製造業は今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって新たな進化を遂げつつあります。DX、つまりデジタル技術やデータ活用によって、製品の品質向上や業務プロセスの変革をおこない、新しい姿へと向かっています。
一口に「製造業DX」と言ってもその範囲は広く、さまざまな側面があります。手法やツールも多彩ですが、製造業を総合的にとらえ、データを活用することで部門や業務を越えて連携し、個別最適から全体最適を志向していることは共通しています。
ただ、製造業DXを実際におこなうには、さまざまな困難が伴います。製造業DXを目標に掲げながら、できないままになっている企業も少なくありません。
ではどうすれば製造業DXに着手し、スムーズに軌道に乗せることができるのでしょうか。そのヒントとなる事例をご紹介します。
製造業DXとは、データやデジタル技術の利用によって、製造業を変革し、新たな価値を創出することです。その背景には、次の変化があります。
まず世界的な競争の激化です。特に米国、中国、ヨーロッパといった先進国においてデジタル技術と融合した製造業をめざす動きが生まれています。他国の競合企業がこぞってDXによる事業の高度化や生産性向上を図る中、日本の製造業もDXによる最適化に早急に取り組まないと国際競争で勝ち残ることはできません。
第2に製造業に求められるものが拡大していることがあります。いわゆるサステナビリティ、特に環境対応です。製造業においては、モノを「高品質で、迅速に、安定的に作る」ことはもちろん、市場のめまぐるしい変化への対応、原材料やトレーサビリティの正確な把握、CO2排出の少ない製造工程や廃棄、リサイクルやリユースに向けた設計なども必要になっています。
第3に、DXの基盤となる技術の発展です。センサー、ロボティックス、自動化、無線通信、ネットワーク、VR、AR、IoT、AIなどの急速な発展によって、製造業に関係する多種多様なデータを収集、解析、利用できるようになりました。これによってデータを介してさまざまな工程や業務が連携すれば、これまでできなかった管理や制御も可能になります。
日本の場合はこれらに加えて、熟練した技術者の高齢化による減少、人口減少社会になったことによる空前の労働力不足という問題があります。そのため、DXによって自動化、省力化を進め、経験の浅い人員でも管理しやすい現場にすることが求められています。
DXによって情報を可視化すると、管理が容易になり、業務改革、問題の早期発見、安全性向上などにつながります。またデータを通じて製造と、材料調達、販売、物流などが連携することで、品質向上、生産性向上などが可能になります。技術トレンド、経済情勢、災害などさまざまな事情で変化する需要に対応した生産も可能になります。
またこのことは、より少ない人員で、より効率的に生産できることを意味します。現場の仕事が平準化することで、熟練技術者不足の問題の解消にもつながっています。これらはすべて企業競争力と収益性向上に貢献します。
本来、製造業DXは全体最適で作るべきものです。個別のシステムの効率を高めるのではなく、ゼロベースで全体最適のシステムを作り、一元管理するのが理想です。言わば抜本的改革が必要ですが、実際には既存のシステムがあってそれを捨てられないため、部分的な改革しかできない場合も少なくありません。
従ってまず、その企業の理想像やビジョン、あるべき製造の姿を確認する必要があります。そのうえで現状とのギャップを分析し、理想に近づけるための業務フローなどを設計して改革していくことになります。
しかし、日本の製造業の多くは本格的なDXを進めるうえで、以下のような課題を抱えており、その解決が急務となっています。
●経営トップや経営陣が、工場や情報システム部門などの現場にDXを任せている。これでは小規模の改善しかおこなわれない。抜本的改革のために経営トップや経営陣がリードして進める必要がある。
●自社にDX人材がおらず、育成も不十分である。個別最適のレガシーシステムしかなく、しかもそのシステムの情報がシステムベンダーにしかわからないことも多い。また情報システム部門があっても、システムベンダーに頼りきりの場合もある。自社でDX人材を育成し、信頼できるソリューションパートナーと共に全体最適のシステムを構築する必要がある。
●カスタマイズを重ねたため、関係者以外理解できないシステムになっている。パッケージシステムは豊富な経験に基づき合理的にできているのでそのまま、あるいは少しのアドオンで済むかたちにすることが望ましい。事業の理想像に合わせたパッケージシステムを選択し、業務プロセスをパッケージシステムにフィットさせる検討も重要だ。
●日本の企業ではアナログな作業がまだ残り、オペレーションが統一されていない反面、すり合わせや暗黙知が強みになっている。日本企業の現場人員のレベルは非常に高く、ノウハウが属人化しているため、デジタル化が困難になっている。それが企業の個性や信頼にもつながっているが、今後の人手不足、技術伝承の困難さなどを考えると、デジタル化を急ぐことが求められる。
これらの課題解決の実現が、本格的なDXへの近道であり、日本の製造業全体の強化にもつながるといえます。
日立ハイテクソリューションズによる製造業DXの事例を見てみましょう。
