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座長:新岡 丈典 氏 弘前大学医学部附属病院 薬剤部

株式会社日立ハイテクと株式会社日立ハイテクサイエンスは共催で,第 32 回日本医療薬学会年会においてメディカルセミナー「『うちでもデキル!』『私でもデキル!』タイムリーな TDM の実践!!!」を 9 月 24 日,会場(G メッセ群馬:群馬県高崎市)とウェブのハイブリッド形式で開催した。高速液体クロマトグラフ「LM1010」を用いた大学病院と中小病院という規模の異なる医療機関における TDM(治療薬物モニタリング)の実践例が講演された。

実施日 2022 年 9 月 24 日(土)12:00 ~ 13:00

セミナー動画は特設ページにご登録のうえ閲覧いただけます。

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演題 1

Re: ゼロから始める TDM 生活

~地域ケアミックス型病院で導入から稼働まで~

畑本 慶太 氏 医療法人田中会 武蔵ヶ丘病院 薬剤部

武蔵ヶ丘病院(熊本県熊本市)薬剤部の畑本氏は,同病院における「LM1010」の導入経緯から現在の実践までを講演した。同病院は,総合診療科,循環器科,呼吸器科,消化器内科,外科,整形外科,耳鼻咽喉科,リハビリテーション科の診療科を有するベッド数 145 床の地域に根ざした中小規模病院で,入院患者は高度急性期病院からの転院や外来,救急搬送など様々な理由で来院している。一般病棟,地域包括ケア病棟,回復期リハビリテーション病棟の機能の異なる 3 棟で構成され,患者はそれぞれの疾患に適したこれら機能の異なる病棟に入院。こうした複数の機能の異なる病棟をもつ病院はケアミックス型病院と呼ばれ,患者の状態や状況に合った医療サービスが受けられることを特徴としている。また同病院の所在地である熊本市北区は高齢化が進んでおり,外来・入院共に高齢者が多く,同病院の入院患者も 60 歳以上が 7 割を超えているという。

加齢と共に生理機能は低下し,薬剤の投与量の調整は必要になるが,同病院では副作用が無ければ TDM 推奨薬剤であっても TDM が行われない例が散見され,その傾向は他の病院からの紹介患者に多かった。そこで畑本氏は TDM 推奨薬剤が投与されているが 1 年間 TDM が実施されていない症例について外注による TDM 実施を提案した。その結果,該当する全患者について TDM が実施され,投与量の変更などの改善が図られた。例えばシクロスポリンの投与患者では有効血中濃度を著しく超えた例があり,投与の中止につながった。これら改善は望ましい結果である一方で,外注であることから結果データ返却が早くとも 2 ~ 3 日を要すことが気がかりだったという。

そこで畑本氏は県内の病院の TDM の状況を調べるため,一般社団法人熊本県医療法人協会を通じて TDMに関するアンケート調査を行った。アンケートに回答した病院の 9 割は 300 床以下で,その中でも 100 ~ 200床の病院が半数を占めていた。多くの病院が外注により TDM を実施し,結果データの返却は当日が 0%,2 ~3 日後が 9 割を占め,タイムラグがあるのは多くの病院で共通していることがわかった。また返却が土日をまたぐ場合はその翌日後になる割合が 90%以上を占め,より遅くなる現状が明らかになった。結果の返却スピードに満足かを問う質問には,多くが可も不可もないと回答し,外注であるからには仕方ないとの状況を受け入れている様子がうかがわれた。

そのような中,感染制御研究会で同級生の熊本大学病院薬剤部の尾田一貴氏との雑談の中で,中小病院では大学病院とは異なり自力での TDM が困難で結果データの返却に時間を要すことに対する懸念を漏らしたことがあったという。すると尾田氏の上司にあたる城野博史氏(熊本大学大学院薬学研究部准教授・副薬剤部長)から連絡があり,同大学病院で城野氏らが実施している同機器で患者の血中濃度を測定する TDM に関する共同研究に参加しないかとの誘いを受けたという。
畑本氏自身は大学在籍中,実習以外で高速液体クロマトグラフを用いた経験はなく,測定条件の調整等が煩雑で手技にも熟練を要するとの記憶から共同研究への参加は尻込みするも,尾田氏の「LM1010」ではそれら難点がかなり克服されているとの励ましで参加を決意した。

