福岡県久留米市で開催された第74回 日本顕微鏡学会 学術講演会において、SI NEWSに寄稿いただいた先生がたに、インタビューを敢行。学術講演会の発表内容や学会の感想などをお話いただきました。テキストと併せて動画でも公開していますので、ぜひご覧ください。また、日立ハイテクブースにおいて収録しました、新製品、新技術、アプリケーションのご紹介も掲載しています。
産業とアカデミア、異分野交流の場としての活気ある雰囲気と共に、先生がたが見据えるこれからの電顕解析イメージングの潮流をお感じいただけたらと思います。
(敬称略)
宮崎大学医学部解剖学講座
超微形態科学分野
一般財団法人
ファインセラミックセンター
一般財団法人
ファインセラミックスセンター
一般財団法人
ファインセラミックスセンター
株式会社日立ハイテクノサイエンス
株式会社日立ハイテク
株式会社日立ハイテク
株式会社 日立ハイテク
アプリケーション開発部
瀬籐賞受賞
藤田 大介
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
発表タイトル
表面多機能ナノプローブ法と極限計測技術に関する研究
まずはこの度の瀬藤賞の受賞、おめでとうございます。受賞講演の内容について簡単にご説明いただければと思います。
ありがとうございます。私の講演の内容の中で一番重点を置いたところは、アクティブナノ計測、今はオペランド計測と言われているものです。我々はこれを2001年から提案しておりまして、実働環境のナノレベルの多次元的な計測をして、物質とデバイス、材料、機能の発現メカニズムを明らかにしようという動きを顕微鏡学会のメンバーの方々にも参画してもらって始めておりました。それが、今や世界的にもオペランド計測と言われて非常に重要になってきています。それを中心に今日はお話ししました。
先生は今もまさに現役で先端計測技術を突き詰めて研究されているわけですが、その発想や情熱はどこから湧き出てくるのでしょうか。
たぶん私に限らないと思うのですが、大学の学生の頃から基本的に自分で測りたいものは自分でつくる。計測の装置も、それを動かすプログラムも、それで何を測りたいかは自分で決めるというふうにしてきたので、今でも我々の研究所の計測に関係する研究者にはそのようにお願いしています。そういう意味では、何かが測りたければ、それを測れる装置とか技術を自ら発想してつくるというのが基本です。だから今でも何かを測りたいと思えば何か新しい計測の方法を考えると思います。年齢は関係ないと思います。今日の橋本(初次郎)先生の記念シンポジウムも、何歳になっても研究の意欲というのはたぶんなくならないと思いますね。
測りたいものがあって、それを測れる装置がないから、それを自らつくるのだと。
あれば買ったり借りたりすればいいわけです。ないからそれをつくろうと思うわけです。
誰もやっていないことをやるのが楽しい、それが研究ということですね。
もちろん大学の先生もそれでいいと思うのですが、とくに我々国研(国立研究開発法人)の人間としては、計測の研究をする以上は、計測技術がないからつくるわけですね。それは国研の研究者にはぜひやってもらわなければいけないと思います。その結果として、要するに、我々のつくったいろんな技術とか装置を実際に皆さんに使っていただけるようになればもっといいということです。
今後の方向性についてお教えいただけますか。
間違いなくオペランド計測はこれからますます重点化していくと考えています。これが測れればいいのになぁというニーズがいっぱいあります。たとえば今、電池が動いている状況で測れたら、どこが律速しているのかとか、ここを直せばいいということが、より明確になると思います。電池に限らず、デバイスが動いている状況でちゃんとナノスケールで見える装置をつくる。これはニーズがあります。
