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Vol.9

水素エネルギーとは。製造プロセスの種類による色分けや利用形態を分かり易く解説

再生可能エネルギーの中で大きな割合を占めている太陽エネルギーに注目し、日本太陽エネルギー学会の監修により基礎解説をしていく本連載。第9回目は、太陽エネルギーなどを使って製造することができ、燃料電池などで利用される「水素エネルギー」についてです。太陽光発電や風力発電などの変動が大きい自然エネルギー、そして季節や昼夜で大きく変動するエネルギー需要に対応するため、その運び手と調整役として水素エネルギーが期待されています。水素需要シナリオを紹介しつつ、製造プロセスの種類によって色分けされる水素の種類や燃料電池など水素の利用形態について、日本太陽エネルギー学会理事で東海大学の木村英樹教授に解説していただきます。

水素需要シナリオ〜輸送と合成燃料製造の部門で水素の需要が大きく伸びる

経済産業省は、グリーン成長戦略で2030年に水素導入量を最大300万トンとする方針を検討しています。日本のシンクタンクの富士経済が2021年10月19日に発表した日本国内の水素関連市場の調査結果によれば、水素燃料から水素の輸送、供給、利活用を含めた水素関連市場は、2035年度に2020年度比268.6倍の4兆7,013億円に拡大し、そのうち水素燃料の市場規模は2020年度(約9億円)比3,879.3倍の3兆4,914億円に成長すると予測されています。(参考文献1)

水素は使用の際に一切のCO2を発生ないため、次世代のエネルギーとして注目されています。ただし、水素は自然界にそのままの状態で存在しないため、水素化合物から何らかの方法で水素を取り出す必要があります。再生可能エネルギーである太陽光発電で生じた電気から水を電気分解して水素を製造するグリーン水素は、最もクリーンなエネルギーであると言えますが、残念ながらこの方法では現状では水素製造のコストが高いという点が課題になっています。そこで今回は、さまざまな水素製造および利用のプロセスを紹介します。

水素(H)は酸素(O)と結びついて、水(H2O)と熱になります。水素は酸素を混ぜて着火すると爆発的に燃焼することから、ロケットの推進剤として使われています。また、理科の実験で、金属を塩酸で溶かしたり、水を電気分解したりという経験があると思いますが、そのときに出てきた気体も水素ガスです。爆発力が強く危険なイメージを持たれやすいですが、1分子あたりの熱量はメタンガスなどの炭化水素よりも小さいのです。

石油由来のガソリンや軽油、石炭や天然ガスなどは、炭素(C)と水素が結びついた炭化水素という分子を含んだ混合物です。炭化水素を燃やすと、二酸化炭素(CO2)と水が同時に排出されます。このCO2は地球から放出される赤外線を吸収する温室効果ガスとして働き、地球温暖化の原因になっていると言われています。ところが、水素を燃やしても出てくるのは水だけです。つまり水素エネルギーは、地球温暖化を抑止する切り札の一つとして役立つと期待されています。

今後、クリーンな水素の需要は年々増加すると期待されています。国際エネルギー機関による水素需要シナリオを<図1>に示します。今後は、とくに輸送と合成燃料製造の部門で、水素の需要が大きく伸びると考えられています。(参考文献2)

<図1>国際エネルギー機関による部門別水素需要シナリオ (IEA, Global hydrogen demand by sector in the Sustainable Development Scenario, 2019-2070を基に木村英樹氏作成)
<図1>国際エネルギー機関による部門別水素需要シナリオ (IEA, Global hydrogen demand by sector in the Sustainable Development Scenario, 2019-2070を基に木村英樹氏作成)

水素は製造プロセスの種類によって色分けされている

水素にはさまざまな製造方法があります。水を電気分解することで水素を生産できることは知られていますが、その他にもいくつかの方法があります。現状で最も生産量が多いのは副生水素です。副生水素は石油の精製や、製鉄、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)等を製造する工程で、副次的に生成されます。その多くは工場内で自家消費利用され、一部は外販されています。

天然ガスやバイオマスから生成したメタンガスに、水蒸気を加えて改質する水蒸気改質法でも水素を効率よく作ることができます。

水素は、製造するプロセスの種類によって、<図2>のように色分けされています。ここでは、代表的なグリーン水素、ブルー水素、グレー水素について紹介します。

<図2>製造プロセスの違いによる水素の色分け(提供:木村英樹氏)
<図2>製造プロセスの違いによる水素の色分け(提供:木村英樹氏)

