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日立ハイテク

坂元 秀之

はじめに

原子吸光光度計は液体中の元素濃度を測定する装置で環境や食品など様々な分野で広く使用されている装置であり、測定する濃度に応じて主に化学炎で元素を原子化させるフレーム法と電気炉で元素を原子化させるグラファイト法がある。原子化された元素が特定の波長の光を吸収する性質を利用し、光の吸収量を吸光度として既知濃度の標準液を用いて作成された濃度と吸光度の関係式(検量線)から未知試料中の目的元素の濃度を算出する。試料中に共存物が含まれる場合、特定の波長の光を吸収し測定値に誤差を与えること(バックグラウンド)が知られているが、日立の原子吸光光度計ではバックグラウンドの影響を抑制するため永久磁石を用いた偏光ゼーマン補正法を用いて精度の高い分析値を提供している。ZA4000シリーズでも同様にこの技術が採用されている。また本シリーズでは通常1元素ずつの測定を行うフレーム法において複数の元素を連続して測定する「ラピッドシーケンシャルフレーム」を搭載した機種(ZA4800)もラインナップした。図1にZA4000シリーズの装置ラインナップを示した。

図1 ZA4000シリーズ装置ラインナップ

図1 ZA4000シリーズ装置ラインナップ

ZA4000シリーズの特長

偏光ゼーマン補正法によるバックグラウンド補正

原子吸光光度計は目的元素が特定波長の光を吸収する量(吸光度)から濃度を算出するが、測定試料に含まれる共存物により、その成分が特定波長の光を吸収し、分析値に影響を与える場合がある。これはバックグラウンドの一つとして知られており、これを抑制するために装置では目的元素と共存物の光の吸収量の総和( 見かけの吸収)と共存物の光の吸収量(バックグラウンド吸収)の二つの信号を測定し、前者から後者を差し引くことでバックグラウンド補正を行っている。日立の原子吸光光度計ではバックグラウンド補正に約50年の歴史の中で培われた永久磁石を用いた偏光ゼーマン補正法を採用し、光源であるホローカソードランプを点灯した直後から安定したベースラインを提供、また全ての元素においてバックグラウンド補正を行うことができる。補正の原理を図2に示した。

図2 偏光ゼーマン補正法の原理

図2 偏光ゼーマン補正法の原理

デュアル検知方式による高感度化

図3にZA4000シリーズの光学系を示した。ZA4000シリーズでは二つの検知器を搭載し、見かけの吸収とバックグラウンド吸収を独立した検知器で測定している。これにより単位時間あたりに検知できる光量が増え、ノイズの小さい信号を得ることができ、高感度化を図ることができる。

図3 ZA4000シリーズの光学系

図3 ZA4000シリーズの光学系

フレーム法による複数元素の連続測定

ラピッドシーケンシャル測定のご紹介

原子吸光光度計は試料に対して1元素を測定することが一般的であるが、ZA4000シリーズではフレーム法において一度の試料導入で複数元素を連続して測定するZA4800をリリースし、この手法を「ラピッドシーケンシャル測定」(RS 測定)とした。RS 測定では光源であるホローカソードランプを4本同時に点灯することができ、最大12元素の連続測定を可能にした。原子吸光光度計は回折格子を用いて目的元素が吸収する光を分け、検知器で光量を測定するが、RS 測定では新たに開発した回折格子の駆動機構を用いることで測定中に回折格子を高速駆動させ検知器に取り込む光の波長を変えて複数元素の連続測定を行う。これに合わせてホローカソードランプも目的元素のものに切り替える。なお5元素以上の測定を行う場合は、1本で複数元素の光を放出する複合ランプを用いる。図4に一例として、6元素20試料を測定した場合の従来のフレーム測定とRS 測定の時間の比較を示す。従来のフレーム測定の場合は測定条件を決定し20試料を測定したのち元素を切り替え、同様の測定を残り5元素行う。合計で試料を120回導入する必要がある。しかしRS 測定の場合、一度の試料導入で測定条件を切り替えながら6元素を連続して測定するため、20回の試料導入で測定が完了する。これにより分析者の作業ストレスを緩和しつつ、測定条件により違いはあるが約30%の時間短縮を行うことができる。

図4 従来のフレーム測定とラピッドシーケンシャル測定の比較

図4 従来のフレーム測定とラピッドシーケンシャル測定の比較

ラピッドシーケンシャル測定と従来のフレーム測定との測定結果の比較

RS 測定と従来のフレーム測定の値に違いがないかを確認するため、同一の溶液を用いてZA4800(RS 測定)とZA4300(従来のフレーム測定)の二機種で測定を行った。測定結果の比較を図5に示した。左図はPbとCuを対象に1~10 mg/L程度の測定を行った結果である。測定結果は二機種でほぼ一致し、決定係数(R2)も1.000と良好であった。右図はMnとCd を対象に0.1 ~ 2 mg/L 程度の測定を行った結果であり、低濃度においても良好な結果となった。これらの結果からRS測定は従来のフレーム法と互換があることが示唆できた。

図5 従来のフレーム機とラピッドシーケンシャル機による測定結果の比較

図5 従来のフレーム機とラピッドシーケンシャル機による測定結果の比較

まとめ

1955年にWalshとAlkamade によって原子吸光法が提唱されてから約70年の間、原子吸光光度計は様々な進化を遂げ、日立では1978年に世界に先駆け偏光ゼーマン原子吸光光度計170-70をリリースした。図6に日立の原子吸光光度計の歴史を示した。ZA4000シリーズはこれまでの歴史で培われた技術に、新たな技術としてラピッドシーケンシャル測定を追加し、さらに進化を遂げた。幅広い分野で利用される原子吸光光度計の益々の活用に期待したい。

図6 日立の原子吸光光度計の歴史

図6 日立の原子吸光光度計の歴史

著者紹介

坂元 秀之
(株)日立ハイテクサイエンス 開発設計本部 アプリケーション開発センタ 応用技術一課

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