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Vol.7

建築・住宅における太陽エネルギー利用の
4つのトレンド

再生可能エネルギーの中で大きな割合を占めている太陽エネルギーに注目し、日本太陽エネルギー学会の監修により基礎解説をしていく本連載。第7回目は、「建築・住宅における太陽エネルギー利用」についてです。日本において全消費エネルギーに占める住宅の割合は14.1%あり、これをゼロに近づける技術の開発と普及が進められています。太陽光発電システムの導入にプラスして、太陽熱を取り入れ、断熱・蓄熱、空気の流れの工夫などにより空調や給湯などにかかるエネルギーを減らす技術が開発されているのです。今回は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、PVTシステム、パッシブソーラーとZEB(ゼロエネルギービル)の4つのトレンドについて解説します。

建築・住宅における太陽エネルギー利用の変遷

日本の住宅建築における太陽エネルギー利用は古来より行われてきました。一例として、平安時代から建てられ始めた、建屋の間に坪庭を配置した京町家があります。坪庭で打ち水をすると水が蒸発して地面近くの空気が冷やされ、日なたの温まった空気との温度差で建物内に自然な空気の流れを生み出します。これは立派な太陽エネルギー利用です。それでは、太陽エネルギー利用は近年ではどのように発展しているのでしょうか。

<図1>京町家の空気と熱の流れ(提供:ミサワホーム総合研究所)
<図1>京町家の空気と熱の流れ(提供:ミサワホーム総合研究所)

ガラスが建築に利用されるようになると、冬に陽射しを取り入れて室内を温めることが一般化しました。いわゆる“南向き”の家です。住宅の省エネルギー基準として最初に制定されたのは断熱性能ですが、これは断熱した住宅に(太陽)熱が入って温かくなることが背景にありました。この太陽熱を逃さないようにするために断熱性能が高められていきました。

オイルショックを契機に普及した太陽熱温水器は住宅における太陽熱利用を一層積極化するきっかけとなりました。このころからコンピューターを利用したシミュレーション技術が発達し、給湯や暖房の負荷を効率的に削減することに繋がったのです。1990年代に入ると、太陽電池が商用化され、住宅の屋根に設置することで、太陽のエネルギーを熱として利用するだけでなく、電気エネルギーとして家電や住宅設備に利用することが可能になりました。さらに、系統連系により余剰電力を売電することも可能になり、住宅はエネルギーを消費する場からエネルギーを産み、シェアする場へと変貌を遂げつつあります。このように、建築(特に住宅)における太陽エネルギー利用は年代を経て一層多面的に行われるようになっています。

建築・住宅における太陽エネルギー利用の4つのトレンド

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が住宅の年間の平均エネルギー消費をゼロにする

住宅で消費されるエネルギーには、暖房・冷房・給湯・調理・照明・家電など、さまざまな用途があり、日本の全エネルギー消費に占める住宅のエネルギー消費の割合は直近データで14.1%となっています。(参考文献1)割合として必ずしも大きくないように見られがちですが、いったん建てた住宅は長く使われることになるので、2050年のカーボンニュートラルを実現する上で、今後建築する住宅は実質カーボンニュートラルを標準とすることが重要になってきます。

このような考えのもと、国は2030年までに新築住宅の平均でネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(以下ZEH(ゼッチ))の実現を目指しています。ZEHとは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」と定義されています。(参考文献2)

<図2>ZEHのイメージ(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)
<図2>ZEHのイメージ(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)
<図3>新築注文戸建ZEHの供給戸数推移(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)
<図3>新築注文戸建ZEHの供給戸数推移(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)
<図4>新築注文戸建のZEH化率の推移(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)
<図4>新築注文戸建のZEH化率の推移(参考文献2)(出典:資源エネルギー庁)

