Regulation of chemical substances contained in products
such as the RoHS Directive and controlled substances analysis methods
株式会社日立パワーソリューションズ
コンサルティングエンジニアリング本部 本部経営企画センタ 兼
分析・解析ソリューション開発センタ 主任技師
大津 聡
製品含有化学物質規制は、EUをはじめとして日本、中国、韓国、米国カルフォルニアなど多くの国や地域が導入している(図1)。同時に、製品を製造する側から使用する立場へ向けた情報提供のシステムも整備されてきた。欧州におけるREACH 規則での情報展開や日本を中心としたJAMP(アーティクルマネジメント推進協議会)の取り組みもこの一環である。また、客観的な評価を行う分析法の整備もきわめて重要であり、継続した検討が行われている。
本報では、欧州RoHS指令を中心に、世界の主な製品含有化学物質に対する取り組みをピックアップするとともに、管理物質の分析法の基礎的な情報を取り上げ紹介する。
図1 製品含有化学物質規制に取り組む国や地域
RoHS指令は、2003年1月に2002/95/EC1)として公布、2006年7月に施行された欧州連合の電気電子機器製品に関する化学物質規制である。この指令は、各企業の製品含有化学物質管理に対して、大きな衝撃を与えると同時に、多くの国や地域に対して影響を与えている。RoHS指令の目的は、電子・電気機器廃棄物による環境負荷を低減することにあり、具体的には、Pb、Cd、Hg、Cr6+、特定臭素系難燃剤2種(PBB、PBDE)の6物質の製品への使用を制限することから始まった。その最大許容濃度は、Pb、Hg、Cr6+、PBB、PBDEは、0.1wt%、Cdは、0.01wt%である2)。ただし、一部特定用途に関しては、適用を除外する項目があり、定期的に見直しが実施される。
RoHS指令の改正案は、2011年7月1日にEU官報にて公布、7月21日に施行された。旧RoHS指令(2002/95/EC通称“RoHS1”)は、2013年1月3日から改正RoHS指令3)(2011/65/EU通称“RoHS2”)に置き換わった。RoHS1とRoHS2との主な違いは、次のようになる。
資源有効利用促進法は、2006年3月に政令改正、4月に省令改正が行われた。改正政省令によって、下記7品目に欧州RoHS指令と同様の6物質の含有がある場合は、含有情報の提供が義務付けられた(2006年7月より施行)。
表1に含有マーク表示が義務付けられている7品目を示す。
パーソナルコンピュータ |
ユニット形エアコンディショナ |
テレビ受像機 |
電気冷蔵庫 |
電気洗濯機 |
電子レンジ |
衣類乾燥機 |
J-Moss5)は、電気電子機器に含有される化学物質の表示に関するJIS規格の略称である。資源有効利用促進法の政省令では、現在このJ-Mossを引用し、表示の詳細を規定している。
REACH規則6)は、2007年6月1日に発効した化学物質の総合的な登録、評価、認可、制限の制度である。
また、REACH規則には、登録義務と並んで、製品中の含有物質に対しては、届出の義務が発生する。
対象となる物質は、本規則のcandidate list(付属書 X IV掲載候補リスト)掲載物質(SVHC:Substances of Very HighConcern)であり、当該物質が年間1t以上含有(0.1 wt%)される成型品の製造・輸入者は、届出が必要。しかし、この場合、すでに登録されている用途で当該物質を使用する場合、届出不要。
欧州における、使用済み自動車が環境に与える負荷を低減するための指令である。対象製品は自動車であり、その部品や材料における、Pb、Hg、Cd、Cr6+の4物質の含有を規制している。制限値は、Cdが0.01wt%で、その他は0.1wt%である。要求事項の特徴としては、使用済み自動車をそのまま破砕してしまうとリカバリー処理ができなくなり、有害物質の分別もできなくなるため、使用済み自動車を処理する際、まずはコンポーネントをすべて取り外すことを求めている。また、燃料、オイル、ガス、バッテリー、キャタライザーなども使用済み自動車から除くことも定められている。
中国版RoHSとも呼ばれる「電子情報製品汚染制御管理弁法」8)は、中国国内にて生産、販売、また輸入された電子情報製品(部品、材料、生産設備等を含む)を対象とし、2007年3月より施行されている。規制される物質は、欧州のRoHS指令と同様6物質であり、規制値もCdが0.01wt%、その他の5物質は0.1wt%である。また、この法律では、欧州RoHSのように適用除外を設けていない。規制の方法は、二段階に分かれており、第一ステップは、2007年の施行とともにスタートしている。
第一ステップは、有害物質の製品含有情報表示を以下のような内容で要求している。
