山岡 武博*1
SEMは2次電子像(SE像)や組成起因の反射電子像(BSE像)などの像情報以外にも特性X線分析による元素分布、EBSDによる結晶方位解析など多彩な情報が得られる装置である。加えて、近年の低加速観察性能の向上により電位コントラストなどの物性情報も定性的に得られるようになってきている。一方、SPM は原子レベルの形状計測以外にも、探針の種類や走査方法を工夫して粘弾性や摩擦分布などの力学物性情報や、電流分布、表面電位、磁気分布などさまざまな電磁気物性情報を得ることができる。試料の同一視野でSEMとSPMによる観察を行えば、構造、組成、物性の相互に関係する豊富な情報を得ることが可能になる。すでにイオンミリング、FE-SEM、SPMに共通の雰囲気遮断試料ホルダーが製品化されており、リチウムイオン電池の電極材料のSEM観察やSPMによる電気抵抗分布の観察に用いられている1)。
永久磁石は電気自動車モーターをはじめ需要が増大しており、Dy(ディスプロシウム)を低減または使わない高性能磁石の研究が盛んである。図1はDyフリー熱間加工Nd2Fe14B 磁石の試料片にイオンミリング平面加工を施し、同一視野をSEMと、SPMの一種であるMFM(磁気力顕微鏡)で観察した事例である。イオンミリング平面加工により、個々の微結晶の粒界構造が鮮明に得られた。図1(c)はSE像、BSE像にMFM像(明部はスピンが紙面に対して上向き、暗部は下向き)を透過して重ねた画像である。次世代高性能磁石は結晶構造や磁性の精密な制御が望まれているが、結晶単位で磁化の向きやシングルドメイン/マルチドメインが判別可能で、結晶粒界構造や組成分布と磁気分布の関わりを精密に議論することができた2)。このようなSEM-SPM同一視野観察は、永久磁石材料以外にも、さまざまな結晶/粒界制御の先端材料やコンポジット材料、デバイスなどの研究に有効である。
図1 イオンミリング-SEM-SPMによる結晶/粒界の同一視野ナノ構造-組成-物性観察
(a)今回使用した装置 (b)MFM(磁気力顕微鏡) (c)Dy フリー熱間加工Nd-Fe-B 永久磁石への適用例
謝辞
ディスプロシウムフリー熱間加工Nd2Fe14B 磁石は大同特殊鋼株式会社様にご提供いただきました。
参考文献
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