Model LA8080 High-Speed Amino Acid Analyzer
伊藤 正人*1、成松 郁子*1、裴 敏伶*1、森崎 敦己*1、鈴木 裕志*2、福田 真人*1、八木 隆*1、大月 繁夫*1、関 一也*1、豊崎 耕作*1
アミノ酸分析計は、1958年のD. H. Spackman、W. H. SteinとS. Moore1)の発表以降、たん白質、ペプチドのアミノ酸組成分析や医薬品や生体液などのアミノ酸とその類縁物質の分析に広く利用されている。当時、イオン交換クロマトグラフィーとニンヒドリン反応の最先端技術を駆使することにより選択性高く、かつ高速、高精度にアミノ酸を分析することができた。また、液体クロマトグラフィー分野で自動化に成功し、革新的な発展を遂げたことにより記念碑的な研究としても位置づけられている。
昨今、ペプチド系の医薬品が数多く開発されるようになり、その分析法の価値が改めて見直されている。従来からデータの信頼性を追求する食品・動物飼料・健康サプリメントの研究・品質管理部門や、医薬系や呈味の研究などにも分析ニーズがある。このような背景のもと1962年から現在に至るまで日立のアミノ酸分析計2)は進歩を続けてきた(図1)。
図1 日立アミノ酸分析計の歴史
LA8080高速アミノ酸分析計は、ニンヒドリン試薬を用いるポストカラム誘導体化法イオン交換クロマトグラフィーの専用装置であり、製品特長は次の3点である(図2)。
図2 LA8080高速アミノ酸分析計の外観
カラムにはポリスチレンジビニルベンゼン系ポリマーにスルホン酸基を導入する強酸性陽イオン交換樹脂を充てんする。溶離液として、約20成分アミノ酸にはクエン酸ナトリウム系の緩衝液を、約40成分アミノ酸にはクエン酸リチウム系緩衝液を用いる。溶離液および反応液は市販ボトルをそのまま設置することが可能である。いずれの分析方法も多くの成分を溶出するために、数種類の緩衝液によるステップワイズ溶離法かまたはグラジエント溶離法を利用する。
分析計の流路構成を図3により説明する。各溶離液は、ポンプ1により再生液を含めて電磁弁により切り替え、6液までを送液できる。クロマトグラムのベースラインノイズを抑えるためにワンストローク10 µL微量ポンプを採用し、脈流(圧力変動)を低減した。
オートサンプラには最大120検体の1.5 mlバイアルがセットできる。また、試料中にアスパラギン(AspNH2)や、グルタミン(GluNH2)を含む時など冷蔵保存が必要な場合、100本用冷却ラックも用意されている。
カラム恒温装置はペルチエ素子を用いて分離カラムを一定温度に保つ。20~90℃の範囲でタイムプログラム設定が可能である。
ニンヒドリン試薬は2液を反応直前に混合する。カラムから溶出されたアミノ酸各成分は、ポンプ2により送られる試薬と混合され、反応装置で135℃に加熱される。混合液が流れている間のピークブロードニングを極力抑え、かつ効率よく反応させるためにカートリッジタイプのTDE3(キューブ)リアクタ方式を採用した。
アミノ酸は、反応生成物ルーエマンパープル3)となり吸光度極大である可視光570 nmで検出され、クロマトグラムのピークとして測定・定量される。イミノ酸であるプロリンとハイドロキシプロリンは、可視光域に吸光度極大がないため440 nmで検出する。検出レファレンスには700 nmの可視光を使用し、ハロゲンタングステンランプの光源ゆらぎなどを補償している。
クロマトグラフィックデータシステム(CDS)にはOpenLAB CDS Ver.2を採用し、データ収集の装置コントロールとクロマトグラムの定性・定量データ解析を実行する。
図3 LA8080の流路図と内部構成
標準的な分析法として、図4にたん白質加水分解物のクロマトグラムを示す。クエン酸ナトリウム系の溶離液を流量0.40 ml/minで送液し、粒径3 µmの陽イオン交換樹脂カラム#2622(i. d. 4.6 mm×60 mm)を57℃で恒温する。ニンヒドリン試薬を流量0.35 ml/minで送液・合流し、反応温度135℃で発色させた後、可視光波長570 nmで吸光度検出する。アミノ酸標準混合液は20 µLを注入する。
分析時間30分で各分離度1.2以上が得られた。また、アスパラギン酸(Asp)で検出限界は2.5 pmol以下(SN比2)、ピーク面積再現性(2 nmol)はRSD 1.0%以下と良好であった。
図4 たん白質加水分解物の分析例
一般にたん白質のアミノ酸組成分析には塩酸を用いて加水分解処理が行われるが、システインと、シスチン、メチオニンは酸化されやすい。このため、過ギ酸で酸化した後に塩酸加水分解処理を実施し、システイン酸(CySO3H)とメチオニンスルホン(MetSON)を分析する方法も広く用いられている。またCySO3HとMetSONのみを短時間に分析した例も併せて示す(図5)。
図5 過ギ酸酸化たん白質加水分解物と短時間分析例
Mooreらの方法が今なお有効なのは、分離系と反応検出系にそれぞれの理由が考えられる。ポリスチレンポリマーのイオン交換樹脂と多成分のアミノ酸のマッチングが巧妙であり、フェニルアラニンとチロシンなど芳香族系の中性アミノ酸はポリマー基材との疎水性相互作用も寄与することにより良好な分離を実現している。一方、ニンヒドリンを用いるポストカラム誘導体化法は試料中の夾雑物質に対し高い選択性を発揮できる特長を持ち、ユーザーが除たん白処理とろ過さえしっかりしておけば、信頼性の高い分析結果が得られる安心感がある。このような永く利用可能な卓越した分析計を構築した先人たちの功績に深く感謝したい。
参考文献
著者紹介
*1 伊藤 正人、成松 郁子、裴 敏伶、森崎 敦己、福田 真人、八木 隆、大月 繁夫、関 一也、豊崎 耕作
(株)日立ハイテクサイエンス 製品統括本部 開発設計本部 光学設計部
*2 鈴木 裕志
(株)日立ハイテクサイエンス 営業本部 応用技術部
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