もうひとつは、やはりビッグデータですね。これまた我々計測をやっているとわかるのですが、今やデータの大きさといったら非常に大きいです。今は三次元で測りますからね。三次元のスペクトロスコピーをしますから、もうデータ量は大きいです。尚かつ測っている物性・量が、1個で済むことが無いのです。いくつも同時に測る。多次元計測と言いますが、多次元化するのと、立体化してくるという、つまりギガバイトクラスのデータが1回で出てくるわけです。将来的には、たぶんテラバイトになると思います。そのデータは我々の直感では解析不可能なのです。そこにはもうデータ科学を入れないとたぶん対応できない。そういうビッグデータ対応と、もうひとつが計測の精度とか感度とか分解能自体も我々はデータ科学を使ってよりよくできると考えています。そこはたぶん新しい方向性ですね。
研究を進めていくに当たって、メーカに対する希望・期待などあればお知らせください。
我々としては、協創の場を構築して、ぜひ企業の方にも参画してもらって、一緒に考えていって欲しいなと。できればそれをなるべく早くマーケットに出す。そういった面で協力できればいいと思います。今、世界中で、早いんですよね。アメリカもヨーロッパも最先端の計測をやっている人が、マーケットにそれをスタートアップ、つまりベンチャー化して出してくる。もしくはそのベンチャー化したものを計測の企業さんが買い取って売り始めるとか、とにかくマーケットに出てくるスピードが向こうはたいぶ早くなっています。日本もそうできると思います。
とくに日立ハイテクに対するご要望はありませんか。
日立ハイテクさんには、やはり日本の計測機器メーカの中のトップを走っているということで、ぜひそういうオールジャパンの体制で主導して欲しいと思っていますし、先端的なものをやるというのも大事ですが、やはりそれのもう少し普及というのがあって、普及の面でもぜひ一緒にやってもらいたいなと。私には3つミッションがあって、先端計測をつくるのと、みんなに使ってもらう共用化と、これを国際標準にするという、この3つなのですが、国際標準に関していうと、ぜひ日立ハイテクさんには一緒にやってもらいたいと思います。日本はそういった意味で国際標準化の活動というのも重要だということをぜひ認識してもらいたいなと思います。我々の分野はかなり昔からやっています。表面の分析に関していうと、ISOのTC201は日本が幹事国になっていて主導的にできています。、一方で、電子顕微鏡、microscopyは中国が幹事国なのですが、日本の企業の方々がかなり一生懸命貢献しています。ぜひさらにmicroscopyの標準化でも、主導的な役割を果たして欲しいですね。
奨励賞受賞
桒原 真人
名古屋大学未来材料・システム研究所
発表タイトル
スピン偏極パルス電子源搭載した透過電子顕微鏡の開発
および超高速ミクロスコピー・スペクトロスコピー手法としての実験的研究
奨励賞の受賞、おめでとうございます。受賞講演の内容について簡単にご説明いただければと思います。
ありがとうございます。既存のTEM(透過電子顕微鏡)の電子が出る部分をまったく新しいものにして、たとえば時間方向の情報やエネルギー方向の情報を高い精度で測れる装置を開発しました。
受賞の決め手となったポイントや、学会から期待されているとお感じなっているところは何でしょうか。
たぶん研究者で装置をあそこまで触ってまったく新しいものを作るというのはなかなかないと思うので、その点かと思っています。それでいい成果が出た部分もありますし、それも含めての受賞と思っています。
期待されていると思うことは、私が受賞することで今までの透過電子顕微鏡の開発に、違う新しい風を起こして、また新しいものをつくって欲しいという期待が込められていると思っています。
非常に最先端の研究をされているわけですが、その研究が社会的にもたらすものはどういったものだとお考えですか。
いろいろありますが、たとえば今、省エネルギーデバイスの開発が進んでいると思います。それを、私がつくった電子顕微鏡を使って、時間方向の情報、エネルギー方向の情報がわかるというところを活かすと、エネルギー損失が、デバイスの中のどこで起きているかを解明することができ、非常に高効率な省エネデバイスができる。また、たとえばスピンという、磁性を測れるような電子の特長もありますので、それを活かせば、今度はスピントロニクスや磁性体などの開発が加速する。そうすればいろいろな省エネルギーで高速な未来のデバイス開発を下支えするようなことができるのではないかと考えています。
