Vol.2
太陽電池の構成単位、製造プロセス、性能指標および最新技術
第2回は、政府が表明した2030年度の温室効果ガス排出を2013年度比46%削減するという目標の達成に向け活用が期待されている「太陽電池」を紹介します。太陽電池の構成単位、太陽電池モジュールの製造プロセス及び性能指標、発電効率を向上させる条件や最新技術について解説します。
政府が2030年度の温室効果ガス排出を46%(13年度比)削減する目標を定めました。再生可能エネルギー比率の拡大のためには太陽電池の活用は必須であり、新築住宅への太陽電池の設置義務化の議論も開始されています。太陽電池は1839年に太陽の光エネルギーを吸収して直接電気に変える基本原理(光起電力効果)がフランスの物理学者ベクレルにより発見されたことに端を発します。1954年には世の中で最も普及しているシリコン系単結晶太陽電池がベル研究所のピアソン等により発明されました。(参考文献1~4)
太陽電池の構成単位、「セル」「モジュール」「アレイ」
シリコン系単結晶太陽電池の構成単位には「セル」「モジュール」「アレイ」があります。
「セル」は太陽電池の基本単位であり、15cm×15cm程度の大きさです。セルは、<図1>のように電気的な性質の異なる2種類(p型、n型)の半導体を重ね合わせた構造をしています。太陽の光が当たると、電子と正孔が発生し、正孔はp型半導体側へ、電子はn型半導体側へ引き寄せられます。このため、表面と裏面に形成した電極に電球のような負荷をつないだ場合は電流が流れます。この太陽電池セルの電流値は日射強度に比例し、太陽電池セル1枚の出力電圧値は約0.6Vとなります。
複数のセルを直列接続や並列接続にすることで必要な電流や電圧を変化させることができます。セルを必要枚配列して、屋外で利用できるよう樹脂や強化ガラスなどで保護し、パッケージ化したものを「モジュール」と呼びます。モジュールからはケーブルが出ており、モジュールを複数枚並べてケーブルで接続したものを「アレイ」と呼びます。
太陽電池モジュールの製造プロセス
太陽電池モジュールは<図2>のプロセスを経て製造されています。
まず、ウエハを製造します(<図2>上段)。二酸化ケイ素が主成分の珪砂を石炭などの炭材と混ぜアーク炉内(1,500℃~2,000℃)でシリカを金属級シリコンに還元した(SiO2+2C→Si+2CO)のちに、シーメンス法等で多結晶原料に変えてから、チョクラルスキー法(Czochralski、CZ法)と呼ばれる結晶成長を通して高純度で欠陥密度の少ないシリコンウエハの基になるSi(シリコン)インゴットを作製します。Siインゴットの両端をカットし、外周を研削してブロック化したのち、厚みが0.1mm程度になるようにワイヤーでスライスし、ウエハを製造します。
次に、ウエハから太陽電池セルを製造します(<図2>中段)。スライス時に発生したウエハ表面のダメージ層を薬液で除去した後に、太陽電池セルに入射した光の反射率を小さくするため、ウエハ表面にテクスチャ構造を形成します。太陽電池セルの特性向上のためにパッシベーション膜(役割:シリコン表面の未結合欠陥を終端化させる)や反射防止膜(役割:入射光を太陽電池セル内に閉じ込める)を製膜した後に、銀電極をスクリーン印刷で形成して、セルが完成します。
最後に、セルから太陽電池モジュールを製造します(<図2>下段)。前述したように、セル1枚では電圧が低いため、複数のセルをタブと呼ばれる金属の配線材で接続し(ストリング)、衝撃でセルが割れないように樹脂や強化ガラスなどで保護します。セルを周囲の環境に耐えるための封止をおこなった後、全体の強度をもたせるためのアルミの外枠(アルミフレーム)にはめます。
太陽電池モジュールの性能指標、「発電効率」「発電量」「発電コスト」
太陽電池モジュールの性能指標として「発電効率」、「発電量」、「発電コスト」が使われます。
発電効率
太陽電池に入射した光のエネルギーのうち電気エネルギーに変換した割合を「変換効率」と呼び、下記の計算で求められます。
・変換効率(%)=出力電気エネルギー÷入射する太陽光エネルギー×100
例えば、 変換効率が20%とは、晴天時の地上で日射強度が1kW/m2のエネルギー(日射強度の標準)とすると、このエネルギーを1m2の太陽電池に照射したとき、太陽電池の発電電力が200Wとなることを意味します。太陽電池モジュールの発電効率は、セルの発電効率より数%低くなります。これはセルの間の隙間やアルムフレーム幅の未発電領域やガラスによる光吸収があるためです。
発電量
1日あたりの発電量および年間発電量は、以下の計算で求められます。単位はkWhとなります。
