Rapid Microbial Testing System Lumione® BL3000
-Rapid Detection of a Single Microorganism in Hours-
福薗 真一*1、石丸 真子*2、久松 光湖*3
医薬品/医療機器、飲料、食品、化粧品、衛生用品などの様々な製品において、品質管理および品質保証として微生物管理が求められている。従来の微生物管理方法としては培養法が広く用いられているが、試験結果が得られるまでに数日から十数日要している。これにより、製品への微生物の混入など異常が発生した場合、製造設備などは既に洗浄が終わっていることが多く微生物混入ルートの確定が困難になるなど、品質管理の観点から大きな課題となっている。また、多くのメーカでは出荷までに製品を保管する必要があり、保管費用やキャッシュフローなどが経営的な課題にもなっている。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより世界中で迅速な製品出荷が求められている。これらの課題の解決手段として、固相またはフロー方式のサイトメトリーなどの直接法と、免疫法、核酸法、生物発光法、蛍光法、インピーダンス法、ガス測定法、質量分析法などの間接法の様々な微生物迅速法が提案されている1)。現在、市場で受け入れられている迅速法は、短期培養と高感度検出(例えば、生物発光法・蛍光法やガス測定法)を組み合わせた方法が主流である。本方法は、培養法をベースとしていることから、従来の培養法と相関性が高く、新規検査法を導入する際に必要な分析法バリデーション2)が容易な利点がある。しかし、短期培養が必須なことから迅速性の観点では、日単位、例えば、培養法で7日要する検査を3日に短縮可能ではあるが、時間単位の迅速化は困難と考えられる。一方、生物発光法、サイトメトリー法、核酸増幅法などは時間単位の迅速化が可能ではあるが、一般的には10 ~ 100 CFU(Colony Forming Unit;寒天培養で1個のコロニーを形成する単位、微生物1個に相当)レベルの感度であること3)から培養法と同等レベルでの微生物管理は困難であった。
我々が開発した微生物迅速検査装置 Lumione® BL3000(図1)(以下、Lumione)は、アデノシン三リン酸(Adenosinetri-phosphate:ATP)生物発光法を測定原理として採用し、微生物を培養しないで微生物中のATP を直接検出することにより、時間単位の迅速性が可能な検出方法である。さらに専用試薬(前処理試薬、発光試薬)および微弱な発光をリアルタイムで検出可能な発光計測装置の開発により、ATP 検出下限1 amol 未満という高感度検出を実現した。微生物1CFU中のATP量は多くの菌種において1 amol程度かそれ以上なので、本検査システムは微生物1 CFU程度の感度を持ち、最も普及している従来の平板寒天培養法と同程度の検出感度を持っている。このようにLumione は、微生物1個相当を時間単位で迅速検出できるという点で画期的な微生物検査システムである。
図1 Lumione BL3000外観
ATP 生物発光法は、全ての生物細胞にエネルギー源として共通に存在するATP をルシフェリン/ルシフェラーゼ反応による発光で検出する方法で、以下の反応によるものである。
ATP + D-ルシフェリン + O2
↓ ルシフェラーゼ Mg2+
AMP + ピロリン酸 + オキシルシフェリン + CO2 + 発光
ATP は生物に由来するものなので、蛍光検出法などで問題となる微生物以外の微粒子の誤検出に関して、ATP 法では検出されない利点がある。一方、操作者由来のATP 混入やサンプルに生体物質が含まれる場合などには、事前にATP を分解消去する対策が必要な場合がある。
微生物に含まれるATP 量は、菌種や菌体の状態によって様々な値になるが、細胞サイズの大きい酵母などでは、1 CFU当たりのATP 量は数百amol、小さなグラム陰性菌では、1 amol 前後のATP 量であることが知られている4)。ちなみに、amol は1×10-18 mol であり、例えれば、琵琶湖に小さじ1/3程度の塩を入れた時の塩分の変化量に相当するぐらい微量な量である。
