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探索事例CASES

実証実験:探索事例CASE01 エコマテリアルとは?
持続可能な未来を築く新しい材料の開発事例を紹介

エコマテリアルとは何か?

エコマテリアルとは、Environmental Conscious Materials(環境配慮材料)から生まれた造語であり、1991年に国内の材料研究者の議論のなかで「地球環境に調和し持続可能な人間社会を達成するための物質・材料」と定義されました。エコマテリアルは、材料の特性(フロンティア性)、人への優しさ(アメニティ性)、環境への優しさ(環境調和性)の3つの特長を兼ね備えた材料になります。

(図1)

エコマテリアルが近年注目される理由

エコマテリアルが近年注目される理由は、ふたつ挙げられます。

①持続可能な社会の実現に向け幅広い領域の材料に環境への配慮が求められていること

低炭素化や廃棄プラスチックの環境流出などの社会課題が顕在化し、社会がサステナブルなあり方を模索している今、エコマテリアルが提唱された頃よりも幅広い領域の材料に環境への強い配慮が求められるようになっています。

②インフォマティクス活用による新しい材料・素材開発が本格化したこと

デジタル技術の進展によりインフォマティクスを利用した新しい材料・素材開発、すなわち従来の特性を維持しながらも環境への負荷を抑えられる材料の探索が現実的なものになってきました。

エコマテリアルの応用例と開発事例

エコマテリアルの代表的な応用例として、①燃焼させても CO2 排出量を増やさないカーボンニュートラル材料、②環境や人体へおよぼす影響を配慮した接着材、③モビリティの電動化や再生可能エネルギーの利活用を支える固体電解質があります。

エコマテリアルの開発事例として、本記事では日立ハイテクが提供するChemicals Informatics®((ケミカルズインフォマティクス)/以下、CI)を用いた3つの応用例に関する材料探索の内容をご紹介します。

エコマテリアル事例 01
燃焼させても CO2 排出量を増やさないカーボンニュートラル材料(ポリ乳酸)

ポリ乳酸は燃焼させても CO2 排出量を増やさないカーボンニュートラル材料であり、生分解性ももつ有益な材料です。ただ、耐衝撃性や耐熱性などと生分解性がトレードオフになっているという課題があり、まだ用途は限られています。そこで本実証実験では、ポリ乳酸の降伏強度と生分解性の両方を向上させる添加剤を CI を活用し探索しました。

母材であるポリ乳酸と、31 種類の添加剤候補を CI に入力し、31 万通りの組み合わせから探索を実行すると、降伏強度が高い添加剤として「アジピン酸」など3種類が選定されました。さらに生分解性に関係する吸水率、水蒸気透過性が高い組み合わせを選定。結果として「アジピン酸」と「3,3ʼ-ジチオジプロピオン酸」が有望であるいう結果が得られました。

この添加剤候補に対して、分子シミュレーション、強度試験、加水分解試験をおこなったところ、降伏強度の向上と、加水分解を促進するという結果が得られ、CI による選定の正確さが実証できました。通常は選定と評価のやり直しを重ねて3年程度かかるところ、わずか2カ月で添加剤の特定、特許出願に至りました。

(図2)

開発期間の短縮は、開発費用の削減につながり、実験回数が大幅に減少したことで CO2 排出量の削減にも寄与しました。

関連資料
ポリ乳酸の活用に寄与する添加剤特定の研究は公益社団法人高分子学会主催の「第31回ポリマー材料フォーラム」広報委員会パブリシティ賞を受賞しました。研究に携わった研究者の声も紹介していますので、本研究の詳細はこちらをご覧ください。

エコマテリアル事例 02
環境や人体へおよぼす影響を配慮した天然成分を活用した接着剤(ペプチド)

