方式。
*4 臨界点:物質の三態(固体・液体・気体)の間にある状態を指す。
*5 IEEEマイルストーン認定:世界最大の電気・電子・情報・通信の学会であるIEEEが、電気・電子・情報・通信分野において達成されたイノベーションの中で、開発から25年以上が経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をしたと認定される歴史的偉業を表彰する制度。(参考: https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/ieee/)
日立ハイテクについて
日立ハイテクは、医用分析装置、バイオ関連製品、放射線治療システム、半導体製造装置、分析機器、解析装置などの製造・販売に加え、モビリティ、コネクテッド、環境・エネルギーなどの産業分野における高付加価値ソリューションの提供を通して、幅広い事業領域においてグローバルな事業展開を行っています(2024年3月期日立ハイテクグループ連結売上収益は6,704億円)。強みである「見る・測る・分析する」というコア技術をベースに、事業を通してさまざまな社会課題解決および持続可能な社会の実現に貢献していきます。
詳しくは、日立ハイテクのウェブサイトをご覧ください。
お問い合わせ先
株式会社日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部
CTシステム製品本部 CTソリューション開発部 [担当:立花]
〒105-6409 東京都港区虎ノ門1-17-1虎ノ門ヒルズビジネスタワー
E-mail:shigeaki.tachibana.fz@hitachi-hightech.com