Introduction of Karl Fischer coulometric titrator without diaphragm cell
北中 宏司
カールフィッシャー(以下、KF)電量滴定法を用いた水分測定法は、微量水分(µgオーダ)の正確な測定を可能とする次の特長を備えている。
以上の理由によりKF電量滴定は、液体試料、固体試料および気体試料などの品質管理分析の分野で広く使用されている。
KF電量滴定法には、その電解セルの構造において二室電解法と一室電解法の2つの測定法がある。現在は日本薬局方などの公定法において一室電解法に関する言及がされていないため二室電解法が主流となっている。しかし、一室電解法は対極液が不要になることによるランニングコストの低減、シンプルなセル構造によるメンテナンス性の向上など、数々の特長を有している。そのため今後も幅広い分野で採用されていくことが期待される。
本稿では、平沼微量水分測定装置 AQ-2200AF(図1)を用いた一室電解法による水分測定を紹介する。
図1 平沼微量水分測定装置 AQ-2200AF
KF電量滴定の測定原理を解説する。KF滴定は式(1)に示す KF反応を基礎とする。
H2O+I2+SO2+3RN+CH3OH→2RN・HI+RN・HSO4CH3(1)
ただし電量滴定では、式(2)に示すヨウ素は陽極酸化によって電気化学的に生成される。
2I-→I2+2e-(2)
試料に含まれる水分はKF反応によって消費され、ヨウ素が小過剰となった点を双白金指示電極が検知して滴定終点とする。滴定終点が得られるまでに要した電気分解の電気量から、ファラデーの法則に基づきKF反応で消費された水分量を得ることができる。
従前より広く用いられてきた二室電解法では、電解陽極と陰極が隔膜で隔てられており、電解陰極で発生する還元生成物などのKF反応を妨害する物質の拡散を防止している。一室電解法では電解陽極と陰極は同じ電解液中に浸漬されているため、電気分解を後述の制御なしに行うと、電解陰極で生成したKF反応を妨害する物質が電解液中に拡散することで、測定結果に大きなばらつきを生じてしまうことになる。
一室電解法の電解陰極における妨害成分の生成を抑制するには、電解電流の陰極における電流密度を制御することが効果的である。電流密度は電解電流値と電極の表面積より決まる。電流密度がKF電量滴定に適した範囲よりも小さいと妨害成分が還元生成され、逆に電流密度が大きくなりすぎると電解電流を必要な値まで上げることができなくなる。
AQ-2200Aの一室電解法では電解陰極に表面積の異なる2種類の陰極を備えており、電解電流値によって使用する陰極を切り替えている。これはバックグラウンド測定と試料測定で電解電流がおよそ0.1~ 300 mA と幅広く変わることから、いずれの測定状態においても電解陰極における電流密度を適切に保ち、妨害成分の還元生成を抑制するためである(図2)。
図2 二室電解法(左)と一室電解法(右)の電解電極の概念図
二室電解法および一室電解法により、各種サンプルを繰り返し測定回数3回でそれぞれ行った結果を表1に示す。測定条件は以下に示す。
図3 電解セル(左から、標準電解セル、一室電解セル、少容量一室電解セル)
測定法 | 試料 | 二室電解セル | 一室電解セル |
---|---|---|---|
水分量 | 水分量 | ||
直接法 | 2-プロパノール トルエン シクロヘキサン アニソール アセトニトリル 酢酸エチル 酢酸 m-クレゾール ピリジン |
30.7±0.7 ppm 91.7±0.6 ppm 53.5±0.2 ppm 38.0±0.7 ppm 163.9±0.1 ppm 99.3±2.0 ppm 222.8±0.1 ppm 152.7±1.2 ppm 1,432.4±1.8 ppm 589.3±1.3 ppm |
30.2±0.8 ppm 90.5±0.7 ppm 52.7±0.5 ppm 37.4±0.2 ppm 163.3±0.5 ppm 99.8±1.2 ppm 223.5±0.1 ppm 157.1±0.8 ppm 1,432.2±0.8 ppm 594.2±0.9 ppm |
蒸留法 | バイオディーゼル 灯油 |
618.8±4.0 ppm 50.3±0.9 ppm |
617.0±0.9 ppm 54.4±0.9 ppm |
気化法 | 酒石酸ナトリウム二水和物 オイルシェール |
15.420±0.040% 0.690±0.007% |
15.440±0.040% 0.693±0.014% |
以下に、AQ-2200AF一室電解法の主な特長を示す。
本稿で紹介したAQ-2200AFは、主にppm水準のサンプルの水分測定装置として好適であり、化成品や石油、油脂、塗料、医薬品など様々な試料への適用が可能である。なお、AQ-2200AFはスタンドアロンタイプであるが、他のラインナップとしてPC制御タイプのAQ-2250や、オプションとして気化装置つきサンプルチェンジャなども取り揃えている。多くの特長を有したAQ-2200AFは、ご使用いただくお客様にご満足いただける製品であると確信する。
著者所属
北中 宏司
平沼産業株式会社 設計部 研究室