建材などに多く使用される接着剤。接着剤のおよぼす環境や人体への影響も、大きな課題として認識が高まっています。生体への影響に配慮するため、人や動物の筋肉などを構成するタンパク質の成分であるアミノ酸、およびアミノ酸が 2 つ以上結合したペプチドに着目。生物の機能を製品開発に活かすバイオミメティクス的発想で、海洋中で岩場に付着するイガイという貝の接着タンパク質を参考にした耐湿性接着剤の開発を想定し、CI で化合物の探索を実行しました。リシンやアラニンなどの天然のアミノ酸 20 個を入力し、接着強度をフィルターに加えて探索。接着強度が高いと列挙されたもののなかから、曲げ強度の高さや、水蒸気透過性の高さなどを指標にさらに絞り込むと、14 のペプチドがヒットしました。これらを実際にイガイの接着タンパクについて調べた文献と照らし合わせると多くが合致し、妥当な探索結果が得られたことがわったため、分子シミュレーションを用いて水中での接着メカニズムの解明を試みました。これにより、電気的な相互作用の強い官能基をもつペプチドでより強い接着強度を示すことや、ペプチド中のアミノ酸配列によっては官能基どうしの相互作用で強度が弱まることなど、生体を模した材料開発の参考となる知見が多く引き出されました。

化学物探索は、このような天然成分の活用による水質汚染防止や環境、人体への負荷低減、ひいてはSDGs の実現にも貢献します。

エコマテリアル事例 03
モビリティの電動化や自然エネルギーの貯蔵で注目される固体電解質(新規化合物)

固体中をリチウムイオンが高速で拡散する電解質は、全固体電池の性能の鍵を握っています。本実証実験では、高いリチウムイオン拡散係数をもつ固体電解質の新規化合物候補を探索するため、まず各社の特許を見ながらリチウムイオン電池で使用される代表的な化合物の洗い出しをおこないました。それらの化合物を CI に入力し、何回か探索を重ねるうちに、高いリチウムイオン拡散係数をもつ新しい化合物も抽出されてきました。そして、新たに抽出された化合物を含む化合物の全ての組み合わせからなる複合材の探索をおこない、出力された複合材候補の中からまだ特許が出願されておらず、かつリチウムイオン拡散係数の高い複合材を抽出し、さらに分野・特性フィルターを用いて精度良く絞り込みを実行。すると既知材料(Li7La3Zr2O12)よりもリチウムイオン拡散係数の高い電解質材料(ZrF 系+ZrN 系+ PO 系)が見つかりました。容量や高温耐性などの次の段階へ研究を進めています。

エコマテリアル開発の課題と解決策

エコマテリアル開発の課題は、従来の特性を維持しながらも環境への負荷を抑えられる材料を探索するために多大な時間とリソースが必要となることです。また、探索するためには材料開発に関するデータベースの量と質も重要となります。

日立ハイテクが提供するCIは、1億1100万の既知化合物、5100万件の特許といった公開情報を網羅し、自然言語処理AIで特許から特性値・分野・用途情報を抽出した日立ハイテク独自のデータベースを構築している点が高く評価されています。「実験がうまくいき、特許を出願できた」「分子設計のヒントが得られた」「法規制起因による代替材料を素早く探索できた」といった評価をいただいています。

また、このようなエコマテリアル開発の課題を解決するためには、冒頭でも紹介したようなインフォマティクス活用に加え、材料開発に知見をもつ外部サポートも有効です。

日立ハイテクでは、充実したCIのデータベースを、「必要な時だけ費用を抑えながら使いたい」という多くのお客さまからのリクエストをもとに、月単位で使えるライセンス形態もご用意し、探索に活用できるメリットを感じていただいています。また、化合物探索のためのクラウドサービスをご提供するだけでなく、日立ハイテクの経験豊富なメンバーが操作を代行するサービスや、材料開発を伴走支援するサービスもご提供しています。同サービスで収録された「降伏強度」「光透過率」「熱伝導率」といった特性項目は、当初は30種類でしたが、お客さまのご要望を取り入れ、現在では87種類に増えており、より多くの分野での活用が可能になりました。

まとめ

エコマテリアルが近年注目される中、CIを活用した材料探索が解決の糸口となった開発事例をご紹介しました。材料メーカーだけでなく、最終製品として価値をつくり込むメーカー側でもCIを使って、材料の開発や選定する取り組みが始まっています。企業の規模に関わらず、材料開発に取り組む化学メーカーさまでCIの活用が進んでいますので、興味をおもちになった際はまずはお気軽にご相談ください。

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