<図3>、<図4>は新築注文戸建住宅におけるZEHの供給戸数およびZEHの比率の推移です。国のZEH支援事業を追い風としてZEHの供給戸数は着実に増えており、年に5万戸を超えるまでになっています。物の多いさまを“ごまんとある”と表現することがありますが、その5万を毎年超えるまでに市場が成長していることは象徴的です。

一方、全体としては新築住宅の20%にとどまっており、その供給を牽引しているのもハウスメーカーが主で、一般の工務店との取り組み方には温度差があることも明らかです。今後裾野を広げ、新築住宅の平均でZEHの実現を目指すためには、一般工務店も含めてZEHを一般化してゆく施策が重要になるでしょう。また、狭小地、多雪地、陽射しを得にくい密集地などでもZEHを実現する技術を開発し、住宅にとって当たり前の仕様としていくことが求められています。

PVTシステムで太陽熱を集熱した空気を利用する

国のZEH支援事業では、ZEH1戸に対する補助金を60万円としていますが、追加的な取り組みに対して補助額をアップする仕組みが用意されており、その一つとして「先進的再エネ熱等導入支援事業」があります。同事業では、太陽光発電システムで発電しながら太陽熱を集熱するPVTシステムに対して一律90万円の補助金が用意されています。

<図5>はPVTシステムの一例です。太陽光発電モジュールを屋根に設置する際に配線等の目的でモジュール自体を屋根の野地板から浮かした納まりとすることが多いのですが、モジュールと野地板の間に空気を通すことで空気の温度を上昇させ、暖房や給湯に利用するという仕組みです。地域や日照条件、時間帯にもよりますが、東京の真冬においても日中の集熱温度は50℃~60℃に達することから、給湯暖房に有効な熱源となります。

発電のためのモジュールを使って太陽熱を集熱し、集熱効率が10%を上回るものに対して前述の支援事業補助金が適用されます。太陽光発電モジュールは温度が上がると発電効率が落ちる性質があり、モジュール裏面に空気を流して熱を回収する本システムは、モジュール自体の温度を下げ、発電量は上がります。まさに複合的なメリットを期待できるシステムです。

<図5>PVTシステムの一例。カスケードソーラーシステム(提供:ミサワホーム総合研究所)
<図5>PVTシステムの一例。カスケードソーラーシステム
(提供:ミサワホーム総合研究所)

パッシブソーラーで昼間の太陽熱を有効に活用する

太陽光発電システムや太陽熱温水器のように太陽エネルギーを機械的に取り込む仕組みを「アクティブソーラー」と呼ぶのに対し、住宅の躯体で太陽熱を有効に活用する手段を「パッシブソーラー」と言います。

その一つとして、冬の日射を窓から室内に取り入れて室温を高め、室内の温かさを長く維持できるように高断熱高気密の考え方が発展してきました。断熱気密の思想は健康的な暮らしを実現する技術として昭和55年に省エネルギー基準として導入され、以後数回の基準改定を経ながら現代に至っています。

躯体性能が疎かであった時代の日本の建物の温度は明け方に外気温と変わらないレベルにまで下がることも珍しくありませんでした。これは、日本の住宅が一般的に木造で熱容量が小さく、日射熱取得に対して温度変化が大きい反面、熱を蓄える性質が小さいためです。日没後には断熱の効果のみで室温を維持することはできないという側面を持っていました。

一方、断熱気密性能を大幅に高めた住宅では日射の取得熱で室温が過上昇(オーバーシュート)する現象も見られるようになり、適切な窓開口面積や方位、窓上の庇との組み合わせなどにより、折り合いを付けることが行われるようになりました。

そこで、住宅の室内表面に「蓄熱性」のある材料を敷設することで窓から取り入れた日射熱を蓄え、室温のオーバーシュートを抑えつつ、逆に日没後には蓄熱材からの放熱によって室内に熱供給することで、室温変動をゆるやかにすることが注目されています。