また、従来のATP 生物発光法による微生物の検出感度は、10 ~ 100 CFUレベルであること3)から、ATP 量としては少なくとも10 ~ 100 amolレベルの検出感度であると考えられる。
Lumione では、ろ過法と混合法の2種類の方法を利用することができる。
ろ過法は、微生物をろ過により回収することで濃縮効果が得られ、サンプル溶液の成分が原因となる様々な阻害を回避できることから、高感度検出に適した方法である。一方でサンプルによってはろ過ができない、またはろ過できるサンプル量が少ないといった問題が生じる場合がある。
混合法はサンプル溶液に試薬を混ぜるだけの方法で、操作が非常に簡便であり、ろ過が困難なサンプルでも測定できる可能性があるといった利点がある。一方、サンプル溶液の成分による発光阻害が発生し偽陰性になるといった問題が生じる場合がある。したがって、抗菌剤の効果試験など既知の高濃度の微生物を検出する用途や増菌培養と組み合わせた検出に適した方法である。
ろ過法の検査フローを図2に示す。
図2 ろ過法の検査フロー
以上の工程により、製薬用水100 mL 中の微生物を1時間で培養法と同等レベルで検出することが可能である。
混合法の検査フローを図3に示す。
図3 混合法の検査フロー
混合法は、
Lumione は1個のラックに24本の計測チューブをセットでき、1本あたり2.5分で測定するので24サンプルを1時間で検査することが可能である。また、10種類の検量線を登録できることから、サンプルの液組成に応じて最適な検量線からATP 量を求めることが可能である。
また、ろ過法および混合法ともに、検査結果の自動判定機能として、警報基準と処置基準のATP 量を設定し、測定サンプルの合否を自動判定することができる。
Lumione BL3000の特長を以下に示す。
Lumione は光を遮断した暗箱内で発光試薬を自動分注する機構を持つことで、発光のリアルタイム計測が可能である。
ろ過法を用いたATP 発光量のリアルタイム計測の例と低ATP 量における検量線の例を図4に示す。
図4 リアルタイム計測と検量線
図4 A からルシフェリン/ルシフェラーゼ反応によるATP 発光は、発光試薬を添加した直後に最大の発光を示し、その後すみやかに減衰した。Lumione は試薬添加前から信号を測定し、発光直後の最大発光量を確実に取り込むことで安定した発光測定が可能である。また、発光を無駄なく検出する光学系のレイアウトおよび信号処理技術を用いたシグナル/ノイズ比の向上により感度の向上を図っている。さらに、試薬メーカとの共同開発により、amolレベルの微量領域に最適化した専用試薬を開発し、使用する容器に関しては製造工程におけるATP の混入を防止する製造工程を確立してATPバックグランドを低減している。
図4 B に示した検量線から、検出下限は0.2 amol、定量下限は、0.5 amol であった。我々のこれまでの経験から、平均的には検出下限0.3 amol が得られている。
次に、微生物に含まれるATP 量を測定した結果を表1に示す。
表1 各種微生物に含まれるATP量
微生物1 CFU に含まれるATP 量は、微生物の種類によって様々である。また、栄養源が存在しない貧栄養状態では、同じ微生物でも含まれるATP 量は栄養が豊富な増殖期と比べると低下する。測定した微生物の中で最もATP 量が少なかったのは、貧栄養状態の緑膿菌で0.3 amol/CFU であった。Lumione のATP 検出下限は0.3 amol 程度であることから、1CFU の緑膿菌を検出できると考えられる。また、微生物中のATP 量を調査した文献4)によると比較的小さなグラム陰性菌の平均ATP 量は1.5 amol/CFU、比較的大きな真菌では、800 amol/CFU であった。
以上のことから、Lumione は微生物1 CFU を検出可能な感度を有していると考えられる。
混合法によるダイナミックレンジの例を図5に示す。
