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田中SEM研究所通信 低真空走査電顕観察「虎の巻5」

この研究所通信も何時の間にか5回目になってしまった。3ヶ月に1回更新するのだが、3ヶ月というのは長いようで、意外に短いものだ。だから、いつも原稿に追われているようで気が休まらない。今回も、何を書こうかとだいぶ考えたがなかなか思いつかず苦労したしだいである。

元来、「虎の巻」すなわちコツというものはそんなに沢山あるものではない。大半の操作法はマニアルや成書に載っているのだから、それ等に書いて無いことというと数が少ないのは当たり前である。
この「虎の巻」シリーズも、そろそろ種が尽きてきた。今回をもって終わりにしたいと思う。そして、こんどは新しい構想で研究所通信を続けてみたいと考えている。

フィラメントの交換

熱電子型SEMで厄介なことの一つにフィラメントが切れるということがある。
仕方が無いといってしまえばそれまでだが、大事な試料を撮っている最中にパッと切れたりすると「クソッ」と思ってしまう。
やっと修理が終わって再び観察を始めても、それまでに試料が駄目になっていることが多いし、また例え同じものが観察出来たとしても、使い始めのフィラメントというのはノイズが多く、また分解能も上がり難い。

一般に、切れる寸前のフィラメントというのは適当に消耗しているので、電子源が小さく、分解能のいいスッキリした写真が撮れるものである。
だから、修理直後のフィラメントの場合との間にはかなりの落差があり、がっかりすることが多い。

従って、フィラメントが何時切れるか、また何時がその装置の最も分解能のいい時かを予知することは、切れのいい写真を撮るために大事なことである。

ではどうして、その時を予知するかである。それは使用する装置、使用条件で異なるから一概には言えないが、長い間気をつけて使用していると自ずから解ってくるものである。
ではその目安について述べてみよう。
フィラメントの寿命なるものは使用時間で決まっているのだから、実際に使った時間を、チェックしておけばいいわけだが、これはなかなか記録が面倒だ。そこで、私は使用したフィルムの本数で大凡の目安をたてている。例えば、私の使っているS-2460Nでは、フィルム20本で切れることが多い。だから、17本目位からが最良の時期である。
フィラメントが切れる時期の目安がもう一つある。それは、切れる時が近づいてくると、装置始動時のエミッション電流が下がってくることである。交換直後には150mAあったものが125mAさらに100mAと下がってくる。そうなったら要注意だ。
大事な試料は急いで撮ってしまうがいい。

フィラメントのセンタリング

新しいフィラメントの尖端をウェーネルトの孔の中心に正確に合わせることはいいビームを得るために大事な作業である。
ところが、これがなかなかやりづらい。なぜかというと、フィラメントを動かすための穴は4つあるのに、穴のネジを回す六角棒は1本しか付属していないからである。
1本ではなんともやり難い。ところが、2本使うと、相対する2つの穴に差込み実体顕微鏡の下で、しめたり、ゆるめたり出来るから、割にうまくいく。これが4本になるともっと簡単である。4つの穴に全部差込んで相対する穴同士で調節すると、速やかに正確にセンタリングできるのである。
だから、1本にこだわらないで、4本でやるほうがいい。足らない3本の六角棒は日曜大工店に行って買えばよい。安くて幾らでも売っている。

実習:古代魚 Corneocorpus vulgaris var. japonicusの仔魚

図1:古代魚 Corneocorpus vulgaris var. japonicusの仔魚

角化した皮膚で全身が覆われているのが特徴。駿河湾の深海で採取された。二億年前の恐竜時代から生息し、幻の古代魚といわれる。こんな風に書くと、いかにも本当らしいが、実は大嘘である。学名もでたらめである。
アルミの板を金鋸で挽くと、鋸屑が出る。これを走査電顕で見ると、いろいろな形のオブジェが見られる。この図もその1つである。興味があれば、やってみられたらどうだろうか。

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