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多機能プローブ顕微鏡AFM100シリーズの特長とアプリケーションのご紹介

Features and Applications of the Multifunctional Scanning Probe Microscope System AFM100 Series

工藤 慎也

はじめに

走査型プローブ顕微鏡(SPM、AFM)とは、カンチレバーの先端に設けられた微小な探針(プローブ)で試料表面を走査し、探針と試料表面との間に働く相互作用をカンチレバーの変位として検出し、試料表面の形状や物性を画像化する装置である。
大気中、真空中、液中など様々な環境下において三次元形状の高倍率観察・計測ができるだけでなく、試料表面の物性情報も得ることができることから、プラスチック、ゴム、ブレンドポリマーなどの有機・高分子、セミコンダクタ、無機材料、磁気メモリ、生体など幅広い分野におけるナノ領域の研究開発や品質管理に SPM、AFM は不可欠なツールとなっている。近年では、材料の微細化、薄膜化が進み、さらなる高感度化、高分解能化が求められている。
多機能プローブ顕微鏡 AFM100シリーズ(図1)は、AFM100、AFM100 Plus、AFM100 Pro の3機種がラインナップされている。エントリーモデルである卓上型の AFM100をベースに、構成パーツを組み合わせることで、ミドルレンジタイプの AFM100 Plus、ハイエンドタイプの AFM100 Pro まで、測定の用途や分解能に応じて選択、拡張することができる。
本稿では、AFM100シリーズの特長と、アプリケーション事例について紹介する。

図1 AFM100シリーズの装置外観写真(左:AFM100 Pro、中:AFM100 Plus、右:AFM100)

図1 AFM100シリーズの装置外観写真(左:AFM100 Pro、中:AFM100 Plus、右:AFM100)

AFM100シリーズに共通の特長

ドリフト性能の向上

AFM装置では、1ライン毎に測定が行われ次ラインへの移動を繰り返しながら順に画像を取得していく。このため、特に高解像度の画像を得るためには測定に長時間を要し、熱ドリフトによって測定画像が歪みデータの信頼性を低下させる要因となっていた。
こうした課題を解決するため、AFM100シリーズでは、測定ユニットから熱源を徹底して排除した熱源抑制機構とすることで、従来機種と比較してドリフト量を30% 以下(ドリフト量:0.03 nm/sec 以下)に低減した。
これにより、「熱ドリフトの影響による取得画像のブレ・歪み」や「同じ場所の連続測定(タイムラプス測定)時の画像のブレ・歪み」を抑制することができる。
図2は粒子状の試料を120分にわたって連続測定した時の従来機種と AFM100 Plusとの比較である。従来機種では、120分後には測定画像が大きくシフトしているのに対し、AFM100 Plus では画像のシフトがほとんど生じていないことが分かる。

図2 粒子試料の連続測定

図2 粒子試料の連続測定

操作性の向上

AFM装置は、使用するカンチレバーや測定する試料に合わせてスキャンパラメータの調整が必要であり、測定データの信頼性が操作者の技量や熟練度に左右されやすい傾向がある。また、測定前に非常に微小なカンチレバーを交換する作業が必要であり、測定準備がユーザーの負担となる場合もあった。
こうした課題を解決するため、AFM100シリーズではワンタッチでカンチレバーを交換できるプリマウントホルダ(図3)と、レシピ測定を可能にするオートパイロット機能(図4)を搭載し、測定者起因の影響を軽減するとともに測定のトータルスループットの向上を実現した。
また、オートパイロット機能に RealTuneII(スキャンパラメータの自動調整機能)を組み合わせることで、複数の測定点ごとに最適なスキャンパラメータを自動で調整し測定することができ、操作者に依らない信頼性の高いデータを1クリックで得ることができる。

図3 プリマウントホルダ概要

図3 プリマウントホルダ概要

図4 オートパイロット機能のイメージ

図4 オートパイロット機能のイメージ

図5は、シリカ粒子が付着した Si 基板上を、オートパイロット機能の自動多点測定で AFMデータを取得したのちに自動で粗さ解析を行った事例である。広範囲を測定した後で、オートパイロット機能にて観察領域を複数設定し、測定、解析までを自動で行うことができる。

図5 シリカ粒子の自動多点測定

図5 シリカ粒子の自動多点測定

SÆMicへの対応

これまで電動ステージを搭載した中型プローブ顕微鏡ユニットAFM5500M でのみ可能であった SÆMic(SEM/AFM 相関顕微鏡法)による同一箇所観察を小型 AFM 装置でも可能とするため、「AFMマーキング」を搭載した。
AFMマーキングでは、専用のカンチレバーを用いて AFM 観察領域にマーキングを施し、SEM でマーキングを目印に同一箇所の観察を容易に実現することができる。マーキングの作製条件はソフトウエア上で設定でき、フローに従い操作することで容易にマーキングを施すことができる。また専用の試料台を必要としないため、SEM 機種に依らず同一箇所の観察が可能である。
図6はジェラルミン(A2017)の研磨面を AFMマーキングによりSEMと AFM で同一箇所を測定した例である。一般的に、ジェラルミンは他のアルミ合金に比べて強度は高い一方で、耐食性が劣るという特徴がある。耐食性を評価する上で、金属表面の電位分布の不均一性とその要因を特定することは重要である。AFM はケルビンプローブマイクロスコープ(KFM)により形状像と表面電位像の同時測定を行った。SEM の EDXマッピング像との対比から表面電位像で見られる電位コントラストは Si、Cu、Fe、Mn を含む介在物によるものと考えられ、耐食性に影響を与える要因を特定できた。
AFMマーキングによりSEM-AFM による同一箇所観察を小型 AFM 装置にも拡張し、「SEM による形状、組成、元素分析」と、「AFM による3D形状計測、機械物性・電磁気物性情報」の同一視野での手軽な解析評価を実現した。

