プロジェクト概要
1940年代のトランジスタの発明以降、半導体は日進月歩で進化しつづけてきた。1980年代からは、半導体用途の拡大と多機能化に拍車がかかり、IC(集積回路)時代が幕を開ける。そして2000年代以降、半導体は社会の隅々にまで浸透し、現在も我々の生活を支えつづけている。こうした歴史を持つ半導体分野において、まさに画期的とも呼べる技術革新が起ころうとしていた。
[プロジェクト推進者]
ナノテクノロジーソリューション事業統括本部
笠戸地区設計・生産本部 プロセス研究開発部
高妻
Kozuma
2005年入社
[プロジェクトチームの主要メンバー構成]
- 営 業
- 開 発
- 装置設計
- プロセス設計
- 品質保証
- 製造
- 海外デモラボ
半導体の
世界初への挑戦。
真空容器内でガスをプラズマ化し、化学反応と加速したイオンを用いて薄膜を加工するドライエッチング技術。半導体の製造工程において主流となっている技術である。中でも電子サイクロトロン共鳴(ECR)によって発生する「ECRプラズマ」を利用したエッチング装置は、日立ハイテクの主力製品の1つであり、長年にわたり高いシェアを獲得してきた。
今、高妻が取り組んでいるのは、ECRエッチング装置を一気に時代遅れにさせてしまうような、計り知れない可能性を持つ装置の開発であった。それは三次元でのドライエッチングを可能にする次世代の装置。
ICの高集積化を各デバイスメーカーが競い合った結果、ICチップの小型化・微細化技術は限界を迎えようとしている。そこで新たな技術として注目されたのが、三次元集積化による性能の向上。従来は平面方向(二次元)の寸法微細化により性能の向上が図られてきたが、平面方向のみならず立体方向(三次元)へも高集積化を進めさらなる性能の向上を図るという発想である。
2014年に三次元デバイス加工に対応するための基礎技術を確立していた高妻たちのチームは、2015年にはプロトタイプの装置開発に成功、早期に北米の半導体メーカーでの評価にたどり着いた。
顧客の期待のさらに先、
未来を見据えた
過去に前例のない三次元エッチング装置を開発した高妻たち。だが、世界中の装置メーカーも同様に研究・開発を進めている状況にある。短期間での製品化を実現するため、高妻をリーダーとして、社内の精鋭30名によるプロジェクトチームが発足された。
製品化に向けて最初に取り組んだのは、安全性への対策をはじめとした実際の装置の使用環境や用途に配慮した対応。高電圧でプラズマを発生させる上、三次元のエッチングを可能にするため新たに加熱システムを搭載した新装置。各機構が正常に作動しているかを常に監視するシステムや不具合があった際に装置を安全に停止させる機能などが必要となる。半導体デバイスメーカーからは、単に微細加工ができる機能だけでなく、現場レベルでの安全性や使いやすさが高いレベルで要求される。
さらに高妻は、単に顧客の要望に応えるだけでなく、一歩先を見据えた装置開発を構想していた。従来のリレー回路制御からPLC制御に置き換えるなど、顧客の技術変革にもタイムリーに対応していく装置として完成させたかったのである。リーダーとしてチームを統率し、クリアすべき多くの課題と向き合う高妻、気が付けば、海外のデモラボメンバーや機器メーカーの担当者など、社外を含めて100名以上がかかわる大規模プロジェクトのリーダーとなっていた。
人の役に立つものを
それだけを考えている。
「今となっては誰も信じてくれないのですが、もともとは1人で黙々と研究するのが好きなタイプでした。大学院を卒業する時も学術的な研究を続けるか、一般企業に入るかで悩んだほどです」。そんな高妻が一般企業の技術者へと進路を決めた理由がある。「大切なのは、自分がつくったモノで社会を良くしていくこと。人の役に立つ実感を得てさらに次に進むこと。学術的な研究のなかでは得られないものが企業では実現できると思いました」。
高妻がチームを率いる時、いつもメンバーに問いかけることがあると言う。それは「いいモノとは何か」という問いかけ。現状に満足するのではなく、限界を決めずにモノづくりに取り組むことで、さらに優れた技術・製品が生まれるのだ。自分1人の力で解決が難しい時は、近くにいる専門家の力を借りればいい。さらに高妻は言う。「どんなに難しい仕事であっても常に変わらないのは"世の中の役に立つモノをつくりたい"という気持ち。むしろ、それしか考えていないぐらいです」。
三次元エッチング装置は、実用化まであと一息のところまで到達している。半導体メーカー先での評価を終え、いよいよ量産化に向けた取り組みが始まろうとしている。高妻たちが開発した装置からつくられた半導体は、やがて世界中に広まり、多くの人の生活を支えていくだろう。"より良いモノをつくりたい"。その思いが形になる日は、もうすぐそこまで近づいている。
POINT
1
前例のない
三次元エッチング装置
開発への挑戦。
2
チームの力でより良い
モノづくりを追求していく。
3
自分がつくったモノで
誰かが幸せになるから
仕事が面白い。