Features and Applications of the Automatic Particle Search Function for the Hitachi 120 kV TEM HT7800
和久井 亜希子*1、野寺 康行*2
透過電子顕微鏡(以下、TEM:Transmission electron microscope)のワークフローではその視野から観察目的の試料を探索する作業に時間がかかる。特に、あまり見慣れない試料や観察の経験が少ない場合などは見逃すことも多い。そこで、日立Bio-TEMシリーズでは、こうした課題を解決するために、自動で試料検索するシステムを開発し、夾雑物や類似の構造物が多く含まれるネガティブ染色試料へ適用し、目的のウイルスの自動検索を進めてきた1)。最新型120 kV TEM HT7800は用途に応じたデジタルカメラを用いることで、観察から画像取得まで一連のワークフローの効率化を図っている。HT7800の自動粒子検索機能では、マッチング手法などの新技術を採用し、より精度良く目的のウイルスを探索することを可能とした2)。本稿では、新しい自動粒子検索機能の特長とその応用例を紹介する。
最高加速電圧120 kV のHT7800は、日立独自の複合対物レンズを搭載し、HCモードによる広視野・高コントラスト観察と、HRモードによる高解像・高分解能観察が可能であり3)、バイオ・メディカルからナノ材料など幅広い分野で活用されている(図1)。蛍光板観察用の高感度スクリーンカメラは、肉眼ではほとんど観察できない無染色試料や氷包埋試料のような電子線損傷を受けやすい試料も容易に観察できる。加速電圧は、20 kV から120 kV まで可変することができ、観察目的に合わせた加速電圧の選択が可能である。また、予め指定した箇所を自動撮影するImage navigation 機能を搭載し、オートフォーカス機能やドリフト補正機能など各種オート機能を充実させ、簡単オペレーションを実現した4)。
図1 最高加速電圧 120 kV TEM HT7800の外観
自動粒子検索機能の動作フローを図2に示す。本機能をスタートすると、試料ステージが自動的に移動して、その視野内に目的とする粒子があるか否かを判定する。「YES」と判定したら、自動的に像を記録するが、「No」であれば、次の視野へ移動し、粒子の有無を判定する。なお、「YES」判定で記録された像には、検索した粒子にそれぞれ個体番号が付記されている。
HT7800の自動粒子検索機能では、テンプレートマッチングを採用している。この手法では各種のパラメータを個別に変更することが可能であるので、粒子のヒット率を改善することができるだけでなく、ネガティブ染色以外の試料への適用が期待できる。
図2 自動粒子検索機能の動作フロー
ヒト便材料から抽出したノロウイルスを試料として用いた。試料懸濁液をカーボン補強済コロジオン支持膜貼付の400メッシュに滴下し、2%酢酸ウラニルでネガティブ染色した。加速電圧100 kV、撮影倍率20,000倍で自動粒子検索を行った結果、36枚の画像を自動取得した。図3はノロウイルスの自動検索結果である。図3(a)に示すように、自動取得した画像では、検出したノロウイルス粒子には個体番号が付記されているので、個別の定量解析も可能である。図3(b)は画像解析ソフトウエアImage Pro Premier 2D( Media Cybernetics Inc.)を用いて、粒子の直径および面積を計測した結果の一例である。検出されたノロウイルス粒子全体の平均粒径や粒子直径の粒度分布を作成することもできる。今回の事例では、4,069個のノロウイルスを検出し、平均粒径は25.2 nm、平均面積は532.3 nm2の定量解析結果を得た。図3(c)は、検出したノロウイルスの粒度分布である。粒度分布より直径24 nm から26 nm の範囲に48%のウイルス粒子が存在することが分かった。
図3 ネガティブ染色を施したノロウイルスの自動粒子検索結果
(a)粒子解析画像,( b)定量解析結果,( c)粒度分布
HT7800の自動粒子検索機能にはテンプレートマッチングの手法を採用している。この手法では各種のパラメータを変更できることから、複雑な組織中から特定のウイルス粒子の自動検索を試みた。
試料にはコロナウイルス(ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス)に感染したラット大脳皮質を用いた。アルデヒド系固定液と四酸化オスミウムによる二重固定後、エタノール系列での脱水を行い、エポキシ樹脂に包埋した組織ブロックからウルトラミクロトームにて厚さ80 nm 程度の超薄切片を作製した。超薄切片はクエン酸鉛と酢酸ウラニルで電子染色を施した後、加速電圧100 kV にてTEM 観察を行った。図4はブタコロナウイルスに感染した大脳皮質のTEM 像で、核(N)やミトコンドリア(M)などの細胞小器官が密に詰まった細胞質に電子密度の高い小胞状の構造が確認できる(図4(a))。その一部を拡大すると、50 nm から90 nm 径のウイルスの断面が観察できる(図4(b))。今回はこのウイルスをターゲットとして自動粒子検索を実施した。