日立ハイテクソリューションズでは、さまざまな製造企業のDXを支援しています。日立グループの一員として、コンサルティング系、データプラットフォーム系などのノウハウや、各種ハードウエアやソフトウエア、AI、ロボティクスなど最先端の技術を保有しているのも強みです。
日立ハイテクソリューションズの代表的な3製品をご紹介します。
〈予兆・診断システム BD-CUBE®〉
現場で発生するビッグデータから、生産プロセスや装置の異常状態を早期に検知するパッケージの予兆診断システムです。
DCS(分散型制御システム)は、上下限の管理値を設けて、トレンドで見てそれを逸脱したらアラームを発する方式ですが、BD-CUBE®はあらかじめ機械学習をさせ、いつもと違う状態を高精度に検知するため、従来のシステムでは気づかない上下限管理値内のプロセス異常に早期に気づくことができます。
化学プラントでは30、40年経った老朽化プラントがまだかなりの数が稼働し、突発故障が発生することがあります。1日操業停止するだけで石油、化学、金属分野では1億円規模の損失が発生しかねません。しかも1週間から10日ほどはプラントが停止する可能性があります。そこでBD-CUBE🄬による予兆検知で、突発故障の可能性が見えたら、計画的に停止してメンテナンスをおこなえば、停止期間は3、4日ですみます。現場には、工場は絶対に止めてはいけないという意識があって、過剰とも言えるメンテナンスコストをかけている場合がありますが、経営側から見れば、そここそが最適化したい部分です。BD-CUBE®は、データドリブンで、稼働停止すべきプラントは停止し、まだ稼働可能なものは稼働させるといった判断をし、定量的な保全の最適化をはかることができます。
〈検査データ管理システム LabDAMS®〉
一般にLIMS(Laboratory Information Management System/検査データ管理システム)と呼ばれるシステムで、品質検査データを管理するシステムです。
製造業の品質管理業務には紙やエクセルに転記しておこなう手作業が残っているケースが散見されます。そのため問い合わせ対応に労力を要したり、品質不正やデータ改ざんを起こすリスクがあります。LabDAMS®はデジタル化によってこの問題を解決します。
品質管理業務は、検査の指図を作り、これを承認し、実際に検査指示を出し、実施するというフローで進みます。これに対してLabDAMS®は必要に応じて分析機器をオンライン接続してデータ改ざんができないようにし、入力して合否判定し、全体の承認をおこない、検査成績書を発行します。これによりデジタル化によるペーパーレスの実現、監査証跡管理(オーディットトレイル)によるセキュリティ確保のみならず、本製品はウェブアプリケーションなので場所を選ばずご利用いただけるメリットがあり、働き方改革にも寄与しています。
すべての操作、データ、承認などの記録が残るため、問題が起きたときに、誰が、いつ、対応したのか、対応していないのかなどがわかり、不正をしていない証拠となります。
このほか、オプションの機能を入れると、ERPとの自動連携、検体サンプルの詳細情報の管理、分析計との接続による測定値の自動取込みなどが可能になります。
また日立グループは、ayamoというクラウド環境をもっているので、これと連携したクラウドでの導入も可能です。
〈製造実行システム MESソリューション〉
MESソリューションは製造プラント全体の効率化、最適化を目的とする管理ソフトウエアです。弊社では分野別にご用意しており、化学プラント向けのCyberPlant-ChemiFact、および、食品プラント向けのCyberChefoodをご提供しています。
工場には自動化できない手作業がまだ残っています。特に化学では、質の高い中間材を製造するためにきめ細かい計量や原料投入が必要ですが、自動制御は難しく、手と目視での計測が必要になります。MESはこうしたアナログな作業におけるミスの防止に役立ちます。
MESソリューションは非常に広範な業務を管理します。記録を自動化し、一元管理するため、エンドユーザーや外部監査時に記録を求められたとき、すぐに提示することができます。サプライヤーから調達した原材料のロット管理や使用期限の管理、実績の自動記録の管理も担います。
他の設備、自動倉庫、制御システムなどと連携して製造実績(原材料の使用実績、在庫量など)や操業データ(温度、圧力、流量などのプラントのプロセスデータ)を収集し、製造現場のデータを経理システムやERPへ正確に反映することで、在庫量の最適化、および実績データを基にした処方パラメータの確定など、これまで最終製品までの試行回数を3~4回発生していたのが1~2回で済むなど生産性の向上に寄与しています。
さらに、原材料の受け入れや在庫管理から実施し、計量時などの間違い防止や照合、出荷、包装、充填の出来高などの管理もおこないます。不具合が発生した場合、一連のプロセスの中で、原材料のロット、使用した釜、作業者などを特定し、不具合がいつ、どこで、どのように起こったかを正確に追えるトレーサビリティを実現しています。
弊社は半世紀にわたり培ってきたセンシング(計測・検査・検測)とコントロール(制御・運用)の技術に、AIやIoTなどの先進技術を掛け合わせ、800社を超えるお客さまの課題解決に取り組んできました。 差し迫る生産現場の課題を、お客さまと伴走しDXで解決してまいります。