導入にあたり課題を 1 つずつ解決

共同研究に参加するにあたり武蔵ヶ丘病院へ同機器を導入するため,日立ハイテクサイエンス,城野氏,尾田氏とのミーティングを通して,何点か考慮すべき課題があることがわかった。具体的には,必要人員数,測定薬剤の選定,他部署の協力,設置場所,測定に必要な器材の調達,測定時間はどの程度か,装置の導入コストなどがあった。実際の導入ではこれら課題を 1 つずつ解決していったという。
検討の結果,同病院の薬剤部は現在 6 人で業務を行っているが,TDM 業務は管理業務を行う畑本氏が兼任し,人員は問題ないことがわかった。測定薬剤の選定に関しては,迅速な結果反映を期待してバンコマイシン(VCM)とカルバマゼピン(CBZ)の 2 薬剤とした。他部署の協力に関しては共同研究について説明し,結果的に患者の利益になるとのことで快諾を得た。設置場所については場所の確保に多少の苦労はあったが,最終的に作業スペース込みで作業台 1500 × 600 cm に収まるサイズに収めることができた。

測定に要する時間を測ったところ,電源を入れて測定準備から測定結果を得るまでに 80 ~ 90 分を要するが,そのうち作業時間は 15 分程度だった。
最も重要な測定精度については,患者の血液サンプルについて外注と同機器のバンコマイシンおよびカルバマゼピンの結果を比較した。その結果,相関関数はそれぞれ 0.99,0.97 と極めて高く精度に差が無いことが確かめられた。
測定コストに関しては,同機器および器材のレンタル料,消耗品と有機溶媒の廃液処理があげられた。一方で,副作用の予防や即時性により適正な薬物治療が可能なため,単純にコストで示すことのできないメリットを感じているという。

講演では同機器による測定の症例として 84 歳の誤嚥性肺炎を疑われた男性患者の症例が紹介された。当初,腎機能が低下していることからセフトリアキソンの投与を開始するも,5 日間の投与で改善が見られず,このタイミングで血液培養の結果がグラム陽性球菌+の結果がわかるも菌の同定にはまだ時間を要した。そこで担当医と相談したところ,同患者には MRSA の発生歴のある施設入所の経歴があったことから,VCM に変更して投与を開始。投与 7 日目に採血と TDM の外注を検討したが 3 連休にかかるタイミングで,結果が得られるのは投与 11 日目と悪化の危険性があったことから,同機器による測定を行った。介入研究ではないため得られた数値をそのまま担当医に提案することはできないが,当初予定していた投与量設計と同機器で得られた結果による投与量は同量で安心して投与することができたという。患者は VCM 投与 7 日目以降,発熱も抑えられ快方に向かった。

畑本氏は「本当にゼロから始めた TDM でしたが,一般的な当院のような医療機関でも問題なく稼働することができました。タイムラグの無い測定は安心安全な薬物治療につながり,やはりそこが患者様の安心につながるのではないかということを経験しました」と述べた。

