Hiranuma Automatic Titrator COM-1700A
上妻 勇生
滴定は容量分析法に分類される古典的測定法であるが、実用的な定量方法として品質管理分析および研究開発に広く利用されている。
滴定は、一般に指示薬を用いた目視により終点を検出するが、測定者による個人誤差を伴うことが多い。一方、自動滴定装置では電気化学センサを用いた終点検出と高精度な電動ビュレットを用いて測定を行うため、個人誤差のない高精度な測定が可能である。
平沼自動滴定装置 COM-1700A(図1)は、好評だった前モデル COM-1700の機能を継承しつつ、ユーザーからのニーズを反映したモデルであり、新たに滴定液の温度表示機能と滴定液温のリアルタイム表示機能が追加されている。
本稿では、新たに追加された機能を中心にCOM-1700Aを紹介する。
図1 平沼自動滴定装置 COM-1700A
オプションの滴定液温度測定センサをシリンジとビュレットチップ間の流路に接続することにより、滴定液の温度測定が可能になった(図2)。その滴定液温は結果の計算に使用可能であり、温度変化によって体積が変わりやすい滴定液の濃度補正に応用できるようになった(別途測定ユニットの改造が必要)。
例えば過塩素酸-酢酸標準液は溶媒に酢酸を使用しており、水を溶媒にした滴定液と比べて温度変化に伴う体積変化が大きい。市販の滴定液を使用する場合、表記されているファクターは 20°C時の値であるため、従来は 20°Cに保った環境で滴定を行うか、滴定液温が変動するたびにファクターを測定する必要があった。しかし、滴定液温度測定センサを使用すれば、自動でファクターの補正を行えるので、上記のような煩わしい操作が不要になる。
本機能の使用例として、フタル酸水素カリウムの純度の測定例を紹介する。本測定には 0.1 mol/L過塩素酸-酢酸標準液(20°C時のファクター=1.004)を使用し、同日の午前と午後に測定を実施した。測定結果を表1に、滴定曲線例を図3に示す。この時間差によって滴定液温に約3°Cの差が生じた。ファクター補正を行わない場合は、この温度差によって測定値に約 0.3%の差が生じることがわかる。一方、ファクター補正を行うことにより、両測定値にほとんど差がなくなることを確認した。なお、ファクターの補正には以下の計算式を使用した。
F=F0/1+α(t-t0)
F:試料滴定時の力価(補正後)
0:表記されFている力価(1.004)
α:滴定液の対膨張係数(酢酸=1.07×10-3)
T:滴定時の温度
0:力価標定t時の温度(20°C)
図2 滴定液温度測定センサ 組み合わせ図
測定No. | 滴定温度(°C) | 試料量(g) | 滴定値(mL) | 純度(%) | 平均値(%) | 温度補正をしなかった場合の結果(%) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
AM | ブランク | 25.0 | - | 0.005 | - | - | |
1 | 24.9 | 0.2963 | 14.486 | 99.685 | |||
2 | 25.0 | 0.2943 | 14.417 | 99.873 | 99.82 | 100.36 | |
3 | 25.3 | 0.2984 | 14.626 | 99.897 | |||
PM | ブランク | 28.2 | - | 0.005 | - | - | |
1 | 28.0 | 0.2946 | 14.477 | 99.868 | |||
2 | 28.1 | 0.2971 | 14.598 | 99.845 | 99.81 | 100.68 | |
3 | 28.3 | 0.2970 | 14.577 | 99.714 |
図3 滴定曲線印字例
(左が滴定液温25°C、右が滴定液温28°C)
オプションのサーミスタ電極(TE-403)を滴定セルに浸漬することにより、滴定中の滴定セル内の液温をリアルタイムに表示する機能が追加された(図4)。本機能は以下のような滴定時に有用である。
図4 滴定画面
本稿で紹介したCOM-1700Aは温度変化による影響が大きい滴定に好適である。他の機能や操作性に関しては、大変好評であった前モデルのCOM-1700からそのまま継承しているため、その他の分野にも使用可能なのはもちろんのことである。
なお、COM-1700Aは専用コントロールユニットタイプであるが、他のラインナップとして、パソコンユニットタイプである COM-1750や自動サイクラなども取り揃えている。
また、操作ユニットには3台までユニットの増設(水分増設ユニットも含む)が可能であり、最大4種類の同時測定が可能である。さまざまな滴定の自動化に対応可能なCOM-1700Aが、これまで以上に多くの分野で活用されることを期待している。
著者紹介
上妻 勇生
平沼産業株式会社 設計部 研究室
さらに表示