ハイウェイTA 解説
ハイウェイTAとは、ある昇温速度で測定したデータを、別の昇温速度での測定データに変換するシミュレーション機能を付加した熱分析であり、TGおよびDSCに適用可能である。ハイウェイTAの内容は (1)通常測定 (2)各反応の分離 (3)活性化エネルギーの算出 (4)アーレニウス則にしたがった温度変換 からなる。これにより測定時間の短縮化やTG信号の分解能の向上がはかれる。
1. ハイウェイTAの原理
上図はハイウェイTAの原理を示したアーレニウスプロットである。 横軸は温度の逆数、縦軸は昇温速度の対数となっている。ある昇温速度での反応(A)の温度は上図の様にプロットされる。この時、昇温速度が変わった場合の温度は、ある傾きを持った直線上を移動する。この直線の傾きが活性化エネルギーに依存している。したがって、反応の活性化エネルギーが算出されていれば、他の昇温速度での温度に変化されることとなる。 また、一般的に温度が低い場合の方が活性化エネルギーが小さい傾向がある(B)。したがって、昇温速度が小さいほど(図の下にあるほど)二つの反応は離れる傾向にある。通常昇温速度が小さいと、分離がよくなるのはこの理由による。
2. ハイウェイTAでのピーク分離処理例
上図はDTG(TG信号の微分信号)を表している。実測データには3つのピークが現れており、それぞれのピークを分離していることを示している。ここで分離された各ピークに付いて、それぞれ活性化エネルギーを算出し、昇温速度変換を行なう。
3. ハイウェイTAを用いた測定例
超高速・超低速シミュレーション
図は、低密度ポリエチレンを100℃/minで測定し、0.0005°C/min~1000°C/minに変換した例である。 このようにハイウェイTAを用いると、実際の測定が不可能な領域のデータを推定することが可能となる。
ハイウェイシミュレーションによる2水石膏・半水石膏の定量
図は、硫酸カルシウム2水塩(2水石膏)を10°/minで測定した結果を、ハイウェイTAにより1、0,1°/minのデータに変換した例である。 2水石膏は3/2の水がまず蒸発し、その後1/2の水が蒸発する。しかし、これらの水の蒸発は連続的に生じるため、10°/minのデータでは分離がよくない結果となっている。 これをシミュレーションすると分離のよいデータが得られている。
混紡糸の混紡比率の測定
上図は綿・ポリエステル混紡糸2試料を10°/minで測定した結果である。湿式法により混紡割合を求めた結果を示しており、その割合の差は2%である。 また、参考に綿、ポリエステル100%の試料の測定結果も示している。この結果から、混紡糸に見られた最初の重量減少は、綿に由来するものであり、後半の重量減少はポリエステルに起因するものであることが分かる。 しかし、混紡糸の結果から、各成分の重量減少量を決めることは困難である。
ハイウェイシミュレーションによる混紡比率の定量
上図は、混紡糸の測定結果を、0.1°/minnのデータに変換した結果である。2つの分解反応の分離がよくなり、2つの成分比を求めることが可能となっている。 このようにハイウェイTAを用いると、TG信号の分離が悪かったものを、分離よい結果にシミュレートすることが可能であり、今回の測定結果から、2%の混紡割合の差を求めることが可能であった。
エポキシの硬化反応
ハイウェイTAはDSCにも適用することが可能である。 図はエポキシ樹脂の硬化反応を50°/minで測定した結果と(上線)、これを10°/minに変換した結果(中線)である。また、10°/minの実測データ(下線)も同時に示している。 シミュレーションした結果と実測データは良く一致しており、変換の妥当性が理解できる。 また、ハイウェイTAはアーレニウス則に則った反応に適応可能であり、DSCでよく測定される融解反応は変換対象外であることは注意を要する。