愛媛大学附属高等学校の前身は、1900年(明治33年)に創立された愛媛県農業学校である。その後、1956年(昭和31年)に愛媛大学農学部附属農業高等学校になった。2008年(平成20年)には総合学科に改組され、愛媛大学の全学部に所属する愛媛大学附属高等学校になり、四国で唯一の国立高等学校としてSGH(スーパーグローバルハイスクール)やWWL(ワールドワイドラーニング)に指定された。科学分野の教育にも熱心で、夏休み中の高大連携授業として1年生では「基礎科学実験」、2年生では「応用科学探究」が行われている。また、2年生必修の「課題研究Ⅰ」では理系学部の大学教員から指導を受けるテーマを選択する生徒も多く、3年生では約4割の生徒が選択科目「課題研究Ⅱ」を履修し、理系の生徒はそのうちの約半数を占めている。
理科部が発足したのは2009年(平成21年)で、現在は27名の部員が5つの研究班に分かれて活動している。今回ご紹介する研究班「プラガールズ」には8名の生徒が所属。2020年(令和2年)から研究活動を開始した、環境に影響を与えるプラスチックについての研究成果でコンクール等における受賞歴も多く、啓発活動にも熱心に取り組んでいる。
(ご参加いただいた皆さん)
中川和倫先生・近藤さん(3年)・村上さん(3年)・廣江さん(2年)・門田さん(2年)・蔵野さん(2年)・竹ノ内さん(1年)・森川さん(1年)・垣内さん(1年)
海洋生分解性プラスチック開発の様子。毎日あっという間に時間が過ぎていくとのこと。
プラスチック食ミールワームの観察。皆さんの表情が本当に明るい。
生徒の皆さんに「同志」と親しまれる中川先生とプラガールズの面々。1人、男子で参加する垣内さんの自然な溶け込み方が最高。
中川:現在プラガールは、「海洋マイクロプラスチック調査」「海洋生分解性プラスチック開発」「プラスチック食ミールワームの腸内細菌からのプラスチック分解菌探索」「海洋性細菌の微生物型ロドプシン研究」の4つのテーマで研究を行っています。私が指導上いつも意識していることは、目標を持って楽しく研究すること。発表に際しては「内容が伝わらないと意味がない」という意識を常に持ち、専門的な研究であっても、それを知らない人が理解できる表現になるよう工夫する大切さを生徒たちには伝えています。そして何より、指導者が楽しまないと生徒も楽しく活動できないと思っていますので、生徒と一緒におもしろがって研究を進めています。私にとって生徒は「コンテストでともに戦う戦友」ですね。
村上:確かに中川先生は、先生というより一緒に研究をする同志という感じです(笑)。こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかという議論をいつもしてくれますし、遠慮せず何でも言えるのですごく感謝しています。私がここまで研究にのめり込めたのも、先生から良い感じに刺激をいただいてきたのが大きいと思います。海洋生分解性プラスチック開発の様子。毎日あっという間に時間が過ぎていくとのこと。
近藤:私はそもそも科学には特に興味もなく、小学校の頃からずっと医療系に進みたいと思っていました。たまたま生物基礎の授業の作業が残っていて、偶然その部屋を使っていた理科部の様子を見る機会があったんです。そこに電子顕微鏡があって、最初は「何だろう、この四角い箱は」と思いました。みんなすごく楽しそうに、そして熱心に作業をしていて、引き込まれるように話を聞いてしまいました。さらに電子顕微鏡も見させてもらい、私の中の科学への気持ちが開いてしまった感じです。電子顕微鏡が私の将来を変えてしまったというか。今は、この先もずっと環境問題を扱う研究をしていきたいと思っています。
村上:私も将来はこの研究を続けていきたいと思っています。今3年生でまさに受験なのですが、この研究が続けられるところに進みたいです。行きたい大学は結構難関なのですが、先日「もし試験に落ちても、一緒に研究ができたらうれしいです」と大学あてにメッセージを送りました。
門田:私は理科にもともと興味があったのですが、プラガールに入った理由は村上さんと近藤さんが本当に楽しそうに活動されている姿を見たからです。その姿を見て、研究テーマ自体にも興味を持つようになりました。
蔵野:私もお二人が本当に楽しそうに研究をしているのを見て、引き込まれました。
森川:私は将来、医療関係の仕事に就きたいと思っています。生命についてすごく興味があり、プラスチックの問題も解決していけば、魚など海の生物だけではなく人間の命にもつながってくると考えています。自分の研究で何かの命を助けることができるのは誇らしいことだなと思ってプラガールズに入りました。
海から収集してきた海洋マイクロプラスチックの調査。1年生が最初に担当することが多い。
