TNFD提言に基づく情報開示:戦略
当社グループのバリューチェーンにおける直接操業および主要なサプライヤーについて、LEAPアプローチで特定したリスクと機会の評価結果や、特定された優先地域および事業活動における自然関連の機会をご説明します。
WEBサイトの開示情報はダイジェストとなっております。詳細はTNFDレポート(PDF形式、2.88MB)をご参照ください。
シナリオ分析
リスクと機会の洗い出しにおいて、シナリオ分析を実施しました。
シナリオ策定にあたっては、移行リスク・物理リスクの度合いに基づき設定された4つのシナリオの内、TCFDとの整合性も考慮した2つのシナリオ(シナリオ #2、#3)を採用し、各々1.5℃シナリオと4℃シナリオとして想定しました。
それぞれの世界観については、IPCC第6次評価報告書(AR6)を参考に、気候変動シナリオ、社会経済シナリオをふまえ、さらに「新規参入者の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「代替品や代替サービスの脅威」「競争企業間の敵対関係」の5フォースに、気候変動に関与度が高い「政府」「投資家および金融」を加えた7フォース分析を行いました。
想定する将来環境 | ||
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1.5℃シナリオ | 4℃シナリオ | |
シナリオ #1 / #2 | シナリオ #3 / #4 | |
TCFD | IEA「NZE 2050」 SSP1-1.9 |
IEA「STEPS」 IEA「CPS」 SSP5-8.5 |
TNFD | 自然の劣化が中程度。 #1:自然への関心が高く、肯定的。自然関連の規制強化(2050~2100年) #2:自然への関心が高く、肯定的。自然関連の規制強化(現在~2050年) |
自然喪失が進み損害が甚大。 #3:環境保護への取り組み優先度が低い。(2050~2100年) #4:環境保護への取り組み優先度が低い。(現在~2050年) |
シナリオ#2:
気温上昇に伴う気候変動により生物多様性の劣化がすでに進んでいます。今世紀末1.5℃の気温上昇に収まったとしても、その影響はすでに進行しており、気候変動による物理的なリスクの高まりから、陸域、淡水域等での自然の劣化が中~高程度の範囲で示されています。
今後の人類の対策において最も望ましい対応策が実現する場合に、実現可能性として最も高いシナリオであると考えられます。(現在~2050年)
シナリオ#3:
気候変動対策に失敗し、自然資本の劣化が甚大になることが想定されます。今世紀末4℃以上の気温上昇に至ってしまい、適応することも困難です。人間の健康に関するアウトカムも非常に高いリスクを示しており、すべての自然領域で甚大な影響が想定されます。(2050~2100年)
リスクと機会の評価
特定した自然関連のリスク
シナリオ分析で設定したシナリオ#2の世界観を前提として、想定されるリスクに関する影響度と発生の可能性をそれぞれ定量化し、大中小の3段階でリスク評価*し、リスクの対応策を検討しました。
評価範囲において影響が想定されるリスク
分類 | 要因/影響する領域 (主な依存と影響) |
リスクの内容【財務影響】 | 時間軸 | リスク 評価 |
リスク対応策 | |
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物理リスク | 急性 | 水量、水質、水温の変化/淡水 (依存:水供給) |
日立ハイテクグループでは、精密部品・機器の洗浄や冷却、空調・清掃・生活用水などの用途で水を使用しているため、水量、水質などの変化への対応コストの増加や、生産量への影響、最悪の場合操業停止が想定されます。【運用コスト、売上減少】 | 短期 中期 長期 |
中 |
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急性・慢性 | 豪雨や洪水による排水処理施設の破壊又は汚染水の流出/淡水、海洋 (依存:水循環維持、影響:水質汚染) |
組織やその他ステークホルダーが排出した汚染物質による淡水生態系の悪化が想定されます。 【地域への補償費用、汚染回復費用】 |
短期 中期 長期 |
大 |
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慢性 | GHG排出と温暖化による異常気象の増加/大気 (依存:自然災害の緩和、影響:GHG排出) |
豪雨、洪水などの自然災害による浸水が発生した場合、生産活動への影響が想定されます。その場合、復旧費用の発生、納期遅延、操業停止の可能性があります。またサプライヤーからの供給停止による納期遅延や、操業停止の可能性もあります。 【運用コスト、売上減少】 |
長期 | 中 |
|
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種の減少、絶滅リスクの変化/陸域 (依存:騒音等の軽減、影響:陸域生態系の利用) |
気候変動による植生の変化により音響緩和の低下がみられた場合、防音壁の設備投資によるコストの増加、さらには近隣への評判低下の可能性への対応が必要となります。 【設備投資費用、近隣住民対応費用】 |
中期 | 小 |
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移行リスク | 新たな規制 | 自然関連対応規制/大気、淡水、海洋、陸域 | 規制される地域内で売上が法の規定値を超えた場合に、生物多様性への対応として当社グループの依存と影響、リスクと機会に関する評価結果とともに、対応状況の情報開示が求められます。 【規制対応費用、基準を満たさない場合は売上減少】 |
