走査型トンネル顕微鏡(STM)
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、金属 探針と試料の間に流れるトンネル電流を検出するタイプの顕微鏡です。 先端の尖った白金やタングステンなどの金属探針を、互いの電子雲が重なる程度の至近距離まで試料に近づけ、微小なバイアス電圧を印加すると、トンネル効果により電子が飛び移り、トンネル電流が流れます。トンネル電流は探針・試料間距離に対して指数関数的に変化するため、原子1個の半分の距離の差でもトンネル電流は大きく違ってきます。
STMでは、このように探針・試料間距離に敏感なトンネル電流を利用して、表面形状を原子分解能で観察します。
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、金属探針を試料表面上で水平(X、Y)に移動させ、常にトンネル電流が一定になるように探針・試料間距離(Z)をフィードバック制御しています。そのときの垂直方向移動量をマッピングすることで、試料表面の形状を得ることができます。 水平・垂直方向の移動は、通常、原子1個のサイズよりも小さい精度で距離制御が可能なスキャナ(圧電素子)で行われ、しかも単原子同士の相互作用を検出できるため、STMは3次元的に原子分解能を持つ顕微鏡となっています。
走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針
STMでは、先端の尖った白金や白金イリジウム製の機械研磨探針や、タングステン製の電界研磨探針が用いられます。
グラファイトのSTM観察例
高配向性熱分解グラファイト(HOPG:High Orientated Pyrolytic Graphite)は層状物質で六方格子結晶構造を持っています。表面第1層の炭素原子位置の真下に第2層の炭素原子があるαサイトと、第2層に炭素原子がないβサイトがあります[図(a)、(b)] 。この試料をSTM観察した結果が図(c)、(d)です。2.46Å間隔で明るい部分と暗い部分が周期的に観察されています。直下に炭素原子がないβサイトは電子雲が局在化しており、トンネル電流が流れやすいためSTM像では明るく見え、炭素原子があるαサイトは、反対に暗く見えています。
(a)(b):HOPGの構造模型図
(c)(d):HOPGのSTM像(0.7nm×0.7nm)とカラー表示を変えた3次元像
関連情報
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