図5 ダイナミックレンジ
ATP 量0 ~ 500,000 amol の範囲において、相関係数1.00と良好な直線性であった。このような広いダイナミックレンジを持つことで、衛生用品に使用される抗菌剤の効力試験などで、サンプルを希釈することなく5桁の範囲で試験を実施することができ, 大幅な省力化が見込める。
近年、様々な業界で検査データの不正な取り扱いが社会問題になったことから、データインテグリティ(データの完全性:データのライフサイクル全体において、改ざんや偽装を防ぎ、データの完全性と正確性が客観的に担保されていること)が重要な品質管理指標として注目されている。
また、医薬品製造に関わる測定機器には、コンピュータが所期の目的どおり正常に作動することを検証すること(Computerized System Validation:CSV)が求められており、国内では厚生労働省からのER/ES 指針、アメリカでは食品医薬品局から発効されたCFR21 Part11、EU ではEU 薬事規則第11章(Annex11)に規定されている。
Lumioneソフトはデータインテグリティを支援するために、以下の機能を有している。
表2 データインテグリティを支援する主なソフト仕様
医薬品製造に使用される製薬用水を従来の培養法とLumione ろ過法で比較した結果を図6に示す。
図6 製薬用水の測定例
製薬工場で使用される常水(水道水)と精製水をそれぞれ3サンプル、従来の平板寒天培養法とLumione のろ過法でATP 量を測定した結果、水道水では培養法で3サンプル全てにコロニーが観察され、ATP も検出された。一方、精製水では、3サンプル全てでコロニーは発生せず、ATP も検出されなかった。以上、Lumione のろ過法は、従来の平板寒天培養法と同様の検査結果を得ることができた。
次に、ATP 法を消毒効果試験に応用した例を示す。この試験は、試験対象に既知の微生物を添加し、その微生物の減少値で消毒剤の効果を評価する試験である。この試験における微生物濃度は高濃度であり、高感度検出は必ずしも必要ではない。そこで、図3に示したように前処理の簡便な混合法を採用した。
顧客から提供された消毒薬の消毒効果試験を実施した例を図7に示す。消毒薬は、0、0.1、1、10 ppm の濃度に調整し、Candida albicans を7.8×104 CFU/mL 添加した。4時間経過後、培養法は希釈系列を作製して寒天培地で培養して生菌数を測定し、ATP 法は混合法でATP 量を測定した。それぞれの結果から、添加した菌が4時間後に何桁減少したかを示す対数減少率を算出した。
図7 消毒効果試験例
Lumione 混合法と培養法は、消毒液の濃度依存的に同様の対数減少を示した。培養法では、1枚の平板寒天培地(シャーレ)に適当量のコロニー数(30 ~ 300 CFU)となるように濃度を調整する必要があり、消毒液1濃度に付き、2または3菌濃度、n =3の場合、合計6 ~ 9サンプルを試験する必要がある。一方、Lumione は、5桁の広いダイナミックレンジを持つことから、複数の菌濃度サンプルは不要になるため、n=3であれば3サンプルの測定で可能であり、大幅な省力化が図られた。
微生物迅速検査装置 Lumione は、時間単位の迅速性と1 CFUレベルの高感度を両立しているので、以下のメリットがあると考えられる。
医薬品/医療機器、飲料、食品、化粧品、衛生用品などの様々な業界へATP 法の普及に努めると共に、将来的には再生医療業界にも大きなニーズがあるので、前処理法の改良によりサンプル由来ATP の影響を排したアプリケーションを開発して応用先を拡大して行きたいと考えている。
参考文献
著者紹介
*1福薗 真一
(株)日立ハイテクサイエンス FS 第二設計部
*2石丸 真子
(株)日立ハイテク アナリティカルソリューション事業統括本部 (AS統)事業戦略本部 事業開発部
*3久松 光湖
(株)日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 (CT統)事業戦略本部 新事業創生部