先生のご研究の今後の方向性、展望などについてお聞かせください。
3つあります。ひとつは、時間方向を制御して、電子顕微鏡で見えるミクロな世界を高速な時間方向で輪切りにして見ていくということを高度化していきたい。もうひとつは、先ほど言ったスピンを使って新しい計測手法を開発し、今まで見えなかったようなものを見たい。3つめは、電子が持つ量子力学的な、基礎物理的なところも電子顕微鏡を使うといろいろできる。それをやっていきたいと思っています。
非常に自由で発想豊かにアクティブな研究をされているように見えますが、先生の受賞は他の研究者の励みにもなりますね。
ありがとうございます。そう言っていただけると私も今後の励みになります。
澤口 朗
宮崎大学医学部解剖学講座 超微形態科学分野
発表タイトル1
再生臓器品質評価に資する簡便迅速「厚切りパ ラフィン切片低真空走査電顕解析」開発
発表タイトル2
TEMによる免疫電顕:包埋後標識法
今回の2件の発表内容について簡単にご説明いただければと思います。
今回はまず再生臓器というiPS細胞からつくられた臓器が、はたして人の本当の肝臓や心臓と同じ構造をしているのか、これを電子顕微鏡レベルできちっと観察・評価しなければいけないのではないか、というテーマでワークショップをひとつ組みまして、その手段として「低真空SEMを用いたパラフィンの厚切り切片の三次元構造」という演題で私はひとつ発表しております。もうひとつは、このタンパク質がどこにあるか、局在を決める上での免疫電顕法というのがございますが、その基本的な方法についてご紹介する、この2つの演題を提出しました。
透過電子顕微鏡(TEM)観察の包埋後標識法について具体的にお教えいただけますでしょうか。
こちらはTEMを使ったタンパク質の局在になりますが、だいたい8 nmから14 nmという非常に小さな金の粒に、特定のタンパク質などに付着・結合する抗体をくっつけて、その粒子がどこにあるかをTEMで観察するという方法です。これは一回、試料を樹脂に入れて薄く切ったあとに標識をするので、包埋後標識法となっておりますが、TEMのひとつの解像度でタンパクの局在をきちっと決める魅力的な手法かと考えております。
そういったかなり微細なものをわりと簡単に見つけ出して観察するための独特の標識法があるということですか。
そうですね。私はその8 nmの小さな金の粒をつくるところから自らの手でやっているので、その方法をお教えしたいなと考えています。
以前に電顕の裾野を広げたいとおっしゃっていましたが、その後、手応えはいかがでしょうか。
これは草の根の活動ですけど、高校生を年間50人から60人集めて、興味を惹き起こしています。彼ら・彼女らが大学生になって結果が現れるのは5年後10年後の話かと思いますが、そのセミナーにそれだけの人数が参加してくれていることで、いずれ花が咲くかと楽しみにしているところです。
最新の論文では低真空SEM(LV-SEM)を使って検証されています。今までずっとTEMを使われていた先生が、LV-SEMを使うことになったきっかけや、その意図やニーズはどういうところにあったのでしょうか。
実際に私がLV-SEMと出会ったのは昨年の春になりますが、御社(日立ハイテク)からご紹介をいただきました。これは先ほどの裾野を広げるというところにもつながるのですが、ハイスペックな電子顕微鏡には威力はありますが、やはり手が出しにくいなど敷居の高さがあります。そういう意味では気軽に使える卓上の低真空SEMでここまでの解像度で細かい組織を見られるというところを、新しい方法をつくることでユーザが増えて、それが一般化して、その上でもっと見たいという方がハイスペックなTEMやSEMに手を伸ばしてもらうというシナリオを描いたからです。
TEMとSEMはそれぞれ利点がありますが、先生のご研究ではどのような使い分けをされていますか。
