Vol.3
太陽光発電システムにおける
パワーコンディショナ(PCS)の役割と
MPPT制御アルゴリズム、そして環境性能
第3回は、メガソーラー(大規模太陽光発電所)や住宅の屋根などに設置されている「太陽光発電システム」について紹介します。今回は、太陽光発電でよく耳にするパワーコンディショナ(パワコン,PCS)の役割や、MPPT制御アルゴリズムである「一定電圧制御」「山登り法」の特徴、「追尾式」と「集光式(CPV)」太陽光発電システムの特徴を解説した後、太陽光発電システムの環境性能について解説します。
太陽電池は光のエネルギーを電気に直接変換するデバイスですが、得られる電気は直流であり、太陽電池セルの電流の値は太陽電池セルの大きさや太陽電池が受けている光の強さに依存します。また、太陽電池モジュールやそれを組み合わせて構成した太陽光発電システムの電圧、電流および電力は、太陽電池モジュールをつないだ大きさや、インバータの仕組みや性能などによって変化します。
電圧はセル1枚で0.6V程度。セルのほとんどは正方形で、セルの大きさには125mm角、6インチ角(1辺152.4mm)、156mm角などがあります。セル1枚では交流の200Vなどに変換するには電圧が低すぎますので、太陽電池モジュールにおいては60セルから72セルを長方形に並べ直列に接続することが一般的です。最近の結晶Si(シリコン)太陽電池モジュールで強い日射を受けているときには、8A~9Aくらいの電流が得られますが、昨今の技術革新により、10Aを超える電流が得られるものも販売されています。最近ではこれら以外にも、住宅の屋根の形状にフィットするように正方形などさまざまな大きさがありますし、寄棟の屋根形状に合わせて三角形のモジュールなども市販されています。
太陽光発電システムにおける「系統連系型インバータ」の役割と、「集中型」「分散型」の特徴
太陽光発電システムは、日射強度が大きい晴天日の日中に発電電力が大きく、夜間はまったく発電しない等、天候に大きく影響を受ける発電システムです。太陽光発電システム単体では、太陽光発電システムを導入した住宅の居住者(電力の需要家)の電気の使用状況に応じた電力供給が困難です。そのため、まず直流電流を交流電流に変換し、一般送配電網に接続する「系統連系」する前提で導入するケースが大半となります。この系統連系を具現化するために不可欠なのが「系統連系型インバータ(以下、インバータ)」です。ここでは<図1>のような一般家庭を例にして、インバータに実装される機能を示します。
・太陽光が発電した直流電力を一般電気機器で使用できるように、一般送配電事業者が供給する電力と同等の品質の交流に変換する。
・電気機器に電力を供給しても余剰電力が発生する場合、系統側に余剰分を供給する。
・夜間等発電電力が不足する場合は、一般送配電事業者の電力により家電機器を使用する。
・一般送配電事業者側で事故が発生した場合、インバータがこれを直ちに検知して運転を停止する。これにより、一般送配電事業者側の作業者の感電等の二次災害を防止する。
一方、地上設置で比較的容量の大きい発電所や、メガソーラとよばれる定格容量が1MWを超えるような大規模な太陽光発電所で用いられるインバータは、多数のモジュールが発電した電気を集めて交流に変換することになります。その際、大量の太陽電池モジュールから一か所に集電し数百kW規模の大型インバータにて交流電力に変換して系統連系する「集中型」、数十kW規模の小型インバータに比較的少ない枚数の太陽電池モジュールから直流電力を入力して交流電力に変換し系統連系する「分散型」に大別されます。<図2>、<図3>にそれぞれのシステム構成図を示します。
2012年7月の固定価格買取制度(FIT)開始時は、集中型が主流でしたが、昨今は分散型の導入が増えてきています。なぜ分散型が増えているのでしょうか。集中型の場合、1つのインバータに接続されているどれかの太陽電池モジュールに故障、影、汚れなどが発生した場合、同じインバータに接続されている他の太陽電池モジュールからの電力も影響を受けてしまい、そのユニット全体の発電量が低下してしまい、ロスが大きくなります。複数の直流入力をそれぞれ独立して制御が可能な分散型のほうが、これらの影響を少なくできることが多いのです。
さらに昨今は、太陽電池モジュール1枚から2枚レベルで電力変換を行うMLPE(Module-Level Power Electronics)も注目されています。MLPEを用いると、どこかのモジュールに故障や影や汚れがあっても他の健全モジュールの発電量が低下しないため、ある時間になると一部のモジュールが山や木や建物の影に入ってしまう場所など、特殊な設置箇所での活用が期待できます。
