IoTのなかでも、日立ハイテクがすでに20年以上、実績を積み重ねているのが「製品のIoT」の分野です。あらゆるモノがネットにつながりうると言われてきたIoTですが、実際にどのような分野のニーズが大きく、導入が始まっているのでしょうか。第2回目は、お客さまへのコンサルティングを担当する下靖彦さんと伊東紗也佳さんに、「製品のIoT」の今を聞きました。
安定稼働が求められる医療機器のリモート保守が進展。
―どのような領域で製品のIoTが進んでいるのでしょうか。
伊東: 安定稼働が求められるミッションクリティカルな製品の保守ニーズが大きく、特に医療機器製品のIoTが進展しています。陽子線がん治療装置や放射線診断装置など、非常に高額な医療機器は病院に1台しかないものもあり、もし、その機器が停止してしまったら、多くの患者さまの検査に影響し、患者さまにもご負担がかかってしまいます。そのようなことがないように、医療機器ベンダーさまは機器をIoTでつなぐことで、稼働状況をリモートで把握し、製品の保守をすることが増えています。
―リモートで具体的にどんなことができるのですか。
下:定時や随時の状態監視や、エラー発生時のメール発信、データログを転送するなどの機能があります。また、リモートアクセス機能を使って、保守サポート側のパソコンから装置側にアクセスすることも可能です。これらの機能を活用することで、医療機器ベンダーさまのサービスセンターで病院の装置を状態監視で見守り、何らかの異常を検知すれば、異常が発生している装置を速やかに特定できます。また、ソフトウェアの異常であれば、リモートアクセス機能を活用してサービスセンターから速やかに対応することも可能となっています。
―導入した医療機器ベンダーさまからはどんな評価をいただいていますか。
下:リモート保守のサポートを付けられることが製品の付加価値にもなり、他社との差別化になっているという声をいただいています。また、新たにメンテナンスサービス事業を広げていきたいというお話を聞くこともあります。たとえば機器の細かい稼働状況を月刊レポートとして定期的にエンドユーザーさまに配布するような付加価値の高いサービスを提供されているとお聞きしています。今後、製品のIoTによるリモート保守がスタンダードになっていくことが見込まれています。
訪問回数の半減、修理時間の短縮など、修理プロセスの効率化にも貢献。
―保守サービスのやり方もより効率的にできそうです。
伊東: はい。製品のIoTでのリモート保守は、医療機器ベンダーさまにとっても、保守のコストや時間を削減できるというメリットがあります。これまではお客さまから電話がかかってきて故障を知り、病院に駆けつけて何がおかしいのかを見て、また部品を取りに戻って調達し、それを持って再び病院に修理に行くという二度の訪問が必要でした。保守の経験が豊富なベテランでなければ、さらに何度も往復することもありました。
リモート監視ができていれば、リアルタイムのデータを見ることができます。アラートがこちらに飛んでくることで、故障をすぐに把握して、ソフトウェアの不具合ならすぐにリモートで対応できます。ハードウェアの不具合なら、データから何が原因なのかを訪問せずに調査することができ、必要な部品を調達した上で、一度の訪問で修理が可能です。医療機器ベンダーさまには、いかに訪問回数を減らして確実な保守をおこなうかをKPIの一つにされているところも多く、慢性的な人手不足という課題もあるため、大きなメリットを感じていただいています。
収集・蓄積したデータから高精度な故障予兆診断も実現。
―データを収集・蓄積するということは、そのデータの活用も見据えているということでしょうか。
下:はい。すでにデータ活用の段階に進んでいるお客さまもおられます。ある医療機器ベンダーさまでは、病院に納めた検査機器の安定稼働に欠かせない重要な部品について、設置済みの600台以上の機器からThingWorx®でデータを収集し、機械学習により故障パターンを分析しました。これによって故障の予兆が高い精度でわかるようになり、事前の修理・交換で突発的な故障を回避する予防保全ができるようになっています。この取り組みにより、ダウンタイムを16.3%低減できました。
―病院にとっても、医療機器ベンダーさまにとっても大きなメリットがあることですね。
伊東:その通りです。稼働月数と消耗品の状況から人が交換時期を判断していたときには、数カ月に1回の交換をしていた部品が、実はもっと長くもつことが判明したり、ムダな交換がなくなったことで、交換作業に必要なダウンタイムやコストの低減もできました。結果として、全体的に保守品質の向上、業務効率の向上、交換頻度の最適化が実現し、利益率が上がるというメリットが生まれています。
通信時のセキュリティも安全なIoTプラットフォーム「ThingWorx」。
―製品のIoTによるリモート保守や予防保全に取り組むにあたって、課題となっていることはどんなことでしょうか。日立ハイテクはどのように応えていますか。
伊東:医療機器のリモート保守の場合、病院側がセキュリティ面を心配されて、医療機器を外部のインターネットとつなぐことが難しいという声はお聞きします。そのため、ThingWorxは通信時のセキュリティ対策に力を入れています。通信は装置側から必ず始まる仕組みや、通信を傍受されても解読不可能な暗号化送信など、安全性、高機密性を実現しています。また、費用対効果の数値化が難しく、導入に踏み切れないというお客さまには、私たちのこれまでの事例を参考にしていただいています。
接続する機器の台数を最初から多くせず、50台ほどから始めて効果を検証しながら、徐々に接続台数を増やしているお客さまもおられます。私たちも段階的な導入に賛成です。ThingWorxは拡張性が高く、データ解析システムなどとの連携もスムーズです。いずれは設備異常の予兆診断までおこなうことを見据えた上で、接続できるところから始めていくことをおすすめします。医療機器に限らず、安定稼働が重要な機器、装置のベンダーさまに、ぜひお気軽にご相談いただきたいと考えています。
下:「製品のIoT」から得られるデータや情報は、サービス部門に限らず設計・開発部門、営業部門、経営層にとっても有効なもので、“ビジネスモデルを変革する”ことにつながり、まさにDX推進にあたると思います。ぜひご検討いただければと思います。
※ ThingWorxは、PTC Inc.の米国およびその他の国における商標または登録商標です。