組織や細胞の中身を見たい場合はTEMを、表面を見たい場合はSEMをと大きく分けられますが、今はSEMでも反射電子像という形で中を見ることもできますので、そういったいろいろなレパートリーをわかりやすくホームページでも紹介しています。そういうことで、皆さんに電子顕微鏡というのはこんなに簡単にできる、簡単だけどこんなに威力があるということを、広くこれからも伝えていきたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
大きいところでは、やはり再生臓器、iPS細胞の臨床応用です。電子顕微鏡での評価が必要になるのは実際に臨床応用に向かう2年後3年後と言われていますが、必要になったときにすぐにツールとして使ってもらえるように今から準備をしていく。その準備は人材の育成も含めての準備だと考えています。
最後に、日立ハイテクへの要望等があれば率直にお聞かせください。
私の考えとしては、電子顕微鏡の解像度やスペックを上げていく。要するに山の高さを上げる部分も科学としては大事なのですが、ただ裾野を広げるというところに私は視点を置いているので、そういう意味では、より使いやすく、卓上電子顕微鏡も含めて、その高さだけではなく裾野を広げる動きにもいろいろとご支援いただきたいなと考えております。
平山 司
一般財団法人 ファインセラミックセンター(JFCC)
発表タイトル
電子線ホログラフィーによるp-n接合精密解析 における不活性層問題とその解決法
今回のご講演内容を簡単にご説明いただけますか?
まず今回の私の発表内容ですが、これは電子線ホログラフィーという方法を非常に精密に改良しまして、半導体のPNジャンクションの電位差、あるいは電場、電荷密度などを非常に正確に測れるようになったというお話をいたしました。
電子線ホログラフィーは日立の外村彰さんが実用化された方法で、私もかつて外村さんの研究グループに約4年間所属し、その技術を学んで、それをもって今のファインセラミックスセンター(JFCC)に再就職しました。その後20年以上ずっとその技術のブラッシュアップに努めてきました。
半導体のPN接合が見えるということは、遥か昔からわかっていて、イタリアのPozzi先生のグループが最初に成し遂げた仕事ですけど、そのあとブラッシュアップすることによって、単に見えるということではなくて、そこのある電場や半導体としての基本的な特性をきちっと測って、信用できるレベルに高めて、それをさらにモノづくりに使える、そういうことができるように一生懸命やってきました。
イメージングの重要性と求められる役割について、最近は何か変化を感じられますか?
顕微鏡専門ですので、見ることに大変感動があって、見ること自体にも価値はあるのですが、やはりただ見るということだけではなくて、見た結果がきちんと定量的に評価できて、それがモノづくりに役立ち、信用できるレベルに使われていくというところまでやるのが大事だと最近は思っています。
この学会に期待することはありますか。
若いときからずっとこの学会に所属して、とにかく意地でも毎年この学会に来て、この学会で発表できるようなアウトプットを出すことを自分の最低の目標にしてきましたので、期待するということよりも、まずはこの学会には感謝の気持ちでいっぱいです。期待することとしては、やはりモノを見るときの感動ですね。見えなかったものが見えると感動しますので、その感動を世の中に伝えていく学会であって欲しいなと思います。さらにそれが信用できる、信頼できるレベルの定量性をもったデータになりモノづくりに役立っていくとどんどん広がると思います。もちろん学会という場ではありますが、大学や国立の研究所だけではなく、企業の方にもどんどんここに入っていただいて、見ることのおもしろさと価値を活用していただきたいと思います。我々ファインセラミックスセンターのような財団法人の研究所が、その橋渡しをできればいいなと私自身は思っています。
山本 和生
一般財団法人 ファインセラミックスセンター
発表タイトル
位相シフト電子線ホログラフィー再生処理時間 の短縮化
今回の講演の発表内容について簡単にご紹介いただけますか?
