Vol.10
再生可能エネルギーの導入ポテンシャルから、日本の地域毎の再エネ政策を考えてみる
再生可能エネルギーの中で大きな割合を占めている太陽エネルギーに注目し、日本太陽エネルギー学会の監修により基礎解説をしていく本連載。最終回となる第10回目は、日本における「再生可能エネルギーの導入ポテンシャル」を紹介します。再生可能エネルギーの導入ポテンシャルとは、現在の技術水準では利用困難なものや法令・土地用途などによる制約があるものを除き、賦存量の中で利用可能とみなせる再生可能エネルギーの潜在的な量を意味します。
今回は、環境庁の再生可能エネルギー情報提供システム(PEPOS)のデータを基に導入ポテンシャルを把握するとともに、これから日本の地域毎にどのように再エネ政策を考えていくべきか、東京農工大学工学研究院の秋澤淳教授に解説いただきました。
導入ポテンシャルは、経済性を考慮すると風力が最も大きい
環境省ではREPOS(Renewable Energy Potential System)という再生可能エネルギー情報提供システムを構築しています(参考文献1)。その中では太陽光、風力、中小水力、地熱、地中熱、太陽熱について導入ポテンシャル(潜在的な導入可能量)が推計されています(参考文献2)。
ポテンシャルの推計においては、現在の技術水準では利用困難なものや法令・土地用途などによる制約があるものを除き、賦存量の中で利用可能とみなせるものを「導入ポテンシャル」と呼んでいます。さらに、事業採算性の観点から経済性が見込めるものを「経済性を考慮した導入ポテンシャル」と定義しています。なお、再エネ発電の導入においては受け入れる系統側の条件や個別の地域事情なども影響しますが、それらは考慮されていません。
<図1>に、発電に関して再エネ種別ごとに、導入ポテンシャルと、経済性を考慮した導入ポテンシャル(高位推計および低位推計)について設備容量(億kW)をグラフに示しました。
<図1>を見ると、設備容量ベースの全導入ポテンシャル(各項目の左の棒)では太陽光発電が圧倒的に大きく、2番目が洋上風力です。中小水力や地熱のポテンシャルは小さいと言えます。しかしながら、太陽光発電の経済性を考慮した導入ポテンシャルは約4,000万kW(低位推計・各項目の右の棒)〜4億kW(高位推計・各項目の真ん中の棒)と、大幅に縮小してしまいます。
一方、陸上・洋上を合わせた風力発電の経済性を考慮した導入ポテンシャルは3億kW(低位推計)〜6億kW(高位推計)と、導入ポテンシャルの2〜4割程度に経済性が見込まれます。中小水力発電の経済性を考慮した導入ポテンシャルは約300万kW(低位推計)〜400万kW(高位推計)、地熱発電は900万kW(低位推計)〜約1,000万kW(高位推計)です。したがって、風力発電の潜在的な導入可能性が非常に大きいことがわかります。
<図2>はこれらの設備から得られる1年間の発電量の導入ポテンシャルです。控えめに、低位推計の数値を取ると、太陽光発電が470億kWh/年、陸上・洋上を合わせた風力発電が9,700億kWh/年、中小水力発電が170億kWh/年、地熱発電が630億kWh/年となります。太陽光発電に比べて風力発電の導入ポテンシャルは大幅に大きく、特に洋上風力発電に期待できる発電量が多いことがわかります。全ての再エネ発電による発電量の合計は、低位推計で1.1兆kWh/年、高位推計で2.6兆kWh/年と推計されています。
導入ポテンシャルは日本の全電力需要と同等から2倍あるが、導入可能な立地は必ずしも全国満遍なくとはなっていない点に注意
ところで、2019年度における従来型発電と再エネ発電を合わせた発電量の合計は約1兆kWh/年です。すなわち、再エネ発電の低位ポテンシャルは現状の日本の全電力消費量と同等ということです。高位ポテンシャルでみれば現状の電力消費量の2倍となります。
電力需給は時々刻々で供給量と需要量が一致しなければなりませんので、単純に1年間の総量を比較するのは必ずしも正確ではありませんが、再エネによる電力供給量の合計は日本の電力消費量を賄うことができるぐらいの量があると言えます。時間的な需給のミスマッチを解消するための蓄電設備があれば、余剰となる再エネ電力を蓄えて、太陽光発電が働かない夜間の電力負荷に供給することが可能になります。
蓄電機能は従来の揚水発電やリチウムイオン電池、電気分解によって水素に変換して蓄えるなど、様々な方法が考えられます。近年風力発電等による余剰電力を熱に変え、500℃程度で溶融塩に蓄えられた熱から蒸気タービン発電を用いて電力に戻すカルノーバッテリーと呼ばれる技術も研究されています。
