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日立ハイテク

HFS-4水素化物発生装置と紫外線照射装置の紹介

Introduction of HFS-4 hydride formation system and UV irradiation system

山本 和子*1

はじめに

水素化物発生付属装置はフレーム原子吸光光度計に接続し、水溶液試料中のひ素(As)、セレン(Se)、アンチモン(Sb)などを高感度に測定する装置である。環境水や排水、食品などに存在するAs、Se、Sbの分析に広く用いられている。
今回開発したHFS-4 水素化物発生付属装置(図1)は,従来機HFS-3の特長「フレームゼーマンを利用し、ベースラインがドリフトせず、安定性の高い測定が可能」という基本性能を踏襲した。加えて試料及び試薬使用量の大幅な低減を実現し、感度と分析スループットの向上を図った新しい水素化物発生付属装置である。さらに新技術である4連ペリスタリックポンプを搭載している。これによりAs分析時に添加するヨウ化カリウムなどの予備還元剤を自動添加することも可能となったので紹介する。
また、HFS-4と合わせて用いる紫外線照射装置の原理とアプリケーションについても述べる。

HFS-4 水素化物発生付属装置の外観
図1 HFS-4 水素化物発生付属装置の外観

測定原理

水素化物発生-原子吸光法は、試料溶液中のAs、Se、Sb などと水素化ほう素ナトリウム(NaBH4)、塩酸が反応し、ガス状の水素化物を生成させる。これを、アルゴンガスを用いて加熱石英セルに導入し原子化する。水素化物発生法は対象元素が限られるが、高感度で測定することができる。
水素化物発生法は、対象元素の化学形態により水素化物の発生効率が異なるため注意が必要である。無機Asでは3価と5価が存在する。5価は3価に比べAsH3の発生が低いため、あらかじめ試料にヨウ化カリウムを添加して5価を3価に還元する必要がある。
なお、食品試料などにおいて多くのAsは有機Asとして存在している。有機Asの大部分は水素化物を生成しないため、有機Asを無機Asに分解する必要がある。

製品の特長

HFS-4の流路

HFS-4では試料、塩酸、NaBH4を混合する3液混合流路と、As分析用にヨウ化カリウムをポンプ混合する4液混合流路がある。図2にHFS-4の流路を示す。4液混合流路では予備還元試薬がポンプにより自動添加され、As 5価からAs 3価の還元が行なわれるため、試料調製の手間を省くことができる。

HFS-4の流路図
図2 HFS-4の流路図

フレームゼーマンによる安定性

オートサンプラSSC-230とHFS-4を接続し、Asの連続測定を行なった。As濃度0、1、5、10 µg/Lにて検量線を作成し、As 5 µg/Lを50回連続測定した。試料測定中はオートゼロ、検量線のリスロープは行なっていない。図3に50回連続測定の原子吸収信号、表1に測定条件、表2に測定結果を示す。As 5 µg/Lの50回連続測定の結果は、平均値5.02 µg/L、RSD 1.22%と安定で正確な定量値が得られている。

Asの原子吸収信号
図3 Asの原子吸収信号

表1 Asの測定条件
Element As Atomizer STD Burner Meas. ModeWorking Curve
Instrument ZA3000 Flame Air-C2H2 Signal Mode BKG Correction
Atomization Flame/Auto-sampler Fuel (C2H2 1.2 L/min Curve Order Linear
Wavelength 193.7 nm Oxidant (Air) 160 kPa Calculation Integration
Lamp Current 12.0 mA 15.0 L/min Delay Time 70.0 sec
Slit Width 1.3 nm Burner Height 7.5 mm Calculation Time 5.0 sec
表2 As 5 µg/Lの測定結果
  濃度 吸光度
平均値 5.02 0.0980
SD 0.06 0.0012
RSD 1.22% 1.23%

アプリケーション

河川水標準物質中Seの測定

セレンの測定ではJIS K 0102に記載があるように、ヨウ化カリウムを加えないため、試料、塩酸、水素化ホウ素ナトリウムの3液混合流路を用い測定した。河川水標準物質中Seの測定例を示す。図4にSe原子吸収信号、図5に検量線、表3に測定条件、表4に測定結果を示す。測定値は認証値の範囲に入る結果を得た。