電子線ホログラフィーの位相計測法(位相再生法)の改良という話をしました。我々のグループでは、高感度かつ高分解能な電子線ホログラフィーが売りですので、それを使って新しい半導体のデバイスや次世代のLEDなど、そういうものの研究開発に役立つ手法の開発と、GaNデバイス内部の電位分布の観察に応用した結果について発表しました。
電子線ホログラフィーのその高感度かつ高分解能な特長を使って具体的には何をされるのですか。
半導体の内部には電位分布がございまして、最先端のデバイスになるに従って、非常に狭いところ、ナノメートルオーダーの電位変化の小さい部分、ここをいかに高分解能かつ高感度で計測するか、デバイスを設計・製作する上で、そこが非常に重要になってきますので、新しい手法の開発、そして、その電位分布を観察して、どういうふうに解釈するとデバイスの研究開発に役に立つのかという研究です。
この学会では毎年、産業とアカデミアの交流や、まったく異分野同士の交流もありますが、何か刺激を受けましたでしょうか。
この学会はメーカーと大学と研究所がミックスされた、あまりに大きな規模でもなく、小規模でもなく、ちょうどいい頃合いのコミュニケーションが確立できるような学会だと思いますので、私は一番エキサイティングな学会として毎年必ず参加させていただいています。
今後の研究の方向性や展望についてお聞かせください。
電子顕微鏡をやっておられる方は皆さんそうだと思いますが、新しいものを見たい、そこに尽きると思います。新しいオリジナルな電子顕微鏡を作って、オリジナルなものを見ていく。そこの感動を皆さん味わいたいのだと思います。そこが高いモチベーションになって、見えたときの感動というのはやはり大きい。そこで、私は何がやりたいかというと、私はデバイスの観察をしていますが、生物も言うならばデバイス、ナチュラルなデバイスなので、それに(電子線ホログラフィーが)つながればおもしろいかなと思っています。私はずっと材料観察をしてきましたから、材料と生物はかなり分野が違うので、そこをどうやるのかというところがなかなか難しいところですが、将来的にはそういうもの(生物の電位分布など)が見えたらいいなと思っています。
川﨑 忠寛
一般財団法人 ファインセラミックスセンター
発表タイトル
汎用SEM用の電界型収差補正器の開発
今回のご講演の内容について簡単にご紹介いただけますでしょうか。
日立ハイテクと共同で開発しているSEM用の収差補正器開発の進捗について、SEMのセッションで発表します。昨年度までで、収差補正をする前の分解能よりも向上しているデータが出ましたので、その内容を発表します。
チームとしての研究でトピック的なことがあればお教えください。
本日のポスター発表で、収差補正器関連の発表が3件あります。いずれも、装置開発の話と、理論的解析の話です。それから、私のもうひとつの研究である環境電子顕微鏡関連の発表もあります。こちらは亜鉛空気電池という新しい電池の電解液中での電気化学反応をダイレクトに観察しており、劣化機構を解明する内容の発表です。
この学会では毎年、産業とアカデミアの交流や、まったく異分野同士の交流もありますが、何か刺激になることはありましたか。
私が学生時代に少し研究していました位相計測の分野ですね。今もう一度、とても注目されている分野ですので、私たちがやっているその場観察に、その位相計測を組み合わせていくというのは結構重要なポイントではないかと思い、インスパイアされました。
今後の研究の方向性やこの分野における展望などについてお教えください。
位相計測とその場観測の組み合わせと、もうひとつは画像処理ですね。圧縮センシングなどの情報処理を電顕像観察にうまくコンバインする話が世界的にもいまトピックスになっています。現在開発している収差補正器をつけたSEMにそれをドッキングさせて、ダメージを受けやすいサンプルを観察するためのSEMシステムをつくりたいなと、そういう方向にこれから展開していきたいと思っています。
顕微鏡は学術・産業を問わず様々な分野において必要とされる技術ですので、先生のような若い研究者に期待されるところは大きいと思います。
ありがとうございます。おっしゃるとおりで、今まで我々はどちらかというと金属とかセラミックスとかの材料ばかり見ていたんですが、これからは生物系のサンプルを、動いている最中であったり、あるいは薬を入れたときの変化であったり、液体中の細胞やタンパク質が生きた状態で反応する様子をダイレクトに見るなど、そういった研究に展開していきたいと思っています。
