1. SISモードとは
1-1. 従来の走査方法の課題
SPMには基本モードとしてAFMモードとDFMモードがあります。AFMモードは探針を微小な力で試料表面に接触させ、カンチレバーのたわみ量が一定になるように探針と試料間の距離を制御しながら水平方向に走査することで表面形状像を得ます。DFMモードは共振させたカンチレバーの振動振幅が一定になるように制御しながら水平方向に走査して表面形状を得ます。どちらの測定モードも常に探針と試料間の距離をフィードバック制御する必要があり、また走査による水平方向の相互作用が探針と試料間に働きます。そのため以下のような課題があります。
(1)急峻な下り斜面で追従性が悪くなる
下図のような急峻な斜面をDFMモードにより測定する場合、探針が常に試料と同じ距離を保ちながら走査することが理想的です。しかしながら、常に探針と試料との距離をフィードバック制御することは難しく、急峻な下り斜面では赤線のように探針が試料から離れてしまう傾向にあります。測定パラメータの最適化や探針の振動振幅を大きくすることで追従性を良くすることはできますが、完全に誤差を無くすことはできません。
(2)吸着力や粘着力が大きい試料での引きずりが起こる
吸着力や粘着力が大きい試料を測定すると、探針の振動が妨げられフィードバック制御が途切れてしまいます。そのため、形状像にはスパイク状のノイズや横スジなどの影響がでてしまい正確な形状測定が行えなくなります。
(3)軟らかい試料の変形や引きずり起こる
軟らかい試料を測定すると、下図のように探針の走査による試料の引きずりや変形が起こります。特にAFMモードは常に探針と試料が接触しながら走査しているためこれらの問題は顕著に現れます。
1-2. SISモードの原理
SISモード(サンプリング・インテリジェント・スキャンモード)は、前節で述べた課題を解決した技術です。測定ポイントでのみ探針を接近させて形状情報や物性情報を取得し、データ取得時以外は探針を試料上空に待避させ、試料形状に合わせて走査スピードを自在にコントロールするインテリジェントな測定モードです。
SISモードには、DFMモードを基本としたSIS-DFMとAFMモードを基本としたSIS-AFMの2種類あります。SIS-DFMは形状像と位相像の観察が可能で、SIS-AFMは形状像と電流像の観察が可能です。
図1-1にSIS-DFMの走査方法の概念図を示します。データ取得時のみ探針と試料が接触し、それ以外は上空に待避しながら水平方向に高速移動し、試料表面に接触しそうな場合には走査速度を落として試料面から上昇するような退避動作を自動で行います。SIS-AFMも同じ走査方法で、探針は振動させずに走査しカンチレバーのたわみ量から試料表面との接触を検出しています。また、図1-2.はSIS-DFMモードの実際の走査を動画で表したものです。
図1-3はDFMとSIS-DFMにおけるデータ取得ポイント間の動作を表しています。表面形状に記した赤いポイントがデータ取得ポイントです。図1-3の右側の動画は、この赤色のポイントとポイントの間の動作を詳細に示しています。DFMではデータ取得しない箇所でも探針を表面に触らせ、無駄にたたいています。SISではデータ取得ポイントのみ少ない回数の接触ですみます。このことは探針磨耗や試料ダメージの低減に有効です。
【DFM】
DFMは無駄にたたいている
【SIS-DFM】
SISは少ない回数の接触ですむ
図1-3 データ取得ポイント間の動作比較
【関連リンク】
1-3. SISモードの効果
SISモードは測定点のみで探針が試料に接近するため、図1-4のように探針に水平方向の力が作用しません。そのため、探針走査による引きずりや試料の変形などの影響を受けません。また、レバーの振動振幅を小さくすることができる、探針と試料との接触回数もAFMやDFMと比べ大幅に少ないなどの利点があり、次に挙げる効果が期待できます。
- ハイアスペクト形状の高精度観察
- 吸着が大きい試料や軟らかい試料の安定観察
- 繰り返し測定精度が向上
- 探針の磨耗や試料へのダメージが軽減
- 物性モードでの高精度・安定測定
このようにSISモードではいろいろな利点や効果があり、有効なアプリケーションとして以下のものが挙げられます。
- ソフトマテリアル
- 導電性高分子
- 電池材料
- ナノコンポジット材料
- 有機半導体
- 導電性複合材料
- 有機EL
図1-4 探針に作用する相互作用
【関連リンク】
関連情報
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