熱分析の定義と解説
熱分析の定義
- A group of techniques in which a property of the sample is monitored against time or temperature while the temperature of the sample, in a specified atmosphere, is programmed.
- 物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら,その物質のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の技法の総称(ここで,物質とはその反応生成物も含む)。
熱分析の定義
・A group of techniques in which a property of the sample is monitored against time or temperature while the temperature of the sample, in a specified atmosphere, is programmed.
・物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら,その物質のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の技法の総称(ここで,物質とはその反応生成物も含む)。
熱分析とは何かに関して、ICTAC(国際熱分析連合)及びJIS(日本工業規格)で上記のように定義されている。
上段は、ICTAC 1991年発行の“For Better Thermal Analysis and Calorimetry” “3rd Edition”による熱分析の定義を示す。 下段は、JIS K 0129:2005 “熱分析通則”による熱分析の定義を示す。
ICTAC、JIS共に、測定対象(試料)の温度をプログラム制御させた時の、試料の物理的性質を測定する手法を全て熱分析の範疇と定義している。
図1は一般的な熱分析装置の構成図を示す。
熱分析装置は基本的に以下のものから構成される。
検出部:ヒーター、試料設置部、検出器(センサー)を備えた部分で、試料をヒーターにより加熱冷却すると共に、試料の温度と物理的性質を検出する。
温度制御部:ヒーターの温度制御を行う部分で、設定されたプログラムに従ってヒーターの温度を制御する。
データ記録部:検出器と温度センサーからの信号を入力して記録する部分で、データ記録から解析までの処理を行う。
現在の装置は温度制御及びデータの記録、解析まで全てコンピュータで行えるようになっている。 検出部のセンサーとヒーターの組み合わせにより、様々な種類の測定が行うことができ、さらに1台のコンピュータに複数種の検出部を接続できるように構成されている。
熱分析は試料のどの様な物理的性質を検出するかによって、複数の手法があり、それぞれ技法として定義されている。 その中で表1に示した5種類の物理的性質を検出する技法は、一般的に用いられる熱分析の代表的な技法である。 温度(温度差)を検出する示差熱分析、熱流差を検出する示差走査熱量測定、質量(重量変化)を検出する熱重量測定、力学的特性を検出する熱機械分析および動的粘弾性測定の5技法である。 各技法は英語名の略号としてそれぞれDTA、DSC、TG、TMA、DMAと記される。
名称 | 測定対象 | 測定単位 | |
---|---|---|---|
DTA | 示差熱分析 differential thermal analysis |
温度差 | °C, µV* |
DSC | 示差走査熱量測定 differential scanning calorimetry |
熱流 | W (=J/sec) |
TG(TGA) | 熱重量測定 thermogravimetry |
重量 | mg |
TMA | 熱機械分析 thermomechanical analysis |
長さ | µm |
DMA | 動的熱機械測定 dynamic mechanical analysis |
弾性率 | Pa, dyn/cm2 |
*熱電対の起電力をそのまま出力した場合
表1 熱分析の分類のまとめ
表2は、各熱分析手法に対して、各種材料に見られる現象、物性のどれが測定対象となるかの対応を示したものである。
分析手法 | ||||
---|---|---|---|---|
現象/物性 | DSC | TG | TMA | DMA |
融解 | ⚪ | — | Δ | Δ |
ガラス転移 | ⚪ | — | ⚪ | ⚪ |
結晶化 | ⚪ | — | Δ | ⚪ |
反応(硬化・重合) | ⚪ | Δ | ⚪ | ⚪ |
昇華・蒸発・脱水 | Δ | ⚪ | Δ | Δ |
熱分解 | Δ | ⚪ | — | — |
熱膨張・熱収縮 | — | — | ⚪ | — |
熱履歴の検討 | ⚪ | — | ⚪ | ⚪ |
比熱容量 | ⚪ | — | — | — |
⚪:測定対象、Δ:一部測定対象、—:測定対象外
表2 各分析手法と測定対象の対応
DSCでは融解、ガラス転移、結晶化といった転移をはじめ、反応や熱履歴の検討、比熱容量の測定が可能である。昇華、蒸発、熱分解に関しては測定は可能であるが、分解等に伴い試料量が変化する事による定量性の欠如、並びに分解発生ガスによるDSCセンサー腐食可能性等の理由により、あまり行なわれない。
TGでは昇華、蒸発、熱分解、脱水等、重量変化のみられる現象が対象となる。また反応に伴い重量変化が起こるものは測定対象となる。DTAとの同時測定装置では、さらに比熱容量を除くDSCでの測定対象が付加される。
TMAでは形状変化の伴う現象として、熱膨張、熱収縮、ガラス転移、硬化反応、熱履歴の検討等が主な測定対象となる。融解、結晶化も形状変化を伴い検出可能であるが、融解によるプローブへの溶着が起こり適切でない場合もある。
DMAでは主として分子内の運動や構造変化に伴う現象を捉え、ガラス転移、結晶化、反応、熱履歴の検討等が測定対象となる。融解の初期状態はDMAで測定可能であるが、融解が進み形状が保てなくなると測定できなくなる。