Asの原子吸収信号
図4 Seの原子吸収信号

Asの原子吸収信号
図5 Seの検量線

表3 Seの測定条件
ZA3000条件
Element Se Atomizer STD Burner
Instrument ZA3000 Flame Air-C2H2
Atomization Flame Fuel (C2H21.0 L/min
Wavelength 196.0 nm Oxidant (Air) 160 kPa
Lamp Current 12.5 mA 15.0 L/min
Slit Width 1.3 nm Burner Height 7.5 mm
HFS-4 試薬 試料調製
Reagent Flow Rate Sample 10 mL
1mol/L HCl 1 mL/min HCl 4 mL
1% NaBH4 1 mL/min Total 1.2 L/min
表4 河川水標準試料中のSeの測定結果
試料名 測定結果(µg/L) 認証値(µg/L)
JSAC 0302-3 5.11 5.2±0.1

測定結果は原液濃度に換算した値です

HFS-4を用いた河川水標準物質中Asの測定例(AA150004)、Sbの測定例(AA150005)はS.I.naviのアプリケーションのページに掲載されているのでご覧いただきたい。

紫外線照射装置

海藻や魚介類などの海産物にはAsが含有しているものがある。海産物中のAsは主に有機態のAs化合物として存在している。水素化物発生法でAsを分析する場合、多くの有機Asは水素化物を生成しないため、有機Asを無機Asに分解する必要がある。有機Asの分解方法としては酸を用いた湿式分解法や電気炉で加熱する乾式分解法があるが、いずれも400°C以上の高温に加熱しなければならなかった。しかし、有機Asに紫外線を照射することで加熱をすることなく、有機Asを無機Asに分解できる。図6に紫外線照射装置の外観を示す。

紫外線照射装置 外観
図6 紫外線照射装置 外観

紫外線分解の原理

低圧水銀ランプは主として185 nmと254 nmの紫外線を放射する。これらの紫外線の作用でオゾンやヒドロキシラジカルを生成し、有機物の化学結合を切断することができる。
185 nmの紫外線が透過する合成石英製のセルに入った試料液に紫外線が照射されると、試料に含まれる有機Asを無機Asに分解することができる。
従来は、有機Asを含む試料は酸を添加して400°C以上で加熱することで無機Asに分解しているが、紫外線照射装置を用いることで、試料中の有機Asを加熱することなく無機Asに分解できる。例えば、水素化物を発生しないアルセノベタインも、紫外線照射を行うことで無機Asに分解され、水素化物発生法で検出できるようになる。

タラ魚肉粉末中Asの分析

タラに含まれる水溶性As化合物の大半はアルセノベタインであるため、水抽出液中Asは水素化物発生法で検出されない。しかし、タラ水抽出液に10分間紫外線を照射することで、アルセノベタインは無機Asに分解され、HFS-4にて測定できるようになる。図7にタラ魚肉粉末(NMIJ CRM 7402-a)の前処理手順を示す。
図8の原子吸収信号に見られるように、タラ魚肉粉末の水抽出液をHFS-4にて測定すると信号が検出できないが、紫外線照射装置により光分解を行なった試料ではAsが検出されている。表5に示す測定結果のとおり、光分解液のAs濃度は認証値と一致しており、光分解により有機As(アルセノベタイン)が無機Asに分解されることがわかる。

タラ魚肉粉末の前処理手順
図7 タラ魚肉粉末(NMIJ CRM 7402-a)の前処理手順

Asの原子吸収信号
図8 Asの原子吸収信号

表5 タラ魚肉粉末(NMIJ CRM 7402-a)中のアルセノベタイン(As)測定結果(固体濃度換算値)
試料名 測定結果(mg/kg) 認証値(mg/kg)
水抽出液 ND 35.5±1.8
(アルセノベタイン)
水抽出液
光分解液
35.4

まとめ

HFS-4 水素化物発生付属装置は従来機の持つ高い安定性に加え、試薬・試料消費量の大幅な低減を実現した。また、紫外線照射装置は有機Asを簡単に分解できる新しい前処理装置である。環境、食品分野を中心として利用拡大が期待されている。

著者所属

*1
山本 和子
株式会社日立ハイテクサイエンス
光学本部光学技術部 光学技術三グループ

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