Advanced material research and Real-Time Analytical FIB-SEM 'NX9000'
山本 洋
FIB(集束イオンビーム)-SEM(走査型電子顕微鏡)複合装置は、材料の断面観察やTEM(透過電子顕微鏡)やアトムプローブなどの試料作製ツールとして、金属、半導体、複合材料およびソフトマテリアルといった幅広い分野における構造解析に使用されている。近年においては、TEMなどによる局所領域解析や試料表面観察による2D解析のみでは材料の構造解析を行うためには十分ではなく、材料のメゾスケール領域における3D解析が必要とされている。
そのため、FIB-SEMによる連続断面観察法を用いた3D構造解析へのニーズが高まっている。当社では、3D構造解析へのニーズに応えるため、高性能のFIB-SEM装置ならびに連続断面観察法としてCut&See機能を提供している。
本手法では、FIBによる等間隔スライス加工とSEMによるその場観察を交互に連続で実施する。これにより、取得された連続SEM像をコンピュータによってスライス加工ステップの間隔で重ね合わせて処理することにより、3D構造を再構築することが可能である。また、この手法は、連続断面SEM像を用いるため、TEM解析では問題となる観察試料厚みの3D再構築像分解能への影響はなく、観察対象厚みによらず分解能の高い3D解析が可能であるという特徴がある。さらに、SEM観察と同時に、EDS(エネルギー分散型X線分析)やEBSD(電子後方散乱回折)などを組み合せ、試料の3D組成分布や3D結晶方位を再構築して解析する手法も活用されている。
しかし、汎用のFIB-SEMは、様々なサイズの試料に対応するためにFIBとSEMが斜め(当社の場合、54°)に配置されており、試料断面に対してSEM観察方向が傾斜している。そのため、連続断面加工時の断面位置シフトや傾斜観察による観察像縦横比の違いなどが生じ、必ずしも試料本来の構造を得られないことがあった。また、装置構造上、SEM本来の観察性能を犠牲にせざるを得ず、SEM観察能力を向上させる余地があった。また、従来のFIBとSEMのレイアウトでは、各検出器と試料が最適な位置関係をとれず、その場での連続断面情報取得、いわゆるリアルタイム3D解析において様々な制限を生じていた。
当社は、このレイアウトに対する従来の観念を打破し、FIBとSEMを90°に配置し、鏡筒、試料ステージ、および検出器などの各要素の配置を最適化した直交配置型「リアルタイム3DアナリティカルFIB-SEMNX9000」を開発し、上記課題の解決に取り組んでいる。
本稿では3D解析における本装置の特徴、ならびに半導体デバイスや電池などの材料を用いた解析事例を紹介する。
図1に本装置の概観写真を、また、図2に装置内部配置図を示す。
本装置では、新開発のCold FE-SEM(冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡)搭載SEM鏡筒を採用している。さらにFIB加工断面に対するSEM観察性能を最大限に生かすために、FIB鏡筒をSEMの最適WD(作動距離)位置(4 mm)に直交に配置されている。その結果、斜め配置型FIB-SEMに比べてCP(ビーム交点)におけるSEM観察像分解能が向上し、試料断面に対して垂直入射によるリアルタイムSEM観察が可能になった。よって、従来の斜め配置FIB-SEMにおいて発生した連続断面加工時の断面位置シフトや傾斜観察による観察像縦横比の違いは発生せず、試料の3D構造を忠実に再現することができる。
また、高精度のスケール付き小型試料ステージを搭載し、システムドリフトを大幅に低減できる。そのため、高安定かつ高精度の連続FIB断面加工と連続SEM断面観察が可能になり、Cut&Seeによる高品位の3D構造観察が実施できる。そして、試料ホルダを小型化することで、試料搬送直後から低ドリフト状態を実現し、3D観察におけるスループットを改善した。
