今回はAI制御システムによるプラントの長期運転の成功事例をご紹介します。私たちが日立造船株式会社さまとともに、ごみ発電プラントにおいておこなってきた実証プロジェクトです。
バリュークリエーション事業ユニット
バリュークリエーショングループ
ごみ発電プラントの重要部「蒸気過熱器」における蒸気温度をAI制御する。
私たちがAI制御の実証プロジェクトを共同でおこなったのは、多くのプラント建設、運営管理を手掛ける日立造船株式会社さまです。AIによるプラントの高度運転を技術戦略の一つとして掲げておられ、私たちのパートナーとなってくださいました。
おこなった実証実験は、日立造船さまが手掛ける「ごみ発電プラント」で重要な役割を果たす「蒸気過熱器」の注水制御をAI制御でおこなうというものです。過熱器内部に流れる過熱蒸気※1(以下、蒸気)を、ごみ焼却熱を伝熱させることで過熱する「蒸気過熱器」は、蒸気温度を保安上の最大温度を超えないようにしつつ、可能な限り高温を保つことで高い発電効率を維持します。温度調節のために設けられている注水弁の開度をAIで制御することを試みました。
従来、注水弁開度制御にはPID制御※2が適用されていました。しかし、目標値との偏差をもとに制御をおこなうPID制御では、熱源であるごみの含水量やカロリーなどのごみ質がまちまちであるために、制御対象である蒸気温度の上下振動が多くなってしまうという課題がありました。また、蒸気温度制御は応答遅れ※3が比較的大きいプロセスであるため、注水弁開度の操作が蒸気温度の変動抑制に寄与するまでにプロセスの状態が変化してしまい、制御動作がプロセスに追従できない課題も抱えていました。
変動を抑制し、平均温度を1.0℃引き上げる改善を確認。
パラメーターの調整をおこないながら試験を繰り返していくと、AI制御がはっきりとした成果を見せ始めました。
通常運転時では、PID制御はごみ質が急変する局面で注水量が増加して蒸気温度が低下する傾向が推察されます。それに対し、AI制御では、変動が抑制され、平均温度が1.0℃引き上げられ、最頻値※4も制定目標点と一致するまでに改善していることが確認できました。蒸気温度が低下傾向になるスートブロー運転※5においても、AI制御では平均温度が1.8℃引き上げられていました。
ごみ質の変動によらず、蒸気温度が常に目標値の近くに維持されることが確認でき、日立造船さまからは「ごみ焼却施設の発電能力を最大限に引き出す技術」「高効率運転を実現できたことで発電量が増やせた」といった高い評価をいただきました。
図1 実証運転の結果
図1左は、蒸気温度における目標値と日毎平均温度の偏差をヒストグラムとして表したもの。通常運転時と、スートブロー運転という特殊運転時それぞれで、分けて評価を行った。通常運転時では、平均温度が1.0℃引き上げられ、最頻値も制定目標点と一致するまで改善。
図1右はPID制御とRL-Prophet®制御の典型トレンド例を比較したもの。PID制御では比較的長い時間周期かつ大きい振幅で蒸気温度が変動しているが、RL-Prophet®制御では比較的短い時間周期かつ小さい振幅に蒸気温度の変動を抑制できていることがわかる。
長期運転の成功の要因は、安全保護と綿密な連携。
新しい技術をプラント操業に適用するうえでは、どのような状況になったとしても対応できる安全保護が必要不可欠です。今回は、AI制御を適用可能とする条件を日立造船さまに検討いただき、蒸気温度が高くなりすぎたときなど、その条件から外れた場合は、実績のある既存のPID制御で操業するという対応をおこなっています。そのような仕組みを日立造船さまとしっかり議論して、実装しています。
また、制御検証の結果をトレンドグラフで監視し、良い動作、悪い動作に対して、なぜそのような制御をおこなったのかを日立造船さまと弊社で深く議論しました。綿密に連携し、私たちのAIに関する知識、日立造船さまのドメイン知識を持ち寄ることで、制御性能を探求することができました。ドメイン知識を深く理解した上で最新の技術を現場に実装していくことは、私たち日立ハイテクソリューションズの強みです。それが今回の成功にもつながっていると考えています。
カーボンニュートラルへの貢献も期待できる強化学習技術。
この実証プロジェクトを経て、さらに対応できる制御周期の拡充や、学習モデル構築に使用できるセンサー値の数の拡張などがおこなわれ、AI制御システム「RL-Prophet®」は製品化されました。化学プラントをはじめとして、下記のようなお悩みをもつお客さまに注目をいただいています。
「PID制御では制御が追従できないプロセスがあり、熟練者の操作支援によって操業をおこなっているが、属人性を改善したい」
「PID制御による制御効率をさらに高めることで、生産性、品質、収率を改善し売上を拡大したい」
「プロセスの状態によって目標値が変わるため制御が安定しない」
「最適なパラメーターを決めることが難しく、最初にシステムを構築してから制御の改善をおこなっていない」
「市場からの高品質要求の高まりや、カーボンニュートラルへの対応の具体策を探している」
AI制御システム「RL-Prophet®」は要素技術として新型強化学習技術を使っています。これは一般的な強化学習がおこなう「エージェントがさまざまな動作を試して、その結果、報酬が得られた良い動作を学習していく」という学習プロセスを、実環境(実プラント)での試行錯誤からではなく、過去の運転データから学習することを可能としたものです。生産効率を維持しながら二酸化炭素排出量を抑えることを報酬の条件として与えることで、カーボンニュートラルへの対応にも寄与できると考えています。ぜひ導入をご検討ください。
※1 過熱蒸気:飽和温度(沸点)以上の温度に加熱された蒸気
※2 PID制御:制御対象の目標値と現在値の偏差に基づき制御をおこなう制御手法。Proportional(比例)・Integral(積分)・Derivative(微分)の3つのパラメーターを調整することで数式を完成させ、操作量(現在値を目標値に近づけるための操作値)の計算をおこなう。
ご参考記事:「「PID制御」と「AI制御」の違いとは?」
※3 応答遅れ:おこなった操作が実際に被制御量の値変動として表れるまでの時間
※4 最頻値:最も出現頻度が高い(多く出現している)値
※5 スートブロー運転:過熱器に圧縮空気等を吹き付けることで、過熱器の伝熱面に付着した煤や塵を除去する運転。過熱器の熱伝導率を向上させることなどを目的におこなう。
リアルタイムAIプラント制御システム
次世代を担うAI制御については、さまざまなご質問をいただきます。
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