演題 2

感染症診療支援に TDM を活用するうえで大切なこと

~ LM1010 の利用を通じて~

塩田 有史 氏 愛知医科大学病院 感染制御部/薬剤部

塩田氏は大学病院における感染症診療支援で活用している「LM1010」の経験と,現在行っている同機器を用いた研究について講演した。
愛知医科大学病院では,抗微生物薬に関して担当医に情報を届けるため,TDM 担当の薬剤師が作成した解析レポートを病棟の薬剤師が確認,塩田氏が所属する抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)薬剤師と協議して介入する体制が整備されている。VCM のみ院内検査で対応し数時間以内で結果を出すことができる。そのほかは外注で対応し,外注検査所との交渉によりテイコプラニン,アルベカシンに関しては平日午前中の依頼で当日中,アミノグリコシドに関しては最短で翌日に結果データが返却される。一方で,ボリコナゾール(VRCZ)に関しては依頼から 3 ~ 5 日の契約になっており問題意識を持っていた。VRCZ は「抗菌薬 TDM 臨床ガイドライン 2022」でも投与開始から 3 ~ 5 日の TDM 実施が推奨されているが,大学病院でも外注となっていることから最初の用量設定から用量変更が可能となるまで 6 ~ 10 日を要している。
そこで同機器を用いた観察研究で VRCZ を院内測定することで当日中の結果データ反映が可能かを検証。あわせて現在は TDM 対象薬剤とされていないリネゾリド(LZD),テジゾリド(TZD)といったオキサゾリジノン系薬剤についても検証した。これらオキサゾリジノン系薬剤は血液毒性や血小板減少症が最も危惧される副作用となっているが,それに血中濃度が関わるかなどを検討した。

「LM1010」の最大の利点はソフトウェアによる自動化

塩田氏は「LM1010」を導入して感じている最大の利点は,HPLC を使う上で熟練が必要とされる分析前のコンディショニングや設定,日常的な性能確認のような作業のソフトウェアによる自動化だという。同病院では 29例について同機器を用いて TDM を実施したが,外注による結果と比較することで臨床に耐える評価が得られている。
さらにオキサゾリジノン系薬剤で行った検討を報告した。オキサゾリジノン系薬剤は,他の抗微生物薬では効果を示さない重篤な感染症の治療に用いられている。
LZD はオキサゾリジノン系薬剤の初期の薬剤で,臨床試験の段階で血小板減少症が 20%弱発生しており,貧血や低ナトリウム血症,神経毒性などの有害事象が主に報告されている。また安全性についてもいくつか報告があり,それら数値を考慮して 7 ~ 8 μ g/ML 未満を指標とした。これらを参考に,同病院の症例の血小板減少症に関して ROC 解析を行った結果,同病院でもカットオフ値は 7.6 μ g/ML となり指標とした値の妥当性が確かめられた。また目標血中濃度 2 ~ 8 μ g/ML とした場合に,常に目標値内でコントロールできた症例群と一時期目標値を超えてしまった症例群,常に目標値を超えてしまった症例群を比較すると,常に目標値を超えてしまった症例群では他の群と比較して血小板減少症の発現率が有意に高く,50 ~ 75%と高くなっていた。これら結果から,LZD 投与に伴う血小板減少症を予防する上で TDM が重要であることが示された。
また LZD は腎排出型の薬剤であることから腎機能との関連が複数報告され,腎不全では最小血中濃度が高値となるとの報告も存在している。同病院の症例からも腎機能が低下した患者では最低血中濃度が高値となる傾向が観察された。

次に TZD については LZD と同様に主な血小板減少症,貧血,低ナトリウム血症,神経毒性などの有害事象が報告されている。これら有害事象の発現頻度について,TDM を行っていない症例を母集団に解析。120 例から傾向スコアマッチングを行い 50 例に絞り,25 対 25 の TZD 群対 LZD 群で有害事象の発現頻度の差をみると,血小板減少症は LZD 群が有意に高く,貧血も高かった。低ナトリウム血症は LZD で発現しなかった。このことからこれら 3 つの有害事象が LZD で危険であるという結果が得られた。TZD の血中濃度と有害事象との関連は,現時点では報告がほぼなく明確なことはいえないが,腎機能別に行った最低血中濃度の差は大きくないとみている。

塩田氏は「大学病院に所属する身として,今は TDM 対象薬剤ではなくとも研究することで必要性を考えたり,結果を適性使用に生かせればという想いがあります。特にリネゾリドに関しては最低血中濃度のモニタリングが,腎機能低下例で有用な可能性があると考えています」と述べた。

総論/質疑応答

座長:新岡 丈典 氏 弘前大学医学部附属病院 薬剤部

2講演は TDM にあたり,現状の TDM では測定結果が遅すぎて実際の診療に反映できない,あるいはもっと多くの薬剤について TDM を実施したい,貴重なデータは蓄積されているのにそれを診療に有効活用できないといった共通の悩みや疑問に応える内容になった。