Miniscope は研究にフル活用されている
電子顕微鏡写真(分解中のPHBと分解菌)
電子顕微鏡写真(海洋性細菌)
村上:研究では本当に多くの場面で電子顕微鏡が活躍しています。海洋プラの調査では、海から取ってきたマイクロプラスチックの表面の観察はもちろん、海で育てられている海産物、例えばノリへの影響(マイクロプラスチックの付着)などの観察にもとても役立っています。
近藤:海洋生分解性プラスチックの開発では、私たちが作ったPHB製のプラスチックが海の細菌によって本当に分解されるのかを電子顕微鏡で定期的に観察しました。その際、分解されている様子を分かりやすく記録することができて、分解されている事実を証明するための説得力を持たせることができました。
この観察では、環境にやさしいといわれているバイオマスプラスチックが配合されているレジ袋が世間の認識とは大きく異なるものであるという事実が判明したりもしています。多くの人が、このレジ袋だったらその辺に捨てても土にかえるようなイメージを持っているかもしれません。しかし同じように観察していくと、土の中ではほとんど分解されていないという事実が分かりました。むしろバイオマスプラスチックは紫外線によって物理的に分解され、より細かいナノプラスチックとなり空気中に飛散してPM2.5のような汚染物質になるのではないかという心配があります。もちろん石油を使用しないという利点はありますが。
村上:分解酵素分泌細菌の探索の基本はプラスチックの表面の分解の様子の観察ですので、ここでも電子顕微鏡はとても活躍しています。プラスチック分解菌とおぼしき細菌を液体培地の中で培養し、これにプラスチックを漬け込んで表面の変化を記録していくのですが、実は先日、プラスチック分解菌とおぼしき細菌の写真の撮影に成功しました。
中川:海洋性細菌の微生物型ロドプシン研究は、海洋性細菌を培養する作業の中で発見した微生物型ロドプシンの持つ凄い可能性についての研究です。微生物型ロドプシンはタンパク質の一種なのですが、これが環境問題の解決に役立つのではないかと考えています。わずかな光を生きるためのエネルギーに変えることができる物質で、太陽電池のように強い光を当てなくても、弱い光でエネルギー利用ができる技術につながるのではないか、その可能性について研究しています。
門田:この研究では、微生物型ロドプシンの色素変化のメカニズムを解明することが必要です。そのため、電子顕微鏡による色違いの菌体の変化の観察は非常に大切です。
村上:私たちは、海に流れ出すプラスチックの正体を見極め、その上でプラスチックを分解する細菌の探索や、自然に分解されていくプラスチックを作り出す研究をしていますが、そこで何より大切なのが、プラスチックや細菌がどのように変化していくのか、その一つひとつを電子顕微鏡を通して自分の目で確かめ、記録していくことです。これが研究に説得力を持たせる上でも本当に重要で、電子顕微鏡はこの大切な部分で本当に役立っています。
2023年8月、超異分野学会での発表の様子(大阪)
コンテスト等に持参する部のノボリを囲んで
村上:私たちがこの研究活動を通して感じるのは、科学は世の中を変えることができるということです。プラスチックの問題にしても「使わない」という考え方ではなく、人はプラスチックを使わなくては生活できないのだから、科学の力で共存していく方法を探ろう、そんな考え方ができるようになりました。そして、誰もやらないのなら自分がやる、そんな風にも思えるようになりました。高校生活の中ではまだまだ時間が足りません。だから、この先もずっと研究を続けていきたいと思っています。
近藤:毎日授業が終わった放課後、さらに土日も研究を行っているのですが、毎日が本当に楽しいです。昔は家に帰ることしか考えていなかったのに、すっかり変わりました。今は自分の家にも電子顕微鏡が1台欲しいと心の底から思います(笑)
理科部は総合学科に改組された翌年の2009年に発足。現在は27名の部員が5つの研究班に分かれて活動中。その活動において多彩な受賞歴を持ち、プラガールズの代表的なものでも2021年度のグローバルサイエンティストアワード“夢の翼”・文部科学大臣賞、海の宝アカデミックコンテスト・準優勝、全国ユース環境活動発表大会・国連大学サステイナビリティ高等研究所所長賞、2022年度はイオンエコワングランプリ・内閣総理大臣賞、REHSE高校生自主研究活動支援事業・最優秀賞、マリンチャレンジプログラム・準優勝、2023年度は高校環境化学賞・最優秀賞、全国高等学校総合文化祭自然科学部門・奨励賞(ベスト8)などの実績がある。また、2022年5月に環境省の国際シンポジウムで、同年7月に国連大学の国際会議で世界に向けての発表も行った。