さらに、SEM観察用の電子検出器やEDS、EBSD各検出器と鏡筒および試料の位置関係を最適化したことにより、CPにおいて多彩な検出系による信号取得が可能になっており、材料の構造のみならず、組成や結晶などの3D情報を同時に取得することが可能となっている。
図1 NX9000装置の概観写真
図2 装置内部配置図
本装置の主な特徴や機能を以下に紹介する。
図3 フラッシュメモリ断面SEM観察像
(a) 傾斜観察像
(b) 垂直入射観察像
FIBで加工した試料断面に対して、その場で垂直にSEM像を観察することが可能になり、さらなる高分解能、高コントラストが得られるようになっている。また、電子ビームの垂直入射により、観察対象の像の縦横比が改善され、従来機よりも正確な寸法情報が得られるようになっている。
市販2X NANDフラッシュメモリ試料を用い、従来の斜め配置FIB-SEMによるSEM断面観察像との比較を行った。その結果を図3に示す。同図(a)、(b)は、それぞれ、従来機と本装置でCP位置において同様のビーム条件で取得した二次電子像である。鏡筒の直交配置により最適配置されている本装置でその場観察した断面像は、正確な像縦横比が得られるとともに、像分解能とコントラストが従来機より向上していることが確認できる。
図4 スライス加工再現性
(a) 連続断面SEM観察像
(b) YZ断面再構築画像および繰り返しパターンの加工スライス数
本装置では、高い加工性能をもつFIB鏡筒に加えて、低ドリフト小型試料ステージの採用により、再現性の高いスライス加工ができる。これにより、長時間にわたるnmオーダーでのCut&See自動連続操作を安定した状態で実行できる。
図4に、市販2X NANDフラッシュメモリ試料を用いたスライス加工再現性の検証結果を示す。
連続スライス加工のステップを1 nmに設定し、SEM像を見ながらSTI/Siの繰り返し構造を6パターン加工した。その後、取得した連続SEM像を用いて、YZ断面の像を再構築し、繰り返しパターンの加工スライス数を測定した。
結果として、1ピッチ平均48スライスで、ばらつき(σ)が1スライス以内となっている。この結果から、本装置の連続スライス加工の精度および再現性が非常に高いことが確認できる。
本装置には、試料室内二次電子検出器(Lower SED)、鏡筒内二次電子検出器(Upper SED)、鏡筒内反射電子検出器(BSD)が標準装備されており、これらの検出器によって得られた観察像を同時取得できるようになっている。
図5に、Liイオン電池材の各検出器による表面観察像を例として示す。
図5(a)(b)(c)はそれぞれ、試料断面のLower SED観察像、Upper SED観察像およびBSD観察像を示している。各検出器で得られる像は、それぞれ特徴を有しており、Lower SEDでは凹凸を強調した観察像を、Upper SEDでは表面微細構造や電位などの表面状態を強調した像を、BSD検出器では、組成情報を強調した像を得ることができる。本装置ではこれらの観察像を同時取得することで、形状、微細構造、組成などの情報を同時に取得することが可能である。
FIB-SEMによる3D観察では、FIBによる断面加工とSEMによる断面観察を連続して実施しており、破壊検査であるため、測定時に多くの情報を得ておくことが重要である。図6に3検出器像同時取得機能を用いた燃料電池電極材の3次元観察例を示す。この試料は、YSZ、Niおよび空隙(樹脂包埋)による3相の構造を有している。構造解析を行う際には、この3相を分離、解析する必要がある。単一の検出器画像のみでは3相の分離が困難な場合でも、3つの検出器の画像を取得しておくことで3相を分離することができる。このように特徴の異なる3つの検出器画像を同時取得することで、材料が有する情報を取りこぼすことなく、正確な3次元構造解析が可能となった。
図5 Liイオン電池材料の表面観察像
(a)Lower SED観察像
(b)Upper SED観察像
(c)BSD観察像
図6 検出器像同時取得機能を用いた燃料電池電極材の3D観察例