パワーコンディショナ(PCS)の役割と、MPPT制御アルゴリズム「一定電圧制御」「山登り法」の特徴
次に、インバータが直流の電気を交流に変換する仕組みを見てみましょう。太陽電池の出力は直流ですが、電力系統は交流ですから、太陽電池の出力も交流に変換し、住宅であれば100Vや200Vにすることで太陽電池の電力を家電製品等で利用できるようになります。この役目を担っているのがインバータ、または、系統連系のためのさまざまな機能も含めて「パワーコンディショナ(PCS、Power Conditioning System)」とよぶ機器です。
<図4>に示すように、パワーコンディショナ(PCS)にはCPUや太陽電池にも使われるSi(シリコン)や、近年開発が進んでいるSiC(炭化ケイ素)などの半導体を利用したパワーエレクトロニクスが用いられています。一般的には20kHzから40kHzの高速なスイッチングが行われ、滑らかな交流波形が出力されます。また、パワーエレクトロニクスにより出力は自在ですから、交流波形に変換するだけでなく、日射変動があっても最大電力を取り出すための最大電力点追従(以下MPPT、Maximum Power Point Tracking)制御や、配電線の電圧上昇を抑える有効・無効電力制御、電力システムの需給バランス維持のための出力制御などさまざまな機能を担っています。
このように、パワーコンディショナ(PCS)ではさまざまな制御が行われていますが、ここでは、太陽電池の能力を最大限に引き出すMPPT(最大電力点追従)制御を取り上げます。太陽電池の発電特性は<図5>のように、電力―電圧特性(PVカーブ)で示されます。動作する電圧によって取り出せる電力が異なることを示しています。また、最も大きい発電電力である点(最大電力点)は、気象の影響を受ける日射強度や太陽電池温度などによって大きく異なります。そこで、安定して最大電力点で動作させるためにMPPT制御が必要になります。
MPPT制御にはさまざまなアルゴリズムが提案されていますが、最も簡単な手法は「一定電圧制御(参考文献1)」です<図6>。これは、あらかじめ太陽電池の最適動作電圧(最大電力点での電圧)を調べておく必要がありますが、定期的に開放電圧を測定すれば、その80%程度の電圧を目標値とするだけで、最大電力点に近づけられる利点があります。欠点は、気象の変化に対して正確な最大電力点を追従できないことです。
また、最も一般的な手法は「山登り法(参考文献1)」です<図7>。これは、ある一定時間間隔で動作点に対して少しずれた電圧での電力を測定し、測定前後の2点の電力差からより電力が大きくなる方向に動作電圧を変更していき、山を登るように最大電力点に到達します。太陽電池の発電特性を把握していなくても最大電力点を追従できることが利点です。欠点は、部分影が太陽電池にかかり段付きのPVカーブになったときに、複数のピークを持つことになりますが、低いピークを追従してしまう可能性があることです。
太陽光発電システムの方式、「追尾式」「集光式(CPV)」の特徴
これまで、住宅用、地上設置、メガソーラなどのシステム構成とインバータについてご説明してきましたが、システム構成としては他にも「追尾式」や「集光式」があります。
追尾式太陽光発電システム
「追尾式」とは、太陽追尾装置を用いて太陽電池を常に太陽のある方角に向くようにする発電方式のことをいいます。追尾式には、よく見られる平板型の太陽電池モジュールを用いて発電するものと、レンズやミラーを用いて太陽光を太陽電池に集光して発電するものとがあります。なお、太陽電池を用いない太陽熱発電(CSP、Concentrating Solar Power)とは異なりますので、ご注意ください(CSPについては本記事では取り上げません)。
我が国では追尾式の太陽光発電システムを見かけることは少ないですが、世界では重要な位置を占めており、その市場規模は2027年には世界全体で約45GWに達するという予測があります(参考文献2)。追尾式は、季節や時刻を問わず太陽電池モジュールが太陽に正対するため、太陽光に含まれる直達日射を有効活用することができます。
太陽電池を架台に固定した場合、直達日射の入射角は季節や時刻によって大きく変化します。追尾式の場合は常に最適な入射角(理想的には90°)で直達日射が太陽電池モジュールに入射するため、天候の影響を除く発電電力の変動は小さくなります。また、通常の平板太陽電池と同じように散乱日射も発電に寄与します。追尾により、1軸追尾の場合は12~25%、2軸追尾の場合は30~45%程度、発電電力量が増加したという報告もあります(参考文献3)。
集光式太陽光発電システム
