Vol.4
太陽光発電の出力予測を支える日射量予測技術
再生可能エネルギーの中で大きな割合を占めている太陽エネルギーに注目し、日本太陽エネルギー学会の監修により基礎解説をしていく本連載。4回目は、太陽光発電の出力予測を支える「日射量予測技術」についてです。今回は、太陽光発電の出力に大きな影響を与える日射量予測の重要性、その予測技術として、数値予報モデルを用いた予測や気象衛星からの観測データからの推定方法について説明した後、予測精度を検証できるアンサンブル予報について解説します。
太陽光発電の出力に大きな影響を与えるのは、地上に降り注ぐ日射量です。この日射量が数時間後、あるいは明日、どの程度見込まれるのか精度よく予測ができれば、太陽光発電の出力の予測も行え、電力の需要に対して安定した供給を行え、効率的なエネルギーマネジメントを行うことができます。ここでは、日射量の予測技術について解説いたします。
太陽光発電の出力は日射量に依存するため、「日射量予測」が重要に
再生可能エネルギーの大量導入が進み、いよいよ主力電源化に向けたエネルギーの活用が本格化しています。2021年7月21日には第6次エネルギー基本計画(素案)の概要(参考文献1)も政府から公開されていますが、カーボンニュートラルの未来に向けて、さらなる再生可能エネルギーの導入加速が期待されます。
太陽光発電は主に日射量によってその出力が変化します。電力の需要と供給を一致させるためには、翌日または数時間後に太陽光発電の出力がどのようになるのか予測情報が求められます。そこで気象予報技術を使った日射量の予測を行い、最終的には発電出力の予測を行う必要がでてきます。
太陽光発電のほか、既存の火力発電、水力発電などに加えて、蓄電池や電気自動車、水素燃料といった新しいエネルギーの活用手法と調和させて、生活の中で活用していくことが期待されています。そのためには、電力の運用の効率やコスト削減のためにも、日射量予測をベースとした発電出力の予測技術が求められます。
地上で日射量を計測すると、上空の雲の存在により大きく時間変化することがわかります。<動画1>は上向きに設置したカメラで撮影した天空画像と、その時に同時に観測した日射量データの時間変化を示しています。
快晴日の場合は、日射量は日の出とともに増加し、日中(南中)にピークを迎え、午後には徐々に減少していきます。上空に占める雲の割合が増加すると、雲による遮蔽により、地上の日射量も減少します。特に、太陽光発電の出力は日射量の大きさに強く依存します。太陽光発電を踏まえたエネルギーマネジメントのためには太陽光発電の出力の予測、特に日射量の予測が重要なカギを握っています。予測を行うためにはさまざまな手法がありますが、ここでは天気予報の技術を用いた方法について解説します。
数値予報モデルを用いた日射量予測は、雲の予測がポイント
気象予報では、地球を模擬したシミュレーション技術を用いて予測しています。これを「数値予報モデル」、「気象予報モデル」と呼んでいます。基本方程式は流体力学でも登場するナビエ・ストークスの運動方程式(Navier-Stokes equation、微分方程式)、熱力学の第一法則などです<図1左>。微分方程式には時間発展の項があるので、将来を予測することが可能になります。数値予報モデルにおいては、基本的な大気の流れや気温、気圧などの予測のほか、陸地の分布や海面水温、海氷、土地利用の情報なども含めてモデル化を行っています。
実際の大気には水蒸気から雲ができて、雨が降り、低温になると雪が降ります。モデルの中でも水蒸気が凝結して、雲粒が形成され、粒子が大きくなれば雨粒に、温度が氷点下となれば氷粒になるように雲の内部をモデル化(雲・降水過程)も行われています。また、日射量の予測は、図中の放射過程の中の短波放射過程の中で、放射伝達方程式といったコードを解くことで、地上に降り注ぐ日射量の予測計算も行っています。前節で述べたように、日射量は大気中の雲によって大きく変化します。数値予報モデルの中で、雲がどの程度実際と比べて予測できるかが日射量予測の大きなポイントとなっています。