酉川 翔太
株式会社日立ハイテクノサイエンス
セミナータイトル
新型高性能トリプルビーム®装 置「Ethos NX5000」の紹介
新型FIB-SEM Ethos NX5000の開発で注力した部分はどこになりますか。
主にSEMの性能と、ソフトウェアです。具体的には、従来からコールドFEの搭載と、デュアルレンズの開発というところに力を入れています。
新開発のデュアルレンズとは。
まずフィールドフリーなFFレンズと、高分解能用のHR(High-Resolution)レンズ、この2種類が搭載されます。
イオンビームにおいての特長は。
従来のガリウムイオンビームの他にも、キセノンイオンビームや、アルゴンイオンビームが使用可能です。トリプルビームです。
FIBは、たとえば加工手順が複雑で初心者には少し使いづらいイメージがありますが。
まずイージーナビというサポート機能がありますし、今回の開発ではさらにルーチンワークが非常に簡単になるようにレシピツリーをつくりまして、簡単にレシピの作成が可能になっています。非常に多用途な、いろんな要望に応えられるような製品を目ざしましたので、ぜひ色々なお客様に使っていただけたらと思っています。
池内 昭朗
株式会社日立ハイテク
発表タイトル
低加速電圧SEMによるヒト血小板の定量的超微 細構造評価手法の開発
今回の講演内容について
再生医療で注目を集めるiPS細胞から作成されました血小板を、弊社のFE-SEMを用いて低加速電圧で観察し、その画像データから血小板の構造的な特長を画像処理ソフトウェアによって数値化して、その数値データを基に品質を定量的に判定しようという、そういった取り組みの報告をさせていただきます。
血小板をそこから得られたデータによって定量的に判定するというのは具体的にどういったことに役立つのでしょうか。
その品質と直結する特徴やいろいろな指標を数値で表現することによって、血小板のデータを大量に集めた際にビッグデータとして数値で処理をして、統計解析など様々な数値処理の方法で評価・解析が可能になります。これにより生物系の試料のみならず、様々な分野においても、今まで画像を見るだけというところから、画像から情報を取り出して、その情報を用いて様々な解析を行うということができる。つまり様々な分野に展開可能な技術だと考えています。
(宮崎大学)澤口先生との共同研究について、その内容と目的は
今回、澤口先生と一緒に共同研究をさせていただいて、最先端の現場で生産されているような血小板の画像をご提供いただきました。その画像から、品質と相関のある特徴を数値化するというチャレンジングな課題をいただき、非常に私としてもモチベーション高く仕事ができました。そして、逐一やりとりを重ねることで、画像処理のソフトウェアとしての品質も上げることができました。今後もやはり共同で実験データを集めて、ディスカッションを重ねながら、より精度の高い、応用可能なソフトウェアを開発していきたいと考えています。
その膨大なデータはどのようにやりとりしたのでしょうか
大量のデータのやりとりには、従来ですとCD-ROMや光ディスクに書き込んで郵送していましたが、今回は(日立ハイテク装置向けIoTサービスポータル)ExTOPEを活用しました。大量のデータをクラウドにアップロードすることで、瞬時に、もう1日2日とディスクを待つ必要もなく、すぐにデータをやりとりして、解析作業を開始し、結果を宮崎大学に送付するということも可能になりましたので、かなりExTOPEによって作業全体のスピードは向上したと考えています。
そういった定量的な判定が簡便にできるようになったのですね
そうです。やはり定量化するのとあわせて、データを大量にたくわえる必要がありますので、電子顕微鏡観察の前処理なども簡単にして、なるべく多くの試料を観察する必要があるということから、前処理からデータ処理まで各担当部署が一丸となって今回のプロジェクトが成り立っています。
FE-SEMの低加速電圧を使用された理由は。
