バイオソリューション
(医療向け)
この装置は医療向けです
LM1010 High Performance Liquid Chromatography
松下 美由紀、橋本 誠、森川 悟
LM1010システムは、医療現場からの要望1)により開発された、病院、検査センター、研究機関において生体試料を分析するための高速液体クロマトグラフィーシステム(HPLC-UVシステム)である。2020年2月に一般医療機器としてPMDAに届出された(製造販売届出番号22B3X10009000003)2)(図1)。
通常、HPLC 分析においては、検体の適切な前処理方法・測定条件・操作手順の確立のために専門知識や経験が必要となる。また正しい測定結果を得るためには、日常的な性能確認やメンテナンスを行う必要があるが、現場の担当者がこれら全てに対応することは、業務において大きな負担となる。
図1 LM1010高速液体クロマトグラフ
LM1010システムでは、検体の適切な前処理方法・測定条件・操作手順の確立から日常の精度管理、さらには定期的なメンテナンスを含む、HPLC 分析における煩雑な作業の負担を軽減し、かつ測定者の経験や知識に左右されることなく、安定した結果が得られるようサポートしている。特長を以下に示した。
(1)作業の効率化
システムの準備から測定、結果入手までの各操作ステップをできるだけ単純化することで、操作のルーチン化を追求した。また、測定に必要となる消耗品や一般試薬をセット化して(図2)、共通した測定フローを提供することで(図3)、作業の効率化を図った。
(2)日常の精度管理
システム起動後、自動コンディショニングからQC(Quality Control)サンプル測定までをワンクリック化することで、測定時のシステム最適化と精度管理を可能とした。
(3)測定項目の追加
LC 法であるため、現場からの要望により測定項目の追加検討も可能とした。
図2 調製済み一般試薬セット
図3 測定フロー(例)
LM1010に移動相と洗浄液をセットしてシステムを起動後、操作画面のコンディショニングボタンをクリックしLM1010用のQCサンプルを測定する。QCサンプル測定がパスすればシステムは正常であり、検体測定をスタートすることが可能となる。QCサンプル測定がパスしない場合はシステムが正常でない可能性があるため、検体測定にはすすむことはできない。ここまでが測定準備である。 測定準備が正常に完了したら、測定項目を選択して標準溶液を測定することで検量線が自動で作成される。その後測定項目ごとに提供している操作手順に従って検体の前処理を行い、LM1010にセットして測定すれば、必要な測定値が得られる(図3)。
感染症の治療薬に使用される抗菌薬で表1に示す項目については、必要なタイミングに1検体あたり30分程度の所要時間で薬物血中濃度の測定が可能である。抗菌薬の使用においては、治療のための目標血中濃度域が狭い薬物を対象としてTherapeutic drug monitoring(TDM)が推奨されている。
- 以下は参考文献(3)より引用 -
「Therapeutic drug monitoring(TDM)とは、初期投与設計から関わり、投与開始後に薬物の血中濃度を測定し、投与設計を見直すことにより、安全で有効な治療を行うことである。目標血中濃度域が狭い薬物が対象となり、抗菌薬ではグリコペプチド系薬、アミノグリコシド系薬、抗真菌薬ではボリコナゾールが対象となる。」
表1 LM1010システムで測定できる抗菌薬(2021年9月現在)
一例として、バンコマイシンとボリコナゾールの測定結果を以下に示した。
バンコマイシン標準溶液で検量線を作成後(図4)、市販の標準血清にバンコマイシンを添加し、1 μg/mL、50 μg/mL、100 μg/mL バンコマイシン添加血清とした疑似検体を測定した(図5)。
この結果は、図2に示した一般試薬セットを使用して、提供している操作手順書(テクニカルレポート:AS/LM-012 操作手順編4))に従って測定した結果である。1 ~ 100 μg/mL バンコマイシン添加血清の測定真度は、94.4 ~ 95.5%、精度
は 1.25 ~ 6.58%であった(表 2)。
また、図6には、LM1010による疑似検体定量値 (μg/mL、縦軸)とバンコマイシン添加血清(μg/mL、横軸)の相関に
ついて示した。寄与率(R2)は0.999と良好な結果が得られた。
図4 100 μg/mLバンコマイシン標準溶液のクロマトグラム
図5 100 μg/mLバンコマイシン添加血清のクロマトグラム
(疑似検体の前処理から測定までは、操作手順書に従った)
表2 LM1010 によるバンコマイシン添加⾎清の定量結果(平均値)
