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日立ハイテク

熱分析装置 示差走査熱量計 NEXTA®DSCシリーズ

Thermal Analyzer Differential Scanning Calorimeter NEXTA DSC Series

西村 晋哉

はじめに

示差走査熱量測定DSC(Differential Scanning Calorimetry)は、熱分析手法の一つであり、材料の融解、ガラス転移、結晶化、熱硬化などの転移の他、熱履歴の検討から比熱、純度など様々な測定が可能である。それ故にDSC は材料の熱特性を分析するうえで欠かせないもので、国内外を問わず、高分子材料や無機材料、医薬品、石油化学などの研究・開発、品質管理などで幅広く利用されている。
当社では1970年代以降、熱流束型のDSC を自社開発し世界中に販売してきた。2020年には熱分析装置の新世代のNEXTA DSCシリーズとして、ハイエンドモデルのDSC600、スタンダードモデルのDSC200の2機種をリリースした。

図1 DSC600の外観

図1 DSC600の外観

NEXTA® DSCシリーズの概要

近年、材料や素材の高機能化・複合化に伴い、基礎研究から製品開発における各種材料の機能、効果が温度変化によってどのように変化するかを明らかにする熱分析装置の熱物性評価への要求は、ますます多様化・複雑化している。高性能化と微細化が進むエレクトロニクス製品の故障解析においては、微量な試料の分析や成分の測定を行うため、より高精度な測定を実現する高い感度と、測定における安定性と再現性を示す高いベースライン性能が求められている。また、自動車、航空機などの幅広い分野で活用されている高機能高分子、高機能フィルムの測定においても、高分子の熱特性を精度よく計測するために、より高いベースライン性能が求められている。
このような市場の要求に応えるためNEXTA® DSCシリーズには、①高感度測定、②安定したベースライン再現性、③低温領域の試料観察に対応したReal View の3点の特徴がある。

高感度化

NEXTA® DSC600では示差熱検出(DSC 信号)の温度センサである熱電対を複数本直列に接続し多重化(サーモパイル)させた自社開発サーモパイル型DSCセンサを搭載することで、0.1 μW 以下という高感度を実現し、母材に対して少ない量の添加材や、ブレンドされた樹脂材料などの測定が高精度に可能となった。

図2 DSC600 DSCセンサの構造

図2 DSC600 DSCセンサの構造

以下に自動車や航空機の躯体として使用されている炭素繊維強化エポキシ樹脂における高感度化の測定事例を紹介する。当該材料は、樹脂材料の機械的強度を高めるために炭素繊維を含んだエポキシ樹脂であるため、エポキシ樹脂単体よりも樹脂成分の割合が少なくなることから、ガラス転移や発熱ピークの検出には、高感度やベースラインの安定性が求められる。
まず図3に直線的に昇温したDSC の測定結果を示す。1回目昇温では50 〜60℃付近にガラス転移があることが分かる。一方、100℃以上の領域においては126.7℃に吸熱ピークがあるようにも見えたり、150.8℃に硬化による発熱ピークがあるようにも見え、データの解釈が難しい。
このような測定データに対して、より正しく判断する方法の一つとして温度変調DSC の測定方法がある。温度変調DSCとは、温度をサイン波状に周期的に振りながら昇温していく測定方法で、その結果から可逆成分であるガラス転移、不可逆成分である硬化発熱やエンタルピー緩和を分離することが可能である。
温度変調測定後は、(A)総熱流、(B)可逆成分、(C)不可逆成分の3成分へ分離される。分離した結果を図4に示す。(A)総熱流は通常のDSC 測定をした場合と同様のものとなる。(B)可逆成分と、(C)不可逆成分 両方の60℃付近に注目すると、(B)では明確にガラス転移が分離され、ガラス転移温度を判断することができる。また(C)ではエンタルピー緩和による吸熱ピークが存在することが、成分分離後に確認できた。通常の測定ではガラス転移と同じ温度域に発生していたため、確認することが不可能であった。
最後に(C)の150℃に注目すると、通常測定では判断に迷っていた現象は、吸熱ピークではなくて発熱ピークと判断でき、未硬化状態のエポキシ樹脂の硬化が起きていると考えることができる。

図3 通常のDSC測定
図3 通常のDSC測定

図4 温度変調DSC測定
図4 温度変調DSC測定

安定したベースライン再現性

NEXTA® DSCシリーズは加熱部であるヒートシンクから冷却システム部に至るまでシームレスな接合技術で設計した炉体構造と、低熱容量の金属製3層構造の断熱壁を採用した。この構造によって、電気冷却式冷却システムにおける-50 ~ 300℃の測定範囲において極めて高い安定性を示すベースライン再現性±5 μW を実現し、高い精度で微量成分での熱物性を明確に検出できるようになった。

図5 NEXTA DSC の炉体構造

図5 NEXTA DSC の炉体構造

低温領域の試料観察に対応したReal View

試料観察熱分析装置(Real View®)は、従来不可能であった熱分析測定中の試料を観察することを可能とした。得られた試料観察画像は、熱分析データと同期しているため、例えばDSCピーク時の試料画像を表示することも容易に可能となった。
NEXTA® DSCシリーズでは、200万画素の高解像カメラを搭載することで試料内の局所的な観察にも対応しており、ビューポート(観察窓)にはヒートアップ機構を採用したことで、従来の観察可能範囲が室温以上であった測定範囲を-50℃の低温領域にまで拡張した。これにより、低温領域における試料の観察はもちろん、従来目視で行っていた融点測定や変色に伴う耐熱性評価を定性的に解析できるように色空間解析機能を搭載して、より幅広い測定へのニーズに応えている。
一例として、以下に室温以下の試料観察の測定事例としてエンジンオイルの曇点を紹介する。曇点を境にしてオイル自体の流動性が大きく変化することからオイル業界では重要な因子になっているが、いまだに目視に頼っている所は多い。
エンジオイルを室温からマイナス温度域へ一定速度で冷却する-15℃付近から発熱ピークが現れる。これは結晶化に伴うピークで曇点に相当する変化である。
目視で画像を確認すると-25℃付近で試料が濁り始めていることを認識できるが、色空間解析によって明度を確認すると、発熱ピークに連動するように明度Lが低下していることが分かる。明度の変化をグラフ化できるので、解析が容易になり目視より確度が高い判断が可能となる。

図6 エンジンオイルの曇点測定

図6 エンジンオイルの曇点測定

まとめ

NEXTA® DSCシリーズは、高感度、ベースライン性能、試料観察機能を搭載した製品である。より高精度な測定や、微量な試料の分析や成分の測定を行うために最適なシステムになっている。

著者紹介

西村 晋哉
(株)日立ハイテクサイエンス 分析開発設計本部 FS 第一設計部

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