会場からは畑本氏と塩田氏に対し,院内測定対象薬剤の選定理由を問う質問があったが,それに対し塩田氏は,大学病院内で TDM を実施すべき薬剤であったが,未対応であった薬剤を選んだと回答。畑本氏は「LM1010」は,複数の薬剤血中濃度が測定可能であるが,TDM 業務立上げ時において,それら全てを対象にするのは手順が煩雑になることをあげ,即時性が最も必要だった薬剤を選定したと回答した。また HPLC ではピークが重なることがあるが,その際のトリートメントや処理法について質問があったが,両者ともにそういった事例がこれまでないと回答した。

ウェブでの参加者から多くの質問がチャットで寄せられたが,時間の都合で回答は対談に持ち越された。

対 談

セミナー後には新岡氏を司会に,2 名の講演者による対談が行われた。チャットで寄せられた質問を中心に,講演会では時間の都合で省いたエピソードなどを報告しあった。

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新岡氏
新岡氏

畑本氏
畑本氏

塩田氏
塩田氏

まず新岡氏は「LM1010」の新たな導入で反響があったかを質問した。
畑本氏の病院の薬剤部には若手が多く「LM1010」で行う測定には興味津々の様子で,現在は畑本氏が行っている同業務を今後は若手にも行ってもらう予定にしているという。同機器の導入の際に遠心分離機をはじめとした一連の機器もリースであわせて導入したが,最初に受けたレクチャーで問題なく機器を運用できているという。

塩田氏は,リネゾリド,テジゾリドについては診療報酬請求ができない薬剤であるため介入はできないものの,自施設の情報として文献情報とあわせて医師とエビデンスとして参考にしているという。また今後は「LM1010」で測定可能なポサコナゾールについても,有害事象と血中濃度の関係等を検討していくという。

また両者共に,HPLC の専門家ではないという認識の上で,理解できなくても測定できてしまうことに対する危険性に対して意見が一致。トラブルをトラブルとして認識するためにも,同機器のしくみの理解を少しずつでも進める努力の必要性を感じているという。畑本氏は,自身が経験した機器の故障では,即日の対応で翌日には測定を再開できたエピソードを紹介した。

同機器はレンタルでの取り扱いとなっている。この点についても,両者は導入がしやすいという意見で一致した。年 2 回の定期点検などがレンタル料に含まれており,サポートも受けやすい体制が整備されている。

最後に新岡氏は両者に質問。畑本氏には,日本国内の高齢化が進む中で,ケアミックス型病院での TDM の今後の展開を聞いた。それに対し畑本氏は「当院は高齢者が多く,今回バンコマイシンとカルバマゼピンを測定させていただきましたが,他にも外注で多くの TDM 推奨薬剤を測定させていただきました。漫然と薬剤が投与されている症例があり,特に抗不整脈薬が顕著でした。高齢化が進めば確実に薬剤の代謝・排泄が遅延し,副作用は出やすくなると私は思います。定期的な測定は必要ないとガイドラインには出ておりますが,当院では外来の患者様に対し外注ではありますが 3 ヵ月に 1 度の薬物血中濃度の測定を行っております。それが自施設でできれば,すぐフィードバックできると考えております。高齢化が進むからこそ,定期的な測定で患者様に安心を伝えられればよいと思います」と述べた。

また塩田氏には,地域の中で大学病院が,TDM を広めるにあたりどのような役割を担うべきかを聞いた。塩田氏は「今年から外来感染対策控除加算が新設され,地域と連携を密にする方向に動いています。地域の TDMの実施率を把握しつつ,行われていないのであればその必要性を連携する中で共有していくのもひとつの方法と感じています。また今,特定薬剤治療管理加算の対象でない薬剤で今後対象になる薬剤は,外来のボリコナゾールとリネゾリドあたりかと思いますが,リネゾリドに関しては少し議論が必要だと思っています。国の保険診療のコストや有害事象を検討し,エビデンスに基づいた議論が必要で,そこに資する材料を大学病院は出していくものだと思っています」と述べた。

装置や試薬,サポートメニューなどの詳細は特設ページにご登録のうえ閲覧いただけます。

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