2030年の温暖化効果ガス削減目標と2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、リチウムイオン電池は自動車の電動化や再生可能エネルギーの主力電源化を実現するための最重要技術の一つです。日本でも急速に拡大する市場に対応するため、リチウムイオン電池の普及に力を入れています。生産能力の拡大とともに、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高め、充電速度を速め、寿命を延ばし、安全性を確保するための技術革新が続けられており、電池メーカーは技術革新と市場適応を両立させながら進化を続けています。
本記事では、リチウムイオン電池の製造工程と品質管理、その最新技術について解説します。
リチウムイオン電池製造工程 全体の流れ
リチウムイオン電池の製造工程には複数の重要なステップがあります。まず、原材料の準備と選定が行われ、高品質な素材が確保されます。その後、各工程に進み、正極材、負極材を調合してアルミ箔や銅箔上に均一に塗布、乾燥・圧縮工程を経て電極シートが完成します。
このとき、ドライルーム内で作業することが重要です。湿度管理された環境下で行い、水分による劣化や不純物の混入を防ぐことは、安全性の確保と性能向上につながります。
電極シートはロール状に成形され、セパレータ(絶縁体フィルム)を挟み積み上げ、一つのセルとして封止します。
最後に、充放電テストや品質検査を実施し、不良品の排除や最適な性能確認が行われます。
このような厳密な製造工程によって、高性能、かつ安全性の高いリチウムイオン電池が生産されていますが、一方で、発火や発煙などの課題も依然存在しており、対策のための技術開発も進められています。
リチウムイオン電池製造 各工程の手順と内容
リチウムイオン電池の製造工程は大きく、以下の3つに分けられます。
・電極製造工程…原材料からシート状の正極材、負極材を作成し、ロール状に巻く工程
・セル組立工程…正極材、負極材をセパレータと重ね合わせ、パッケージングする工程
・検査工程………完成した電池に充放電テストを行い、不良品を見つけ出す工程
各工程で行う作業の名称と、それぞれの内容について説明します。
電極製造工程
原材料からシート状の正極材、負極材を作成し、ロール状に巻く
# | 工程名称 | 内容説明 |
---|---|---|
① | 調合(混錬) | 電池材料(正極・負極材)を、ムラ無く塗ることが出来るよう、混合、攪拌しながら調合する。 |
② | 塗工・乾燥 | ①で調合した電池材料を、正極材(アルミ箔)と、負極材(銅箔)にムラ無く塗り、乾燥させる。 正極材、負極材はロール状に巻かれる。 |
③ | プレス | 正極材、負極材をそれぞれローラーで圧縮し、決められた密度(厚み)に成形する。 成形後は再びロール状に巻かれる。 |
④ | スリッター | ③プレス後、ロール状の正極材、負極材を、それぞれカッターで一定の幅のロールにカットする。 |
セル組立工程
正極材、負極材をセパレータと重ね合わせ、パッケージングする
# | 工程名称 | 内容説明 |
---|---|---|
⑤ | 電極切断・積層 | ロールからシート状に切断された正極材と負極材を、セパレータで挟みながら積み上げる。 |
⑥ | タブ溶接 | 積み上げられた電極群に集電タブを取り付ける。 |
⑦ | シール | アルミ箔と樹脂を接着剤の塗工で張り合わせたラミネートフィルムに、 ⑥までに製造された積層電極(積層エレメント)を、封止する。 |
⑧ | 注液 | 封止したラミネートフィルムの一部にある注入口から、電解液を注入する。 |
⑨ | ガス抜き最終シール | 電池構成材料により、注液後、充電する際に膨れが起こる場合があり、 その際はガス抜きを行い、封止し直して、再度充電にかける |
検査工程
完成した電池に充放電テストを行い、不良品を見つけ出す
# | 工程名称 | 内容説明 |
---|---|---|
⑩ | 充放電 | 本充電(通常、充電上限電圧まで)を行い、初回放電容量を確認。 |
⑪ | エージング | 不良品をはじくために、電池の初期劣化を見て、出荷可否を判断。 電池の初期電圧降下(自己放電の為)により判定するのが一般的。 |
リチウムイオン電池製造工程における品質管理
品質管理のためのポイント
リチウムイオン電池の製造工程において、品質管理は極めて重要です。ポイントは二つあります。一つ目は、各工程での適切な製造装置の選定により、安全な構造の作り込みを実現することです。リチウムイオン電池の製造では、個々の部品や部品を組み合わせたモジュールの精密さが求められるため、各工程で使用する製造装置はそれぞれの用途にあった高精度なものが必要になります。
二つ目は、各工程で適切な検査・分析装置を選定し、異物混入などによる発熱や発火の原因を早期に特定し、電池の品質を確保することです。
製造欠陥があると、発火や爆発のリスクを伴うため、各国の規制当局はリチウムイオン電池の製造・輸送・使用に関する規制を強化しており、企業は品質管理を徹底し、安全性を確保するための技術開発に取り組んでいます。
そして、製造装置、ならびに検査・分析装置を適切に選定することは、安全性のみならず、生産性向上にも寄与し、CO2排出量の削減にもつながります。
リチウムイオン電池製造工程における最新技術
金属粒子の混入や電極変形などのリスクを排除
リチウムイオン電池ならではの高エネルギーの密度化を安全下で行うためには、金属粒子などの異物混入や電極変形などのリスクを排除することが大切です。
特に、異物混入は、電池の性能、安全性および歩留まりの低下にも直結することから、高性能なX線異物解析装置の導入による早期の異物検出が重要になります。
日立ハイテクのX線異物解析装置は、リチウムイオン電池で問題となる可能性のある20μm級の微小な金属異物を高速検出し、元素同定する検査装置です。検査条件の選択後、測定を開始するだけで、X線透過像の撮像から、金属異物の検出、その元素同定までを自動で実行します。
ドライルーム技術による効率化
リチウムイオン電池の製造工程において、ドライルーム技術は重要な役割を果たしています。リチウムイオン電池の製造では、水分の混入は厳禁です。空気中の水分にも注意が必要で、少しの水分が性能低下や劣化をもたらすため、湿度がほぼ0%の低湿度環境にて製造します。また、ドライルームはCO2排出量の削減にも寄与しており、持続可能な製造プロセスとして注目されています。日立ハイテクが提供するドライルームは、水分コントロール技術やCO2除去技術など競争優位性を発揮するコア技術を擁し、高気密配管や建材の選定を含む高性能なドライルームの設計に対応しており、高効率且つ省エネルギーでのリチウムイオン電池の製造が期待できます。
本記事では製造工程を詳しくご紹介し、品質管理のための最新技術について解説しました。
高品質なリチウムイオン電池を製造するためには、各工程で高い精度が求められます。新しい技術導入により、生産性向上と環境への配慮も進んでいます。
今後は、生産ライン全体で廃棄物管理とリサイクル・リユースプログラムが強化され、持続可能な製造プロセスへの移行がさらに加速することでしょう。