図4 ブタコロナウイルスに感染したラット大脳皮質樹脂包埋超薄切片のTEM像
(a)観察倍率2,500倍,( b)観察倍率15,000倍
(加速電圧100 kV, N:核, M:ミトコンドリア)
①パラメータの検証
自動粒子検索機能の各種パラメータを表1に示す。それぞれのパラメータには標準試料を用いて実験的に求めたデフォルト値が設定されている。図5に示した視野について約90 nm 径のコロナウイルスをターゲットとしてパラメータを最適化した。この視野には94個のウイルス粒子が存在していることを予め確認しているので、パラメータを変更して自動粒子検索を行った際のヒット率(%)(*)を指標として、パラメータの最適化を図った。
(*)ヒット率=(ヒット数/(ウイルス総数:94個))×100
表1 各種パラメータとその概要
図5 パラメータ検証に用いたブタコロナウイルスに感染したラット大脳皮質のTEM像
(加速電圧100 kV, 観察倍率10,000倍)
表2および表3に検証結果の一例として、Search range およびSearch step の検証結果を示す。
Search range は、粒子サイズの範囲を設定するパラメータで、30 % のとき粒子径90 nm では、粒子径63 ~ 117 nm の範囲で粒子を検出する。表2に示すようにデフォルト値0 % のヒット率は39 % で、Search range を30%、40% では、ヒット率は66%であった。Search range 50%では、検出数は81個と最も多かったが、誤検出も多く、ヒット率は49%であった。これは、Search range 50%の条件は、粒径45 ~ 135 nm でのテンプレートマッチングを実施するためである。
表2 パラメータ Search rangeの検証
Search step は、検索目的の粒子サイズに対してマッチングするステップを決めるパラメータで、ステップ数が大きいとマッチング回数が増える。Search step 3、5、7および9についてそれぞれヒット率を求めた。なお、Search range は30%で自動粒子検索を実施した。表3に示すように、今回、デフォルト値のSearch step 3においてヒット率が66%であり、Search step 9の時に最大ヒット率 74%となった。今回の試料の場合、ウイルスの切削断面により粒径は変化するので、粒径のばらつきが大きいサンプルでは、 Search step を大きくしてマッチング回数を増やす方が良いと結論できる。
表3 パラメータ Search stepの検証
①適用事例
今回検証したパラメータの最適値による適用事例を図6に示す。図6(a)はコロナウイルスの自動粒子検索結果で、検索粒子が個体識別番号を付記して検出されている。細胞などの複雑な背景の中から目的のコロナウイルスを自動検索することができていることが分かる。また、今回検出されたコロナウイルスの粒子解析を実施したところ、その粒度分布より、コロナウイルスの粒子径にばらつきがあることが分かった(図6(b))。これは、組織切片中のウイルス粒子は、切削部位により、様々な断面となることから、粒子径のばらつきが大きくなるためと推測される。このように粒子径のばらつきのあるサンプルにおいても、探索パラメータを最適化することで精度よく目的のウイルスを検出することが可能であり、TEM 検鏡作業の効率化が期待できる。
図6 ブタコロナウイルスに感染したラット大脳皮質樹脂包埋超薄切片の自動粒子検索結果
(a)自動粒子検索画像(加速電圧100 kV, 観察倍率15,000倍), (b)粒度分布
HT7800 TEM における自動粒子検索機能の特長とその応用例を紹介した。本機能を用いることによって、ネガティブ染色試料や細胞組織の樹脂包埋超薄切片中から目的のウイルス粒子を精度よく探索することができる。これによって、TEM 検鏡作業の効率化を図り、さらにまた、見落としも少なく高精度で探索することも可能となる。
参考文献
謝辞
本研究で用いたノロウイルス試料は、国立感染症研究所客員研究員 宇田川悦子博士( サイエンス・ラボ横浜 代表) よりご提供いただいた。また、コロナウイルス( ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス) に感染したラット大脳皮質試料は、岩手医科大学医歯薬総合研究所 石田欣二先生および元岩手大学農学部獣医学科獣医微生物学研究室 平野紀夫先生よりご提供いただいた。心から感謝申し上げます。
著者紹介
*1和久井 亜希子
(株)日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 CT システム製品本部 CT ソリューション開発部
*2野寺 康行
(株)日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 CT システム製品本部 解析ソフト設計部
登録記事数 203件
まだまだあります。