CRTA(速度制御型熱分析) 解説
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CRTA(速度制御型熱分析) Controlled-rate thermal analysis
A family of techniques which monitors the temperature-versus-time profile needed to maintain a chosen, fixed rate of change of a property of the sample in a specified atmosphere.
For example, in controlled-rate experiments, power to the furnace is controlled to ensure a fixed rate of mass loss (or gain)
速度制御型熱分析はControlled-rate thermal analysisの頭文字をとってCRTAと略される。 上記はICTACによる “For Better Thermal Analysis and Calorimetry 3rd Edition” (1991年発行) に記述されている、CRTAの定義を示す。元々の熱分析の定義から考えると、CRTAは熱分析の範疇から離れるが、熱分析装置を用いて行なわれることも多く、特別に定義されている。熱分析では温度をプログラムし物理量を計測するのに対して、CRTAでは物理量をプログラムして温度を計測する技法とされる。以下にこの関係を示す。
1. TAとCRTAの比較
制御対象 | 操作量 | 計測量 | |
---|---|---|---|
TA | Δ (Tp, Tr) | ヒーター制御 | P(物理量) |
CRTA | Δ (Pp, Pr) | ヒーター制御 | T(温度) |
Tp:プログラム温度
Pp:プログラム物理量
Tr:制御対象温度
Pr:制御対象物理量
CRTA(速度制御型熱分析)と通常のTA(熱分析)の制御対象、操作量、計測量の比較を示す。TAではプログラム温度と制御対象温度との差に対して、ヒーターへの通電を制御し、その結果として試料の物理量を計測する。一方CRTAではプログラムされた物理量と制御対象物理量との差に対してヒーターへの通電を制御し、その結果として試料の温度を計測する。つまり、TAとCRTAは互いに制御対象と計測量が反転した測定法である。
2. 実際のCRTAの制御
上図は、現実に行われているCRTAの制御ループを示す。 現実には物理量のフィードバックから計測温度を用いず、直接ヒーターを制御するのは難しいため、上記の様な2重の制御ループが用いられる。 ヒーター電力の制御自体はTAの制御ループをそのまま用いながら、計測された物理量を制御するため、プログラム物理量と計測物理量の差(ΔP)からある関数 f(ΔP)を通して、TAの制御ループの温度プログラムそのものを変更し制御を行う。具体的には温度プログラムの昇温速度を変更する。この関数の選択により、いくつかのCRTAとしての手法が行われている。 通常のTAと異なり、2重の制御ループが使われるため、関数やパラメータの選択により、データの解釈が複雑になり、場合によっては制御ループによる疑似データを作り出すこともある。基本的には一定昇温のTAデータとの比較吟味を行うことで、疑似データの作成を避けられる。
3. 速度制御熱分析の種類
擬等温分析(Quasi-isothermal analysis)
またはStepwise-isohtermal analysis:SIA
物理量の変化速度がある上限値を上回った時昇温を止め一定温度制御にはいり、 物理量の変化速度がある下限値を下回った時昇温を再開する、制御法。
1972年Paulik兄弟により、擬等温、擬等圧下での熱重量測定方法(1)が考案され、その後、擬等温条件下のみでおこなわれる、熱重量測定を擬等温熱重量測定、または擬等温分析(Quasi-isothermal analysis:QIA)と呼ばれるようになった。
反応速度制御分析
物理量の変化速度がある一定値になるよう、 昇温速度を変化させる制御法。 反応速度制御分析は1989年Rouquerol(2)によって提唱され、その後CRTAとして、ICTACの分類の一つに採用された。 実際の制御としては、QIA法において、上限値と下限値を同一に設定し、昇温速度の変化方法に適切な関数系を設定する等(3)(4)の方法を取っている。 CRTA としてはTG、TMAへの適応が行われている
QIAによる測定例
上図は擬等温分析(QIA)の測定例で、硫酸カルシウム2水塩(2水石膏)をQIA(TG)法で測定した例である。 硫酸カルシウム2水塩は以下の機構で水が離脱する。
-3/2H2O
-1/2H2O
CaSO4・2H2O => CaSO4・1/2H2O => CaSO4
データでは120°C付近と180°C付近で等温制御に入っており、それぞれの温度域でH2Oの離脱が行われている。
擬等温熱重量測定の原理
擬等温分析の測定原理を示す。TG曲線の微分信号(DTG信号)に対する、上限値、下限値を設定しておく。昇温を行い、重量減少が開始し、DTG信号が上限値を越えた時、温度制御を等温制御に切り替え、重量減少速度を落とす。 重量減少が等温状態でほぼ終了するとDTG信号が下がり、設定された下限値を下回った時、再び昇温を再開する。
QIATGと一定昇温TGの比較
上図はQIATGと一定昇温TGのデータ比較を示す。前ページのデータを横軸を温度軸表示にして、一定昇温TGと比較した。一定昇温TGデータでも2段階の重量減少が見られるが、QIATGデータでは、H2Oの離脱時温度上昇を止めるため、温度軸表示を行なうと、部分的なスケール圧縮が起こり、見かけの分解能が向上している。 このように分解挙動が既知の試料について、有効な手法である。
反応速度制御TGの測定例
上図は反応速度制御TGの測定例を示す。一点鎖線は通常の一定昇温のTGデータ、実線は速度制御TGのデータを示す。一定昇温TGのデータでは、300°C付近より急激な重量減少が見られ、400°C付近でほぼ重量減少が終了している。一方、速度制御TGデータでは重量減少速度(反応速度に比例)がほぼ一定になる様に制御されており、同時にそのときの温度プロファイルが記録されている。このデータより、例えばプラスチックの燃焼によるガス発生量を制御するための、焼却炉の温度プロファイルのシミュレーション等に用いることができる。
反応速度制御TMAの測定例
上図は反応速度制御TMAの測定例を示す。高純度アルミナの原料であるアルミニウム化合物(NH4AIO(OH)HCO3)の成形体を一定昇温TMAと反応速度制御TMAで測定した例を示す。セラミックは焼結過程において、含まれているバインダーの分解やセラミック中間体からのガス発生を伴いながら収縮を起こすが、ガスの発生速度が早すぎると亀裂が起きたり、緻密さの面で問題が起きる。焼結の温度条件は収縮温度や収縮量を考慮しながら検討される。
一定昇温TMAデータでは200°C~300°Cと900°C以上の温度域で急速な収縮が見られる。一方反応速度制御TMAでは収縮速度がほぼ一定に制御されており、そのときの温度プロファイルが記録されている。この温度プロファイルをもとにセラミック焼結過程の温度条件シミュレーションに用いることができる。
参考資料
(1)F.Paulik,J.Paulik, Thermochim.Acta, 4, 189 (1972)
(2)J.Rouquerol, Thermochim.Acta, 144, 209(1989)
(3)特開平5-297961
(4)有井ら、熱測定,21, 151(1994)