プロジェクト概要
半導体ウェーハには、電子回路となるナノレベルの溝が掘られている。その品質の検査装置である「CD-SEM」で世界トップシェアを誇っているのが日立ハイテクだ。現在、さらなる進化に向けて半導体開発の現場では、イノベーションが起きていた。それは半導体の3D構造化。いかに他社より先んじて次世代に対応していくかが、重要な開発テーマだ。
[プロジェクト推進者]
ナノテクノロジーソリューション事業統括本部
評価解析システム製品本部
評価ソリューション開発部
土肥
Doi
2007年入社
[プロジェクトチームの主要メンバー構成]
- CD-SEM技術者(ハード/ソフト)
- エッチャー技術者
2Dから3Dへ―
技術革新が求められる
「横から見ないとわからない形状を、上から判断するなんてどうしたらいいの?」。土肥は、難題を前に頭を悩ませていた。
パソコンや携帯電話をはじめ、電気製品であればほぼすべてに使用されている半導体。精密なナノレベルの電気回路を巡らせることによって、製品の小型化や高機能化を実現してきた。その半導体デバイス製造において、目に見えない電子回路の溝が仕様通りにできているのか品質を検査するための装置が『CD-SEM』だ。土肥は顧客である半導体デバイスメーカーからのニーズに対して、CD-SEMの新たな計測方法や機能追加を考え、設計メンバーとともに実現する業務を担当している。日立ハイテクの、CD-SEMは世界でトップシェアを占める代表製品。土肥は二度の育児休暇から復帰を果たし、この自らに与えられたミッションに誇りと責任を持って取り組んできた。しかし、近年、半導体開発の現場において3D構造化というイノベーションが起きており、技術者たちは開発に苦戦していた。
「3D構造化に対応する高機能のCD-SEMを他社より早く開発することで、日立ハイテクの地位を守り続けていかなければ」―土肥は重要な岐路を前にしている自社の状況を理解していた。
革新的な技術開発において、
2D構造半導体の溝は、緻密だが縦に均一な太さで掘られたシンプルな形状だった。そのため、半導体ウェーハに上から電子線をあてることで溝の形状が確認でき、開発においてはその精度やスピードを高め、分析のための新機能などを追求すればよかった。しかし、3D構造だと溝の底が狭くなっていたり、パターンの深さが不均一になっていたりと、上からではわからない形状になっている。これまでの計測技術の根本から見直す必要があった。
上からわからないため、半導体を割って横から見る方法や斜めから見る方法などによって何とか3D構造に対応しているのが現状だ。しかし、それではコストや手間がかかってしまうなど問題も多く、顧客の要望を完全には満たせなかった。
「これまでの常識にとらわれてはいけない」。長年、計測に携わってきた土肥だからこそ、つい過去のやり方に縛られがちになっていることを自覚していた。そこで、現状をうち破る上でアンテナを張ってあらゆる情報を収集したり、人に意見をもらったりしながら、粘り強く既存にはない新たな方法を模索し続けた。そして、「こうすれば、顧客のニーズに応える計測ができるのでは!?」。土肥は画期的な方法を閃いたのだった。
最先端の
最先端のサンプル。
「理論上、この計測方法ならできるはず。ただ検証するためのサンプルはどうしよう?」。計算上でのシミュレーションで土肥が考えた計測が上手くいったとしても、現物で実験してみると思うような成果が得られないことは日常茶飯事だ。実験段階に進むことにはなったが、実験用の3D構造半導体ウェーハサンプルをどう用意するかが問題になった。顧客から貴重な半導体をもらうわけにもいかない。「そうだ。笠戸事業所(自社工場)なら手に入るかもしれない」。日立ハイテクの笠戸では、半導体製造において電子回路の溝を掘るエッチング装置を開発している。そこで笠戸のエンジニアに自らのプロジェクトの意義を伝え、実験に必須な3D構造のサンプルを用意してもらうことができた。限りある貴重なサンプルでの実験。それほど検証・調整ができるチャンスは多くなかった―。
「よし、現物で計測方法の有効性を検証できた!これで機能化に進める!」。実験は見事に成功。そして、機械・電気・ソフトそれぞれの設計者とともに装置へ機能化していくステップに進むことが可能となった。現在、機能化は既に完成し、顧客先での試験段階に入っている。もう土肥の生み出した3D構造対応CD-SEMの稼働は目の前だ。また新たな最先端機器が、近いうちに世界へ届けられるだろう。土肥が考えた計測技術は、特許はもちろんのこと、社内において画期的な技術に与えられる技術革新賞を受賞した。
POINT
1
世界トップシェアである
CD-SEMにおいて、
最先端で活躍している。
2
3D構造半導体に対応する、
画期的な計測技術を
開発した(特許申請中)。
3
エリアの違う他工場の
技術者と協力し、
開発実験の課題を解決した。