これまで、米国/カリフォルニア州は、製品含有化学物質に関わる取り組みとして、プロポジション65、SB20/SB50、AB2202などの規制に取り組んできたが、2013年8月AB1879の実施規則としてSafer Consumer Products 規則(SCPR)9)が承認されており、同年10月1日に発効されている。
適用範囲は、特例を除きカリフォルニア州内における商品の流通に乗せられる全ての消費者向け製品に適用される。本規則は、以下4つのステップでの進捗を予定している。
Step1 | 化学物質の特定→候補化学物質リスト |
Step2 | 懸念化学物質を含む優先製品の特定→優先製品リスト |
Step3 | 代替評価→代替手法検討 |
Step4 | 規制的対応 |
欧州REACH規則同様多種の物質が規制されることが想定されており、今後注意が必要である。
製品含有化学物質の分析を行う場合、最初に調査の目的を明確にし、必要な操作を選択することが必要となる10)。IEC62321part111)では、図2に示すようなフローチャートで、これをガイドしている。自分が取り扱う製品の形状や性状を良く把握し、分析に着手することが大切であると述べている。
なお、RoHS指令の特徴のひとつとして、化学物質を管理する分母の定義を“Homogenious material means a unit that can not be mechanically disjointed in single materials”と定め、均質物質ごとに規制対象物質の濃度を確認することを原則としている(図3)。
図2 試験方法フローチャート
図3 均一物質へサンプルを分けた事例
測定は、表3に示すとおり、スクリーニングと詳細分析に分けられる27)。常に効率向上を求められる生産工程の中で、比較的簡易なスクリーニング分析の活用は、重要な意味を持っており、生産性をできるだけ損なうことなく、適切な検査を行うために、有効な手段となり得る。
物質名 | スクリーニング分析法 | 詳細分析法 |
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カドミウム |
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鉛 | ||
水銀 |
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六価クロム |
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PBB、PBDE |
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サンプリングに関しては、IEC62321part212)などを参考に、より多くの知見を収集したうえで実施する必要がある。収集する情報としては、
などがあげられ、これらの情報により、サンプリングの範囲、頻度などを絞り込む必要がある。
分析を行う場合、装置の感度などに注目しがちであるが、目的により適切な分析方法を選択することが重要である。製品含有化学物質の品質管理では、スクリーニング時に含有の有無を判断できるケースがあり、生産工程における作業量や経費を低減することができる。
スクリーニングにあたっては、表3に示したように、蛍光X線分析法13)(EDXRF、WDXRF)や燃焼-イオンクロマトグラフ法14)などが有用である。スクリーニングは、試料形状、材質等で分析精度が大きく変動することを考慮し、分析対象試料ごとにばらつきの許容範囲を決め、測定値を管理する必要がある。
また、効率的なスクリーニングを行う場合、サンプルの測定部分の画像を取り込むと同時に蛍光X線分析をスキャンしながら行い、面情報を得る方法がある。図4~11に測定事例を示す。面情報として、多種の化学物質の分布情報が得られるため、画像と照らし合わせることで、規制物質の存在を確認することができる。また、箇所が特定できることから、除外項目か否かの判断も容易になる。これらの情報は、図12に示すような、元素マッピング機能を備えたエネルギー分散型蛍光X線分析装置により得られる。
図12 元素マッピングが可能な蛍光X線分析装置(日立ハイテクサイエンス社製EA6000VX)
詳細分析に関しては、表4に示すような機械的な試料調製方法と化学的な試料調製方法が必要となる。
樹脂などの試料調製方法では、液体窒素を使い凍結させた試料を粉砕する方法15)がある。比較的やわらかく微粉砕が難しい試料には、有効である。また、化学的な試料調製方法としては、マイクロ波を利用した分解方法16)を利用するケースが多くなっている。この方法は、密閉された容器にサンプルと酸などの溶媒を加え、専用装置に設置することにより、高温高圧環境下での分解処理を可能とするものである。図13にマイクロウェーブ分解装置の概観を示す。