グリーン水素

グリーン水素は、太陽光や風力発電から得られる電力で作られるCO2を出さない製造プロセスで得られる水素です。日本では、福島県浪江町にFH2Rというグリーン水素製造施設が建設され、実証試験を行っています。また、ENEOS横浜旭水素ステーションでは、グループ内企業による太陽光発電などのグリーン電力を使って水を電気分解し、得られた水素を供給できる仕組みとなっています。

<写真1>福島県浪江町の「グリーン水素」製造施設FH2R
<写真1>福島県浪江町の「グリーン水素」製造施設FH2R
<写真2>「グリーン水素」を提供するENEOS横浜旭水素ステーション
<写真2>「グリーン水素」を提供するENEOS横浜旭水素ステーション

ブルー水素

ブルー水素は、大気中にCO2を放出しない製造プロセスで得られる水素です。オーストラリアのビクトリア州では、石炭よりも低品質で使い道に乏しかった褐炭を改質して液体水素を作っています。この製造プロセスの中ではCO2が発生しますが、これらは回収され地中に貯蔵されます。このような技術はCCS (Carbon Capture & Storage)と呼ばれています。このブルー水素を、極低温の-253℃の液化水素にして、魔法瓶のような構造のタンクを持った液化水素運搬船で、オーストラリアから日本へ輸送しようという計画が川崎重工業、岩谷産業、J-POWERなどの企業で構成される団体HySTRAによって進められています。

<写真3>「ブルー水素」を運ぶ川崎重工業が製造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
<写真3>「ブルー水素」を運ぶ川崎重工業が製造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」

グレー水素

グレー水素は、大気中へのCO2の排出を伴う製造プロセスで得られる水素です。天然ガス(メタンガスが主成分)を改質して水素を製造することは、現時点ではもっとも一般的な方法です。水蒸気を加えて水素を製造する場合、メタンガスをそのまま燃焼するよりもCO2発生量を抑えることができます。近年、家庭用に普及しているコージェネレーションシステムのエネファームはこの仕組みです。メタンガスに水蒸気を加えて水素を取り出し、その水素から燃料電池を使って発電します。

エネルギーキャリアとして注目される水素

電気は送電線で効率よく遠くに運ぶことができますが、唯一の弱点は、安価かつ大量に貯蔵することが難しいことです。

電気を蓄えるものとして、電池(蓄電池)があります。鉛蓄電池やニッケル水素電池など多くの種類の電池があります。1990年代後半にリチウムイオン電池が登場し、スマートホンやノートPCなどの小型機器で利用されるようになりました。その後、技術開発によって大容量化や低価格化が推し進められ、大型バッテリーを搭載した電気自動車が普及し始めています。しかし、現在もなおバッテリーは重く高価であるという課題が残されています。バッテリーを充電するには、長い時間がかかってしまうという欠点もあります。さらに、バッテリーの電極材料を精製する際に、多量のエネルギーが必要となることも問題であるといわれています。

一方、水素は空のタンクがあれば貯蔵することができます。つまり、余った電気があれば水素を作ってタンクに貯めておくことができるのです。このようなメリットは、天候や時刻とともに変動する再生可能エネルギーの出力を調整し、安定化させるのに適しています。しかし、熱量が小さいのでガスの状態で遠くへ運ぶには、天然ガス用のものよりも太いガス管(パイプライン)が必要で、漏れないように管理することが難しいのです。

-253℃と極低温にすると液体にすることができますが、ここまで冷やすためにはエネルギーが必要で、高性能な断熱容器に入れて運ばなくてはなりません。圧縮機で高圧ガスにして蓄える方法もありますが、ここでもエネルギーが必要となり、燃料電池車で使うためには、炭素繊維で作られた軽量で強固なタンクが必要となります。そこで、運びやすくすることを目的として、水素を液体のアンモニアや有機ハイドライドに改質するというアイデアもあります。

<写真4>アンモニア輸送用コンテナ(提供:アブダビ国営石油ADNOC)
<写真4>アンモニア輸送用コンテナ(提供:アブダビ国営石油ADNOC)

水素のエネルギーキャリア事例〜燃料電池の構造と燃料電池自動車

水素は、ガソリンと同じようにエンジンで爆発させてクルマを動かすこともできますが、それよりも高効率で静かな方法として、燃料電池で電気に変える方法があります。燃料電池(固体高分子型燃料電池)を構造図に示します。

<図3>燃料電池の構造(提供:木村英樹氏)
<図3>燃料電池の構造(提供:木村英樹氏)

