渡邉 俊哉*1
超高分解能電界放出形電子顕微鏡SU8200シリーズは、新コールドFE電子銃を搭載し、低加速電圧の観察と分析を強化した装置です。観察では、減速光学系により照射電圧10 Vからの極表面の測定を可能とし、オプションのフィルタ機能を用いた高コントラスト組成観察やSTEM 像の観察も可能となっています。EDX 分析では、Bruker AXS社のQUANTAX FlatQUAD(以下 FlatQUAD)を組み合せることによって、より高感度での元素分析が可能となっています。
図1はSU8200とFlatQUADの外観および検出器の位置関係を示したものです。図1(a)のように、FlatQUAD検出器は、横方向から挿入する形式となっています。通常のEDX検出器は、図1(c)左側検出器のように、斜めに挿入し、分析部分を斜めから見込む形でX線を検出します。一方、FlatQUADは対物レンズと試料の間に検出器を挿入する形式で、試料の直上に検出器を配置し(図1(c)右側検出器)、広角度かつ直上方向に放出されたX線を検出することができます。FlatQUADでは、立体角約1.1 srでの分析が可能となり、短時間で高収量の分析が行えるので、ダメージを受けやすい試料の分析や分析時間の短縮も可能となります。低加速電圧での空間分解能の向上も実現でき、通常のEDX検出器とも同時取り付けが可能となっています。さらに試料直上への素子設置を活かし、深穴底部の分析にも威力を発揮します。
図1 外観およびEDX位置模式図
図2 標準検出器とFlatQUAD検出器による分析結果比較
加速電圧:5 kV 倍率:1,300倍 分析時間:5分
Cu基板上のステンレス材にテーパー加工した試料を通常の検出器とFlatQUADで分析した例を図2に示します。加速電圧5 kV、倍率1,300倍、分析時間5分で分析しました。通常の検出器では、底部のCuおよびテーパー部のFeが検出されていません。これは、模式図に示すように、側壁が底部やテーパー部から発生するX線の障害物となり検出されないためです。一方、FlatQUADによる分析では、SUS材のFeがテーパー部まで分析できており、穴底のCuも明瞭に分析できています。これは、試料直上に検出器が存在するため、テーパー部や穴底から発生したX線がそのまま検出されるためです。このように本システムでは、従来では困難であった大きな凹凸や穴底の分析が可能となっています。
SU8200シリーズとQUANTAX FlatQUADの組み合わせにより、コールド電界放出形電子銃の性能を活かした高分解能観察と高立体角・高感度EDX分析が可能となり、試料形状に依存しない定性分析やマッピングによる組成分布をスループット良く行うことができるようになります。
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