図6 LM1010による定量値(μg/mL)とバンコマイシン添加血清(μg/mL)の相関
ボリコナゾールは抗真菌薬の中で唯一TDM 対象薬となっている。
ボリコナゾール標準溶液で検量線を作成後(図7)、市販の標準血清にボリコナゾールを添加し、1 μg/mL、2 μg/mL、5 μg/mLボリコナゾール添加血清とした疑似検体を測定した(図8)。
この結果は、図2に示した一般試薬セットを使用して、提供している操作手順書(テクニカルレポート:AS/LM-004 操作手順5))に従って測定した結果である。1 ~ 5 μg/mL ボリコナゾール添加血清の測定真度は、99.6 ~ 104.2%、精度は 0.63 ~ 1. 02%であった(表 3)。
また、図9には、LM1010による疑似検体定量値(μg/mL、縦軸)とボリコナゾール添加血清 (μg/mL、横軸)の相関について示した。寄与率(R2)は0.998と良好な結果が得られた。
図7 5 μg/mLボリコナゾール標準溶液のクロマトグラム
図8 5 μg/mLボリコナゾール添加血清のクロマトグラム
(疑似検体の前処理から測定までは、操作手順書に従って行った)
表3 LM1010 によるボリコナゾール添加⾎清の定量結果(平均値)
図9 LM1010による定量値(μg/mL)とボリコナゾール添加血清(μg/mL)の相関
ボリコナゾールのように薬物血中濃度の管理が求められる薬物では、必要なタイミングに合わせて迅速な測定を実現することにより、薬物治療の最適化に貢献できる可能性が期待される。
- 以下は参考文献(3)より引用 -
「ボリコナゾールはほとんどの施設で外注検査となっており、血中濃度の結果を得るまでに、投与開始から考えると1週間以上かかる。前もって遺伝子多型解析を実施し、その結果に基づいて投与設計ができていれば、安全にボリコナゾールを使用できる。また、LM1010高速液体クロマトグラフの最大の利点の一つとしてボリコナゾールの測定ができることが挙げられる。所有しておけば、その日のうちに測定結果が得られるため、検査結果で患者状態の悪化や肝障害の発現が見られたら、5-7日まで待たず、すぐに血中濃度を確認し、ボリコナゾールの増量または減量、他剤への変更をその日のうちに決められ、ボリコナゾールの治療最適化に貢献できる。」
LM1010システムでは、採血後の血清(あるいは血漿)検体において、1検体あたり30分程度の所要時間で薬物濃度の測定結果が得られる。緊急時や迅速対応が必要とされるタイミングに測定することで、薬物治療の最適化に貢献できる可能性が期待される。今後、これまで以上に現場のニーズに注力しながら、測定項目の追加やシステムの改善について継続して検討を進めていきたい。
表4 LM1010システムで測定できるその他の項⽬(2021年9⽉現在)
(参考)
参考文献
著者紹介
松下 美由紀、橋本 誠、森川 悟
(株)日立ハイテクサイエンス サービス販促部 サービス販促二課
バイオソリューション
AS活動を推進するために遺伝子解析と薬物血中濃度を活用しよう!
慶應義塾大学 薬学部 松元 一明 博士(薬学)
抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS) を推進することは耐性菌の出現を防ぐ、あるいは遅らせることができ、医療コストの削減にも繋がるとされています。
その有用性について、慶應義塾大学 薬学部 松元先生に寄稿いただきました。
(SI NEWS Vol.65 No.1 研究報文)
バイオソリューション(医療向け)
この装置は医療向けです
敗血症検査のゲームチェンジャーVerigene®システム
AS を実践するためには、迅速な薬剤耐性遺伝子検査と薬物血中濃度測定が必要不可欠です。これらを実践するための機器を使いこなすことにより、患者の予後改善や細菌の薬剤耐性化抑制、院内感染の予防、医療コストの削減に繋がります。迅速な薬剤耐性遺伝子検査の有用性について、データをもとに解説します。
(SI NEWS Vol.65 No.1 技術解説)
バイオソリューション(医療向け)
この装置は医療向けです
LM1010高速液体クロマトグラフ
AS を実践するための、迅速な薬物血中濃度測定について、バンコマイシン(グリコペプチド系)と、ボリコナゾール(抗真菌薬)の測定例をもとに解説します。
(SI NEWS Vol.65 No.1 技術解説)
*この装置は医療機器です。
製品情報
遺伝子関連検査システム
*この装置は医療機器ではありません。
製品情報
全自動核酸抽出装置
登録記事数 203件
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