・発電量=1日あたりの平均日射量×システムの容量×損失係数
・年間発電量=1日あたりの平均日射量×システムの容量×損失係数×365日
損失係数は太陽光発電が発電する上で発生する損失(ロス)のことを指しており、発電量を下げる要因として、気温、パワーコンディショナーの変換効率、パネル受光面の汚れ、経年劣化等を考慮する必要があります。日射量はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の日射量データベースを活用して、年間平均発電量を算出することができます。日本では、システム容量1kWあたり年間約1100kWhの発電量が得られます。実際には設置環境や設置条件によって発電量は変動いたします。
発電コスト
発電コストは以下の計算で求められます。
・発電コスト=設置費用総額÷発電量
設置費用総額は太陽電池システムの機材費以外に工事代や諸経費まですべて含めた金額であり、発電量には設置期間中に想定される発電量を用います。2021年度想定システム費用の1kWあたり27.5万円を使った場合、15年間で1kWあたり16,500kWhを発電するため、発電コストは約17円/kWhとなります。契約電力プランによっては、買電する電気代よりも安い状況になっています。以上のことから、シリコン系太陽電池モジュールでは製造コストの低減に加えて発電効率の向上と長寿命化により発電コストを下げることが分かります。
太陽電池の発電効率を向上させる条件と最新技術
太陽電池の発電効率の向上には、①光を太陽電池内に効率よく取り込んで、キャリアを発生させること、②発生したキャリアの再結合確率を減らすこと、③各種抵抗損失を減らすこと、が重要です。
シリコン系太陽電池モジュールは以上の点を改善するためにさまざまな新しい技術を導入し、変換効率を大幅に向上しています。5年前は量産品のモジュール変換効率は16%程度でしたが、最近は20%を超える太陽電池モジュールが主流になっており、高効率の製品の中にはモジュール変換効率22%のモジュールもあります。研究開発の世界記録として、株式会社カネカがモジュール効率は24.4%、セル発電効率は26.7%を報告しております(参考文献5)。
さらに、シリコン系太陽電池セルの発電効率の理論限界(約28%)を超えるために、ペロブスカイト太陽電池をシリコン系太陽電池上に積層したタンデム型の太陽電池が世界中で注目されています。これはシリコン系太陽電池単体では吸収できない(波長の)光を取り込むことで、発電効率を高めることができます。研究開発ではシリコン系太陽電池セルの理論限界を超える29.1%(参考文献5)が報告されています。量産化までにはモジュールの信頼性やコストの点で多くの課題がありますが、効率30%を超える太陽電池の実現が期待されます。
今後、EVのような電動の移動体や独立電源が必要なIoTデバイスが急速に普及しますので、シリコン系太陽電池にフレキシブル性や軽量性の機能を付加することで屋根設置以外の用途拡大が期待されます。欧州では、EVメーカーのベンチャー(Sion, Lightyear, Squad Mobility等)から太陽電池を使って充電回数を減らすコンセプトのEVの発売が予定されており、テスラのCybertruckや佐川急便の商用車EVに搭載される可能性が示唆される情報が発信されています。
住宅屋根に設置される一般的な太陽電池モジュールの重量は約15kgですが、そのうち太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池セルの重量は1kg以下であり、ほとんどの重量が発電に寄与しないモジュール部材(ガラス、フレーム)から構成されています。EVに搭載する太陽電池モジュールは軽い方が電費を向上することができますので、現在、軽量化のための新しいモジュール部材の研究開発が国内外で進められています。
文/益子慶一郎 (日本太陽エネルギー学会、パナソニック株式会社)
監修協力/日本太陽エネルギー学会
太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。
参考情報
- 『太陽電池はどのように発明され、成長したのか―太陽電池開発の歴史』 桑野幸徳著
- 『「太陽電池」のキホン 新エネルギーの切り札となる太陽光発電のしくみ』 佐藤勝昭著
- 『太陽電池の物理』 Peter Wurfel著
- 『太陽電池の基礎と応用 シリコンから有機・量子ナノまで』 山口 真史著
- 『Solar cell efficiency tables (version 57)』 - Green – 2021