集光式太陽光発電(以下CPV、Concentrator PhotoVoltaic)は、レンズやミラーなどの集光装置を用いて太陽光を小型の太陽電池に集光して発電します<図8>。当初は宇宙用として開発が進められてきた高効率で小型の化合物系太陽電池が活用されており、2021年4月の時点で太陽電池セル単体の発電効率では47.1%(6接合、143倍集光)(参考文献4)、屋外計測されたモジュールの発電効率では38.9%(4接合、333倍レンズ集光)(参考文献5)と、普及が進んでいる結晶シリコン系太陽電池よりも非常に高効率であることが大きな特徴です。
ただし、レンズやミラーで太陽光を集光することから、太陽光のうち直達日射しか発電に利用できないことが多いです。直達日射は、薄雲によっても大きく減衰するため、CPVの導入に適しているのは日射条件が安定した地域に限られます。そのような地域であれば、レンズやミラー、追尾装置などの追加設備への投資を上回る発電電力増加の効果を得ることができます。なお、集光装置の工夫により追尾装置を必要としないCPVの開発も進められています。
太陽光発電システムの環境性能
最後に、太陽光発電システムの環境性能について解説します。太陽光発電システム等の再生可能エネルギーの利用が推進されているのは、温室効果ガス排出量が他の化石燃料を用いた発電所と比較して大幅に低いというのが理由です。太陽光発電そのものには一切温室効果ガスを排出しませんが、設備の製造や運搬の工程などで多少はCO2を排出しますので、その量を考慮する必要があります。
太陽光発電システムのCO2排出量に関する研究はさまざま行われていますが、国内では、例えば一般財団法人電力中央研究所が長く評価を行っています。近年の2016年に発行された報告書(参考文献6)では、「1kWh発電する際のCO2排出量(「CO2排出原単位」、「CO2排出係数などと呼ぶ)」が、火力発電所が430~1,080 g-CO2/kWh なのに対し、太陽光発電システムは38~59 g-CO2/kWhである、との結果が示されています。
また、化石燃料の課題の一つに、資源が限られているという点があります。化石燃料であればどれだけ発電効率が上昇しても化石燃料資源は減少していきますが、太陽光発電システムの場合は太陽エネルギーが無限と考えれば、生涯の製造や廃棄などに要したエネルギーは数年の発電で回収することができ、その後はさらに多くの電力エネルギーを生み出すことができます。この回収するまでの時間をエネルギーペイバックタイム(EPTやEPBT、Energy Payback Time)とよび、近年では1年を下回ると言われています(参考文献7)。太陽光発電システムの寿命は20年から30年と言われていますから、エネルギー資源という視点でも大きく注目されているのです。
文/宮本 裕介(関電工)、伊藤 雅一(福井大学)、川崎 憲広(東京都立産業技術高等専門学校)、桶 真一郎(津山工業高等専門学校)、植田 譲(東京理科大学)
監修協力/日本太陽エネルギー学会
太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。
参考情報
- 『太陽光発電システムのパワーコンディショナ入門』 板子 一隆
- A. Gupta, A. S. Bais, Solar Tracker Market Size By Product, By Technology, By Application, Regional Outlook, Industry Analysis Report, Application Potential, Competitive Market Share & Forecast, 2021–2027, Global Market Insights (Mar. 2021)
- E. Drury, A. Lopez, P. Denholm, R. Margolis, Relative performance of tracking versus fixed tilt photovoltaic systems in the USA, Progress in photovoltaics, Vol.22, pp. 1302-1315 (Dec. 2014)
- Best Research-Cell Efficiency Chart, NREL (Apr. 2021)
- Champion Photovoltaic Module Efficiency Chart, NREL (Aug. 2020)
- 『日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価』 (電力中央研究所)
- 『再生可能エネルギー源の性能』 (産業技術総合研究所) 2021年5月