従来は、細胞内部の構造を確認するときは高分解能が必要ですので透過電子顕微鏡(TEM)を使用していたのですが、TEMはやはり切片の切り出しですとか、様々な難しい作業が入ります。それに対して、今回は電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)の反射電子の観察を行うことで、その辺りのスループットがかなり向上しました。FE-SEMの(Regulus®) 8200シリーズ、こちらはとくに低加速電圧においての観察が非常に優れ、高分解能でいてチャージングが少なく観察できますので、この装置の特性と、今回、私が行った研究がちょうどよくマッチし、素晴らしい結果を得ることができました。
今回はSU8200を使用ですが
より簡易的に、より手軽に観察を行ってデータをとりたいというモチベーションもありますので、Miniscope®TM4000、FlexSEM1000、SU5000など、様々な機種を検討しています。今回は、血小板に対する分解能はSU8200がよかったので、もう少し分解能の条件が厳しくないようなものに関してはTM4000といった、手軽に観察できるような装置でもよいデータがとれるのではないかと思います。
東 淳三
株式会社日立ハイテク
ポスターセッション
STEM・SEM同時計測クライオ電子顕微鏡の開発
立ハイテクノロジーズ開発のクライオ電子顕微鏡の概要、特長、利点などについてお教えください。
我々の開発したクライオ電子顕微鏡は、汎用型のSEMで簡単にクライオのSEM像、およびSTEM像を観察することができるのが特長です。
汎用型のSEMを使うことによって比較的導入コストを抑えられる設備ということで、導入しやすいのがひとつの大きなメリットです。またこの装置では、STEM検出器と二次電子検出器を使って、同時にSTEM像とSEM像を見ることができますので、クライオで採取しましたサンプルの内部構造と表面構造を同時に見ることができて、どういう構造のものなのかという内部情報をしっかり見極めることができるようになっております。
橋本 隆仁
株式会社 日立ハイテク アプリケーション開発部
セミナータイトル
電子顕微鏡で見る電子部品の世界
セミナーの概要を簡単に紹介ください
電子部品とはどういう特長のものか、要するにいろんな性質のものが使われた非常に細かい部品であることから電子顕微鏡が必要というお話をしました。続いて(日立の)製品のラインナップを、イオンミリングから透過電子顕微鏡(TEM)まで全種類網羅するように話し、それからアプリデータシートで紹介されていたり、あるいはカタログに出ているようなデータを編集し、電子部品の解析にいかに電子顕微鏡が役に立つかということをPRいたしました。
部品を見るアプリケーションはどのくらいあるのでしょうか。
今回ご紹介したのは23枚でしたが、無数のアーカイブがあります。
その無数のアプリケーションについて、どこで見ることができるのでしょうか。
(会員制サイト)S.I.naviに行きますと、様々な装置、様々な試料の多種多様なアプリケーションが閲覧できるようになっています。
今回は機器をまたいで色々なご紹介をされていましたが、将来的には機器と機器のあいだのリンケージをするような構想はありますか
今すでに光学顕微鏡とSEMとのリンケージは製品化されていまして、それからSEMとAFMのリンケージも製品化されています。あとはFIBとTEMがこれからの課題と思っています。
製品単体で完結するだけでなく、機器をまたいでTEMでもSEMでも見られるようになっていくということですね。
機器に特有の情報というものがありますので、単体でいければ一番簡単でいいのですが、場合によってはバックアップの知見として何か別の機器でとらなければいけないという必要性も発生しますので、そういうニーズは引き続き出てくると思います。
では機器の専用機化とともに機器をまたいでデータをやりとりするようなニーズも高まっていくでしょうか。
機器をまたぐか、あるいはひとつの製品の何かのオプションでそれができるようにするとかですね。
そこに向けた研究や対策はすでに御社ではされているのでしょうか。
お客さんとのお付き合いの中でいろいろなアイデアはいただいていますし、あるいは我が社独自の開発もやっておりますので、そういった中からネタを見つけて新しいものを日々つくっていけるように努力したいですし、プロアクティブに先のニーズを見越した製品開発をしていきたいですね。
電子顕微鏡で見る電子部品の世界
日立ハイテクランチョンセミナー資料