北米を中心とした石造りやコンクリート造り(顕熱蓄熱)の家は熱容量がもともと大きく、日中に窓から取り入れた日射熱や暖炉の熱をゆっくり吸収することで、必ずしも断熱性能の高くない古来の建物でも室温変動が小さいという特徴がありました。ただ、石材やコンクリートは相応の厚みがないと蓄熱効果を発揮しないことと、ある程度の温度変動はやむを得ないというのも事実でした。また、冬、日中に天気が悪く蓄熱できなかったために冷えきってしまった部屋を温めるのに大きなエネルギーがかかる、夏、日中に高温になってしまった部屋を冷やすのに大きなエネルギーがかかる、といった課題もありました。

そうした顕熱蓄熱材に対して、「潜熱蓄熱材」は、最新のパッシブソーラーシステムとして使われています。物質の融解凝固過程で大量の熱移送が起こるため、同じ熱容量に対して厚みを薄くできること、融点付近で温度が安定することなど、メリットが大きく、近年の科学技術の発展と共にその潜熱蓄熱材を建材化することが始まっています。これらは潜熱蓄熱建材と呼ばれ、高断熱高気密住宅の仕上げ材として相性が良いと言えます。20℃~30℃程度の融点を持つ材料をパック化したり、木質材料や石膏と混ぜ合わせ、意匠、施工性、蓄熱性をもたせた「建材」としての利用が始まっています。

<図6>蓄熱建材の使われ方(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)
<図6>蓄熱建材の使われ方(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)
<図7>蓄熱材が室温に及ぼす効果のイメージ(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)
<図7>蓄熱材が室温に及ぼす効果のイメージ(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)
<図8>各種潜熱蓄熱建材(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)
<図8>各種潜熱蓄熱建材(参考文献3)(提供:一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会)

ZEB(ゼロエネルギービル)で地域資源も活用する

住宅分野で先行した建築のゼロエネルギー化は、一般建築へと波及し始めています。ゼロエネルギービル(ZEB)もその一つです。エネルギー収支の基本的な考え方は、“省エネ・創エネ技術によって、年間の一次エネルギー消費量をゼロもしくはマイナスにできる建築物”となっており、ZEHと同じですが、用途や規模が異なるため、実現に向けた要素技術には住宅とは異なる特徴があります。

木質チップ(バイオマス)や地下水など、「そこにある」地域資源を生かすこと、BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)の導入や性能検証(コミッショニング)を活用した省エネ運用サポートなどによって、太陽光発電に偏らない工夫が個別に行われています。ZEBは市庁舎や学校建築、事務所ビルにおいて先行的な事例が多くあります。一方で、規模が大きい建築であるがゆえにnetZEB(エネルギー収支ゼロ)を達成している事例はまだ少なく、今後の発展の余地は大きいと考えられます。

<図9>ZEBの考え方と建築ごとの工夫(提供:日本設計)(参考文献4)
<図9>ZEBの考え方と建築ごとの工夫(提供:日本設計)(参考文献4)
<図10>ZEB建築事例(提供:日本設計)(参考文献4)
<図10>ZEB建築事例(提供:日本設計)(参考文献4)

建築業界のカーボンニュートラルへの向き合い方

暮らしにおける太陽エネルギー利用には、明かりとしての利用、洗濯物干し、食品の乾燥保存など身近なものがまだまだあります。人間のバイオリズムを司るセロトニンは太陽光を浴びることで体内分泌されます。我々が無意識に活用している太陽エネルギーは無尽蔵で環境負荷がなく、多くのメリットをもたらしています。建築業界は他の業界に先んじてカーボンニュートラルに向けた方向性をZEH、ZEBという切り口で示してきました。建築は暮らしに直結し、人々の行動様式にも大きな影響をもたらすことからも、その一層の普及が期待されるところです。

文/太田勇(日本太陽エネルギー学会、株式会社ミサワホーム総合研究所 取締役 博士(工学))

監修協力/日本太陽エネルギー学会

太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。

参考情報