作業\素材種 | 金属 | ポリマー(合成樹脂等) | 電子部品 |
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機械的試料調整 |
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化学的試料調整 |
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図13 マイクロウェーブ分解装置概観
また、PBB、PBDEのように有機物成分を分析する場合、試料から抽出操作を行う。抽出操作には、ダイオキシン類などの分析でも使用するソックスレイ抽出装置(図14)や高温高圧下で使用が可能な高速溶媒抽出装置17)を一般的に使用する。
図14 ソックスレイ抽出装置概
詳細分析は、表3に示した一般的に用いられる装置を使用して測定される18~20)。比較的容易に測定できると楽観視しがちであるが、現在、各製品のサプライチェーンは、世界中に広がっており、これらの分析に関する装置や手法が完全に浸透するまでには、時間がかかるものと考えられる。IEC62321を規格化するにあたり、複数の国や地域から試験所を選択し、測定値のばらつきをチェックする取り組みがある。分析方法の妥当性を見極める上でも重要であるが、実際の分析を経験する上でも、貴重な機会であり、このような取り組みを継続させることが、技術の浸透を図る意味でも重要と考える。中でも、六価クロムの分析に関しては、再現性の向上を議論する報告21, 22)が存在し、注意を要することがわかる。IEC62321の編集にあたっても六価クロムの分析方法は2015年5月現在で、まだIS(国際標準)化には、至っていない。
今後、製品含有化学物質規制対象となりうる化学物質とその分析方法について次に紹介する26)。すでに、2.で述べているが、RoHS指令の追加物質として、フタル酸エステル類4種類が追加された4)。一般に、フタル酸エステル類は、樹脂、塩化ゴム用の可塑剤や塗料、顔料、接着剤、潤滑剤に対する添加剤として用いられている。おもちゃや食器などに含有するフタル酸エステル類の分析方法としては、溶媒抽出/ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法を使用する方法が多く採用されている。日本では、厚生労働省通知(平成22年9月6日付)「食安発0906第4号の別添」(溶媒浸漬抽出法)、米国では、CPSCCH-C1001-09(超音波抽出法)、欧州では、EN14372:2004(ソックスレー抽出法)などが、一般的に使用されている方法である。現在、IEC/TC111WG3で電気電子製品を対象とした、フタル酸エステル類の分析方法が議論されており、十分な検討の後、IEC62321part8として国際規格化される予定である。
しかしながら、製品製造現場で行う管理分析としては、上述の詳細分析は少々手間がかかり、前処理を含めた分析操作には一定の技術力が要求される。また、フタル酸エステル類は、建材などにも多く使用されてきており、不用意な溶媒の保管などにより、抽出溶媒を汚染してしまい、測定結果に対し混乱をまねく恐れがある。製品製造工程や受入現場での品質管理分析などが今後増加することが予測されるが、正しい知見と管理の下、評価を進めることが、より一層求められる。
一方で、サンプルを加熱する専用の炉とGC/MSを直列に繋いだ熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(Py-GC/MS)などにより比較的簡易にスクリーニング測定する手法も管理分析として取り込まれている23, 24)。製品製造に過剰な負荷をかけることがないスクリーニング分析の確立は重要である。IEC62321part8の中では、詳細分析にあわせ、このようなスクリーニング分析方法に関しても検討が進められている。
今後、注目されている物質としては、化審法の第一種特定化学物質に入ったヘキサブロモシクロドデカン(HBCD又はHBCDD)や欧州REACH規則で制限物質として規制されている多環芳香族炭化水素(PAH)などがあげられ、今後IEC62321の規格作成を実施しているIEC/TC111WG3でも議論が予定されている。
化学物質を適切かつ効果的に使用する上で製品含有化学物質の情報提供や各種規制は重要であり、今後も世界中に広がるものと考えられる。
現在、電気電子製品や自動車など、製品のサプライチェーンは、世界中に広がっている。製品含有化学物質の管理やエンドユーザーの安全安心を担保するためには、ステークホルダーに対する情報提供にあわせ、客観的な立場での分析法の確立も重要である。
また、規制物質の代替化後の製品の信頼性評価も今後求められるポイントである。
参考文献
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