ここで、再エネの導入可能な立地は、必ずしも日本全国満遍なくとはなっていない点に注意が必要です。<図3><図4>にREPOSによる陸上風力発電と洋上風力発電の導入可能量の地理的分布を示しました(参考文献3)。図中の色分けは低位〜高位の推計に対応しています。
陸上風力発電のマップでは、東北、北海道に多数分布していることが見て取れます。洋上風力発電については、低位推計(図中の緑)では北海道・東北と千葉・静岡・愛知付近に分布が多く、高位推計(図中の赤)になるとさらに、和歌山・四国・九州に分布が広がっています。風力発電に限らず、地域によって再エネの導入ポテンシャルは大きく異なります。
ただし、分布があることを逆に解釈すれば、地域によっては再エネ資源が十分にあり、対外的に供給できるケースもあることを意味します。
導入ポテンシャルから見えてくる再エネ政策〜
再エネで地域の電力需要をまかない外部に供給する未来
その地域のエネルギー需要のすべてを当該地域の再エネのみで賄える地域を「エネルギー永続地帯」と定義した研究が行われています(参考文献4)。その報告書によると、2019年度時点で、日本には1,718市町村のうち、エネルギー永続地帯が138市町村あるとされています。
再生可能エネルギーは密度が薄いエネルギーであるため、再エネを回収するには広い面積を必要とします。都市部にはそれだけの土地の余裕がなく、地方は逆に有利となります。近年、田畑等の農地の上部空間を活用して太陽光発電を設置する「ソーラーシェアリング」(営農型太陽光発電(参考文献5))が注目されています。ソーラーシェアリングは単に再エネ発電であるだけでなく、農作業環境の改善、農業収益の支援など多面的な価値を提供するものです。農業に限らず、再エネ導入は地域の産業と結びつきを強めていくことが期待されます。
地域がそこに存在する再エネポテンシャルを顕在化させることができれば、外部へのエネルギー依存度を下げることになり、ひいては電力費や燃料費として外部に支払ってきた費用を地域内部に取り込むことができます。地域の中で資金が回転すれば、それだけ地域経済が拡大します。言い換えれば、再エネ導入は二酸化炭素の排出抑制だけではなく、地域の経済にも密接に結びついた地域発展の有望なリソースです。したがって、それぞれの地域の立場で再エネ導入を捉え、開拓し、有効活用することが重要であると言えます。
太陽エネルギーを起源とするもの/しないものも含め、電力も熱も再生可能エネルギーにシフトしていくことは時代の大きな要請です。地球温暖化による気候変動を回避し、将来世代に暮らし良い環境を残すことは現世代の責務といえます。
IEA(International Energy Agency)によるNet Zeroシナリオ(参考文献6)によれば、世界の電源構成(発電量)に占める再エネ比率は、2030年に61%、2050年には88%と見込まれています。それに対し、日本の2030年の見通しは40%に届いていません。再エネ導入の世界的な潮流に大きく遅れをとることは、21世紀における日本の競争力の足を引っ張ることが懸念されます。100年を超える長期にわたりエネルギーの持続可能性を確保するには、再生可能エネルギーの開拓が最も確実な選択肢と考えられます。
再生可能エネルギーは技術の問題にとどまらず、経済や社会の仕組み、地域づくりにも広くつながっています。大きな枠組みの中で再エネを捉え、読者の皆さんができることから再エネ導入や利用に取り組むことを期待したいと思います。
「Think Globally, Act Locally!」。再エネにコミットしましょう。
文/秋澤 淳(日本太陽エネルギー学会、東京農工大学工学研究院 教授)
監修協力/日本太陽エネルギー学会
太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。
参考情報
- 「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)」(環境省)
- 「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」(環境省)
- 「環境省地球温暖化対策課調査 我が国の再生可能エネルギーの導入ポテンシャル」(環境省)、2020年3月
- 「永続地帯2020年度版報告書」(千葉大学倉阪研究室・環境エネルギー政策研究所) 、2021年4月
- 「営農型太陽光発電について」(農林水産省)
- 「Net Zero by 2050-A Roadmap for the Global Energy Sector」(国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency))、2021年5月