燃料となる水素分子H2は、触媒効果をもつプラチナ(Pt)により、プラスの水素イオン(H+)と、マイナスの電子(e-)に分離します。電解質膜は水素イオンのみを通す性質があり、電子は外部に電気回路があると燃料電池から流れ出します。反対側からは空気が供給され、そのなかの酸素分子(O2)がプラチナで酸素原子に分離され、外部回路を通ってきた電子と結びついて負の電荷をもったマイナスの酸素イオンになります。酸素イオンと電解質膜を通ってきた水素イオンは、結合して水(H2O)となり、燃料電池外部へ排出されます。このような電荷の流れによって電流が流れ、燃料電池は電池として働きます。しかし、燃料「電池」とはいっても、水素を与え続ければ電気を生み続けるので、発電機として見た方が本質的ではないかと思います。

燃料電池の変換効率は、その種類や運転状況などによって異なりますが、40~60%程度のものが多いです。エンジンよりも高効率で、CO2を出さず、静かという長所があります。小型な燃料電池であっても、大きな火力発電所と同等の高い効率で運転できるため、住宅地において分散型のコージェネレーション(=電気と熱を同時に得る発電方法)の実現に最適です。なぜなら、燃料電池からの廃熱は、近くであれば給湯や暖房に利用することができ、総合エネルギー効率を80%以上に高くすることができるからです。

CO2を出さないという性質は、動き回る自動車や船など、CO2の回収が難しいモビリティにも向いています。たとえば、燃料電池車は電気自動車よりも航続距離が長く、水素充填の時間も短いという利点があります。トヨタの二代目MIRAIは、1回の水素充填で850kmの航続距離を確保し、空になったタンクは5分程度の短時間で満タンにすることができます。トラックやトレーラーのように重い積載物を遠くまで運ぶような用途には、システムが軽く、再充填速度が速い水素タンク+燃料電池+モーターの組み合わせが良いと考えられています。

また、現在の旅客機のCO2排出量は鉄道やバスに比べて多いことから、欧州では飛行機を利用することを「飛び恥」と呼ぶ人たちが現れ、高速鉄道や寝台列車で移動することを選択するケースが増えつつあります。NASA、JAXAなどの研究機関や、エアバス社などでは、超伝導モーターファンエンジンに水素燃料電池などを組み合わせて駆動し、飛行することができる新型旅客機の開発を進めています。

<写真5>トヨタMIRAIの燃料電池ユニット
<写真5>トヨタMIRAIの燃料電池ユニット
<写真6>トヨタの燃料電池自動車MIRAI
<写真6>トヨタの燃料電池自動車MIRAI

燃料となる石炭に水素やアンモニアを加えて燃やす「混焼」

水素は、エネルギーキャリアとしての利用だけでなく、そのまま燃焼して熱にしたり、発電に使うことができます。アンモニア(NH3)でも、同様なことができないか、開発が進められています。一方、CO2排出が多いと非難されることが多い石炭火力発電ですが、燃料となる石炭に水素やアンモニアを加えて一緒に燃やす「混焼」という方法を使うと、H2Oの排出が増え、CO2の割合を低めることができます。このような水素やアンモニアとの混焼は石油火力発電に対しても可能で、CO2排出量を大きく抑えることができます。とくに、液体のアンモニアは輸送や貯蔵が容易であることから、新たなエネルギーキャリアとして期待されています。アラブ首長国連邦UAEのアブダビ国営石油ADNOCには、CCSを備えたブルーアンモニアや尿素を生産する施設があります。

<写真7>UAEにあるアンモニアと尿素の生産施設「FRTTIL」(提供:アブダビ国営石油ADNOC)
<写真7>UAEにあるアンモニアと尿素の生産施設「FRTTIL」(提供:アブダビ国営石油ADNOC)

水素は大量輸送が難しいという課題はありますが、貯蔵が難しいとされている電気と組み合わせて、上手に利用していくことになるでしょう。たとえば、これからのクルマは電気自動車か燃料電池車かという議論をよく耳にしますが、近距離は電気自動車、長距離やトラックは燃料電池車というように、適性を生かした使い分けが行われることになるでしょう。太陽光発電や風力発電などの変動が大きい自然エネルギー、そして季節や昼夜で大きく変動するエネルギー需要に対応するため、その運び手と調整役として水素エネルギーは、今後ますます重要な役割を果たすことになるでしょう。

文/木村英樹(日本太陽エネルギー学会理事、東海大学教授)

監修協力/日本太陽エネルギー学会

太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。

参考情報

  • 「マーケット情報:水素関連の国内市場と海外動向を調査」(富士経済ウェブサイト)、 2021年10月
  • 「Global hydrogen demand by sector in the Sustainable Development Scenario, 2019-2070」(IEAホームページ)