図6 AFM100 PlusとTM4000PlusIIによるアルミ合金の同一箇所観察例

図6 AFM100 PlusとTM4000PlusIIによるアルミ合金の同一箇所観察例

AFM100 Proの特長

AFM100 Pro は、AFM100をベースにカンチレバーの変位検出の高感度化をはかるとともに、光熱励振によりカンチレバーを振動させる機構を採用した新設計の光ヘッドを搭載し、「物性計測感度の向上」と「原子・分子スケールの計測」を追求したハイエンドモデルである。

光ヘッドの高感度化

AFM100 Pro の高感度光ヘッドは、カンチレバーの変位検出機構を一新し、高出力レーザーのモードホップノイズを抑制する高周波変調や光検出器のショットノイズの低減を行ない、変位検出時のノイズレベル 35 fm/ √ Hz 以下を実現し、従来の光ヘッドに比べて約8倍の高感度化を実現した。高感度化により微弱力や微小変位の検出が求められる物性測定モードにおいて、SN 比を向上させることができる。
物性測定の高感度化の一例として、PRM(圧電応答顕微鏡:探針 – 試料間に交流電圧を印加し、試料の圧電効果により生じる歪をカンチレバーの変位として計測、画像化する)で、(Na, K)NbO3試料の分極ドメイン分布を AFM100 ProとAFM100 Plusとで比較した結果を図7に示す。
AFM100 Pro によって得られる信号はノイズが少なく、微小なドメインの分極状態も感度良く捉えていることがわかる。

図7 (Na, K)NbO3試料の分極ドメイン分布のAFM100 ProとAFM100 Plusとの比較サンプルご提供:名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授 柿本 健一様

図7 (Na, K)NbO3試料の分極ドメイン分布のAFM100 ProとAFM100 Plusとの比較
サンプルご提供:名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授 柿本 健一様

光熱励振法によるカンチレバー励振(IR Drive)

新たなカンチレバーの励振方式として、カンチレバーの背面に照射するレーザー光のパワーを変調させることで生じる熱変形を利用してカンチレバーを振動させる光熱励振方式(IR Drive)を搭載した。
従来の圧電素子による機械的なカンチレバー励振方式(Piezo Drive)と異なり、周辺部材の振動の影響を受けることなくカンチレバー自体を振動させることができ、サブnmオーダーの微小振幅を安定して得ることが可能となった。

図8 光熱励振法の概要図

図8 光熱励振法の概要図

従来からの励振方式では液体の粘性抵抗などの影響によって安定した振動状態を得ることが困難であった液中においても、理想的なカンチレバーの振動状態を長時間にわたり安定して得ることが可能である。
代表的なカンチレバーにおける液中での共振特性(Qカーブ)測定結果の IR Driveと Piezo Drive の比較を図9に示す。Piezo Drive では複数の副次ピークがたち信号もノイジーなのに対し、IR Drive では、液中においても低ノイズで単一の共振ピークが得られ理想的な Qカーブの測定が可能である。

図9 液中Qカーブの測定例

図9 液中Qカーブの測定例

光熱励振による安定したサブnmオーダーの微小振幅制御による高分解能測定の一例として、液中 DFM 測定によるカルサイト単結晶の原子像の測定結果を示す(図10)。規則的に配列された原子構造を測定できており、この測定データから得られた格子サイズは0.86 nm ×0.58 nm であった。これは、カルサイト(104)劈開面の最表面の原子が観察されており、図中の四角枠の方向に結晶方位が位置していることが分かる。

図10 液中カルサイト原子像の測定結果

図10 液中カルサイト原子像の測定結果

まとめ

多機能プローブ顕微鏡 AFM100シリーズとハイエンドモデルである AFM100 Pro の特長、およびアプリケーション事例について紹介した。
AFM100シリーズに共通の特長として、ドリフト性能に代表される基本性能を向上させるとともに、プリマウントレバーによるカンチレバー取り付けの簡便化や、オートパイロット機能を利用することで、測定者起因の測定誤差の排除、低減を実現した。これらの機能により、特に品質管理用途でのデータ信頼性と作業効率の向上に寄与できる。AFMマーキングによりプローブ顕微鏡の長所(三次元形状測定、物性測定)を活かしつつ、SEM 装置との親和性を提案することで、プローブ顕微鏡を活用した材料分析ソリューションの展開をさらに広げることができる。
また AFM100 Pro では、変位検出機構を一新し変位検出感度の向上・低ノイズ化を実現するとともに、新たなカンチレバー励振方式として光熱励振方式を採用しサブnmオーダーの安定した微小振幅を実現した。先端素材の微細化(ナノ材料)、薄膜化、有機化に伴う構造・物性評価へ AFM 装置の適用が可能となる。

謝辞

AFM100 Pro の高感度光ヘッドは金沢大学の福間剛士教授のご指導により開発したものである。

著者紹介

工藤 慎也
(株)日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 CT システム製品本部 解析システム第二設計部

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