計算領域については、用いる数値予報モデルによって地球全体(全球モデル)や日本領域などに区切ったエリア(領域モデル)でさまざまな気象要素を予測します<図1右>。地球大気を格子に区切って、その格子1つ1つで気温等の予測を行います。高さ方向にも格子を配置し計算範囲を取っており、3次元で予測を行います。大量の予測計算を行うことになるため、気象庁では専用のスーパーコンピューターシステムを導入して日々運用を行っています。
気象衛星を用いた観測データから日射量推定が可能に
最近では、気象衛星から観測したデータから地上の日射量を推定する手法の開発なども進み、宇宙から地上の日射量を推定することができます。また、先ほど述べたように数値予報モデルを用いることで日射量予測を行えます。<動画2>は気象衛星から推定した日射量(参考文献2)と気象庁メソモデルから予測した日射量との比較をアニメーションで示したものです。気象衛星からの推定値は2.5分毎、数値予報モデルからの予測値は1時間毎にデータがあります。これらの気象衛星から観測・推定されたデータと数値予報モデルから予測データを同時に比較することで、どの場所で予測があっているのか、または外れているのか、などの情報を面的に把握することも可能です。
気象予報モデルによる日々の天気予報が外れる場合があるように、日射量予測も時には大きく外れてしまうことがあります。<図2>はその一例で、気象庁メソモデルによる予測では前日に翌日を予測した場合、天候が曇ると予測され日射量は比較的少ないと予測したものの、当日の日射量の実績(観測値)が高かった事例です。
これは太陽光発電の出力で言い換えると、当時の発電出力が想定よりも多くなるので、電力需要に対して他の電力を適切に調整できなければ系統の周波数が上昇してしまう恐れがある事例と言えます。数値予報モデルでは予測精度が高い場合もあれば、低い場合もあり、その予測情報の品質がどのようなものかを把握する技術も必要になってきます。その情報が次に述べるアンサンブル予報になります。
また、最近では実測されたデータをもとに機械学習を併用して、系統的な予測誤差を低減するなど、人工知能(AI)技術との融合利用も有益な技術となっています。
複数の予測を行うアンサンブル予報を用いて予測精度を検証
気象庁ではこれまで翌日までの予測モデルの運用には1日8回3時間ごとにメソモデルという数値予報モデルの運用を行ってきました。しかし、3時間ごとに単一の予測を行うだけですと、その予測が当たりやすい(予測精度が高い)予測情報なのか、予測が当てにくい(予測精度が低い)予測情報なのかという判断ができません。そこで、2018年夏には翌日までの予測を対象に複数の予測を行うアンサンブル予報の運用も始まりました。メソモデルによるアンサンブル予報という意味で、この予報を「メソアンサンブル予報」と呼んでいます(参考文献3)。メソアンサンブル予報では同時に21個の予測を行います。
<図3>は福島県を対象としたメソアンサンブル予報による日射量予測の一例です(2018年7月1日の朝9時に27時間先の翌日12時の予測を行ったもの)。この予報結果のばらつきが小さい場合は、「各予報の信頼度が高く、予測精度が高い可能性がある」と言えます。一方で、予報結果のばらつきが大きい(さまざまなシナリオが想定される)場合は、「各予報の信頼度が低く、予測精度が低い可能性がある」ことを意味します。
このような情報をもとに予測データの信頼度情報を一緒に提供して、当たりやすい情報なのか当たりにくい情報なのかを判断します。電力の需給運用において、どのようにこのようなアンサンブル予報を活用するかは、現在研究段階であり、現場でのニーズなどに合わせたデータ利用が望まれます。
文/大竹秀明(日本太陽エネルギー学会・国立研究開発法人 産業技術総合研究所・気象予報士)
監修協力/日本太陽エネルギー学会
太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。
参考情報
- 『エネルギー基本計画(素案)の概要』(資源エネルギー庁)令和3年7月21日
- 『太陽放射コンソーシアム』(非営利活動法人 太陽放射コンソーシアム)
- 『メソアンサンブル』(気象庁ホームページ)