サステナビリティへの取り組み
サステナビリティへの取り組み
気候変動問題が深刻化するなか、温室効果ガス排出削減の取り組みとして、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)への切り替えが急速に進んでいます。こうした電動車の動力源となるリチウムイオン電池(※1)は使用履歴に応じて劣化が進みますが、その劣化状態を詳細に把握することは困難です。日立ハイテクは、こうした課題に目を向け、劣化状況を即時診断できる「電池劣化高速診断手法」を開発しました。電池の残存性能を可視化することで、EVに対する不安感を解消し、EV普及に役立てるとともに、使用済み電池の用途を広げ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)(※2)の実現にも貢献します。
「『電池劣化高速診断手法』は、EVの普及、電池の循環型経済の実現に貢献できるものだと思います。このサービスが広く利用されることで、環境問題に貢献できれば非常にうれしい。気候変動や大気汚染、それに伴う人的被害など、深刻化する問題に貢献できるような事業を展開していきたい」
「電池劣化高速診断手法」を開発した、日立ハイテク産業ソリューション事業統括本部事業開発本部の植田穣は、事業を通じた課題解決への意欲をこう語ります。
世界では、気候変動が深刻化し、自然環境や人々の暮らしに被害を与えています。こうした被害を抑えるために、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度未満にしようと、国際社会が「脱炭素」に向けて舵を切っています。
欧州各国や中国など、世界各地でガソリン車規制が相次ぎ、日本も電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)など電動化を目指すこととなりました。
今後EVやPHVにシフトするうえで、電池の残存性能の分からない状態で利用することへの不安や、性能に合わせて最後まで活用しきる循環型経済の構築は大きな課題です。
そうした課題を起点に、日立ハイテクは2020年11月、リチウムイオン電池の性能劣化や余寿命を瞬時に評価する「電池劣化高速診断手法」を開発。「リチウムイオン電池ライフサイクルマネジメントソリューション」として、サービス提供の準備を進めています。
「日立ハイテクの強みに『見る・測る・分析する』技術があります。この技術を生かして何ができるか。どのような形で環境問題に貢献できるのか。EV普及の課題をどう解決できるのか――。議論を重ねるなかで、今回のサービスのアイデアが生まれました」
日立ハイテク産業ソリューション事業統括本部事業開発本部の藤本博也は、開発の経緯を話します。
EVの利用には、リチウムイオン電池の残存価値、つまり電池がどの位使えるかを正確に把握することが大切ですが、診断には時間がかかります。1台で4時間かかるとすると、1日に検査できるのはわずか2台です。
「EVを取り扱う事業者の方に話を聞いていくと、電池の劣化のために突然走れなくなることを恐れ、実際の運用台数より多くの台数を保有し、さらに管理しづらい悪循環に陥るケースもありました。これでは本来ランニングコストや環境のためにEVを導入しているにもかかわらず、逆効果になってしまいます。そうした困りごとを解決したいと思い、サービスの開発を進めていったのです」(藤本)
日立ハイテクの「リチウムイオン電池ライフサイクルマネジメントソリューション」では、診断時間をこれまでの2~4時間から、数秒~2分程度に大幅に短縮できます。手持ちの機器から取得した電池の充放電データをクラウドで管理し、解析して戻す、利用者に負担の少ないサービスパッケージです。
「放電する時の解析パターンに当社のノウハウがあり、短時間での解析を可能にしました。時間やコストの問題で、これまで抜き取り検査しかできなかったところが全数検査できるようになります。これにより電池の状態に関するEVユーザー様の不安や負担を解消し、よりEVを活用しやすくすることで、普及に貢献していきたいです」(植田)
日立ハイテクの「リチウムイオン電池ライフサイクルマネジメントソリューション」は、EVの普及を後押しするだけではなく、電池の状態を把握できることで資源の有効活用にもつながります。
EVの電池は高性能。例えばEVとしては使えなくなっても、モジュールを取り出して組み合わせれば、フォークリフトやゴルフカート用の電源、店舗や家庭用のバックアップ電源への利用など、さまざまな用途が広がります。これは貴重な鉱物資源を採掘して製造した電池を最後まで使い切ることにつながります。
「日立ハイテクでは、車としても電池の行き先としても、『循環の選択肢を増やすことが、本当の意味でバッテリーを活用しきること』と捉えています。その枝分かれのタイミングで、簡易的かつ精度の高いソリューションを提供することで、EVの循環に貢献できるのではないかと考えています」(藤本)
EV電池はこれまでリサイクル・リユースの流通ルートがほとんどなく、残存性能が分からないために処分するしかありませんでした。今後残存性能を可視化できれば安心して中古電池を売買できる、中古市場も形成できそうです。
今回の発表後、電力サービス事業者、リサイクル事業者、再生電池事業者、蓄電池関連メーカー、リース業者、保険会社、商社など、様々な業種から関心が寄せられました。新たなビジネスへの議論が始まり、電池の情報をハブとして事業者様同士の橋渡しをすることも視野に入れています。
「サーキュラーエコノミーは、各プロセスの事業者がつながって初めて実現が可能です。こうしたプラットフォーム型の事業は当社としても初めてですが、新たな形で社会に貢献していけたら」と、藤本は意気込みを語ります。