図7 マルチCut&Seeを用いたマウス脳組織広視野高分解能観察例
材料解析を行う場合、対象材料の微細構造を知るためには、高分解能観察が必要とされる。高分解能観察を行う場合には、SEM観察時に高い倍率での観察が必要となるが、この場合、観察領域が狭くなる。材料や生体試料などのランダム構造を有する構造体では、局所領域の高分解能観察のみならずより広い範囲での観察を行い、周囲との関連性を知ることが重要となる。
しかし、広視野かつ高分解能の観察を行う場合、画像取得時間やデータ容量の増大が課題となる。例えば、分解能5 nm、視野サイズ100 µmの画像を同時に得たい場合、データ取得点数つまり取得画像のピクセル数は20,000×20,000ピクセルにおよび、1枚の画像を取得するのに有する時間、データ容量は膨大なものとなる。この課題を解決するために、当社では、広視野高分解能3D解析機能として、マルチCut&See機能を開発した。この機能では、連続断面観察実行時に、1断面から画像取得範囲や位置を任意に設定し、複数の画像を取得することができる。本機能を用いた場合、高倍率観察による高分解能画像を取得するとともに、低倍観察によるその周囲の広視野観察を行うことが可能となる。
図7にマルチCut&See機能を用いたマウス脳組織の観察例を示す。この観察例では、1画像当たりのピクセル数は1,000×1,000pixelとして、視野サイズ5 µm、10 µm、100 µmの画像を取得している。これにより、分解能5 nmの画像を得るとともにその周囲100 µmまでの広い領域の画像を得ている。この場合の総ピクセル数は1,000×1,000×3ピクセルである。この手法を用いることで、分解能5 nm、100 µm視野の画像を得る場合に比べると、時間、データ容量ともに1/100以下に抑えられ、非常に効率の良いデータ収集を行うことができる。
Cut&Seeと組み合わせて、連続EDS元素マッピング(3D-EDS)や連続EBSD結晶方位マッピング(3D-EBSD)は、試料ステージを移動せずに自動的に取得できる。安定した構造・組成・結晶方位3Dデータが得られ、材料解析において充実した3D情報が得られるシステムとなっている。
3D-EDSについては、燃料電池電極材料(Ni-YSZ)の分析事例を示す(図8)。試料内部のZr、O、Niと空隙の各相をEDSマップにより正確な元素分離を行うことができ、それらの3D分布を解析することが可能になっている。
3D-EBSDについては、金属材料Niの解析事例を示す(図9)。EBSDとFIBとSEMの配置を最適化したことにより、連続断面の加工と測定時に試料ステージを動かす必要がなく、安定した連続結晶方位マップを取得できる。
図8 3D-EDS解析例
試料:燃料電池電極材(Ni-YSZ)
マッピング取得間隔:100 nm
マッピング枚数:212枚
図9 3D-EBS解析例
試料:Ni
SEM加速電圧:20 kV
マッピング取得間隔:150 nm
マッピング枚数:150枚
本稿では、材料のメゾスケール領域における3D解析手法として注目されているFIB-SEMによる3D解析ニーズに応えるために開発したリアルタイム3DアナリティカルFIB-SEM装置NX9000のその主な機能や特徴を紹介した。
あわせて、Cut&Seeによる材料の3D構造解析などに対して、極めて有効な装置であることを実例によって示すとともに、本装置が3D構造解析ツールとして広く展開できることを明らかにした。
謝辞
燃料電池電極試料(Ni-YSZ)は、東京大学生産技術研究所の鹿園直毅教授よりご提供いただきました。
マウスの脳神経組織試料は、生理学研究所大脳神経回路論研究部門の窪田芳之准教授にご提供いただきました。
心より感謝いたします。
出典
月刊誌「工業材料」9月号掲載
著者所属
山本 洋
(株)日立ハイテクサイエンス BT 設計部
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