短期 中期 長期 |
大 |
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訴訟 | 自然資本への悪影響に対する社会責任/大気、淡水、海洋、陸域 | 組織やその他ステークホルダーが排出した汚染物質による淡水生態系の悪化が想定されます。 【地域への補償費用、汚染回復費用】 |
長期 | 中 |
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市場 | 自然生態系に対する顧客要求の高まり/大気、淡水、海洋、陸域 | 当社グループが製造する製品においてリサイクルできないものや、水をより多く使用する又は資源を多く使用したり顧客側で廃棄物が多く生じるような製品がある場合、それらに関する自然生態系への配慮について顧客要求が強まる可能性があります。 【顧客要求への対応費用、要求を満たせない場合は売上減少】 |
中期 長期 |
中 |
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評判 | 自然生態系への対応不足によるブランドの低下 | 企業として社会的責任が大きいと認識されており、生物多様性に関する配慮が欠如していると判断された場合、親会社である日立製作所や金融機関等への信用や評判が悪化し、外部より圧力が増す可能性があります。 【ステークホルダーの求めに対する対応費用、要求を満たせない場合は売上減少、人材流出】 |
中期 長期 |
中 |
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* リスク評価は、想定した時間軸における「発生確率」と「影響度」の2軸で評価を実施。
特定した自然関連の機会
シナリオ分析で設定したシナリオ#2の世界観を前提として、想定される機会に関して発生の可能性をそれぞれ定量化し、大中小の3段階で機会を評価*しました。
評価範囲において影響が想定される機会
分類 | 要因/影響する領域 | 機会の内容【財務影響】 | 時間軸 | 機会評価 |
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資源効率 | 節水型設備の更新による水使用量の削減/淡水 | 当社グループでは、生産性向上および節水型設備への更新などによる用水使用量の削減に取り組み、水の利用効率向上に努めています。このような取り組みの継続により、水に関する運用コストの改善、生産性の向上による収益力の上昇が見込めます。【売上増加、コスト削減】 | 短期 中期 長期 |
大 |
製品・サービス | CO2排出量の削減製品の開発/大気 | 環境規制の強化に対応するため、環境に配慮した設計(エコデザイン)を推進しています。エコデザインは、製品環境配慮設計アセスメントとライフサイクルアセスメント(LCA)の2つを実施して環境負荷低減施策を抽出し、施策内容をLCA計算によりCO2排出、水使用量、廃棄物発生量の3つの指標について、製品の各ライフステージで評価するものです。当社グループでは、構想段階から評価・開発を経て、エコデザイン候補製品リストを作成し、推進しています。以上の取り組みによるGHG排出の削減につながる製品の開発は売上上昇の機会となります。【売上増加】 | 短期 中期 長期 |
大 |
資源削減製品の開発/淡水 | 大 | |||
市場 | 生態系保全等に役立つ技術開発による新たな市場の獲得/淡水、陸域、海洋、大気 | 自然生態系のモニタリング、生態系を脅かさないための技術に役立つソリューションの開発により、新たな市場の形成や売上上昇につながります。 【売上増加】 |
短期 中期 長期 |
大 |
資源効率 | 再生材の使用比率と水の再利用率の引き上げによる資源効率化、安定的な調達の実現/淡水、陸域 | 当社の製品製造において、資源効率を高めることで、安定的な調達の実現や資源が高騰した場合のコストダウンにつながります。 【売上増加、コスト削減】 |
中期 | 大 |
資本フローと資本調達 | 自然資本に焦点を当てた金融市場への参画/大気、淡水、海洋、陸域 | TNFDフレームワークに基づく情報開示と対応により、金融市場から自然関連のグリーン・ファンド、債券、ローンへのアクセスが可能になります。【資本の増加】 | 中期 | 中 |
回復力 | 生態系や生息地の直接的な修復、保全、保護/陸域 | 当社グループは直接操業の拠点で、生物多様性保全活動を実施しています。 一例としては日立ハイテクサイエンス/富士小山事業所において、約44,000平方メートルにもおよぶ樹林を「日立ハイテクサイエンスの森」と名づけ、地域社会の一員として「自然との共生」をめざし、かつて人々との暮らしと共にあった里山として再生することを目標とし、2015年から継続的に活動を実施しています。地域在来の植物を活用し、約50年かけて、スギ・ヒノキの人工林を広葉樹林へと大規模に転換していきます。森林整備活動の一環として、従業員も参加し、外来植物の駆除や昆虫の住処となるインセクトホテルの設置も実施しており、敷地内には、希少植物の存在も確認しています。このような取組により生態系の回復が見込まれ、生態系サービスの安定につながることでステークホルダーの信頼を得ることにより、売上増加につながります。 【売上向上】 |
中期 長期 |
大 |
市場 | 自然への影響を減らし、プラスの影響を増やす技術革新/大気、淡水、海洋、陸域 | 自然への影響を減らし/プラスの影響を増やす技術革新など、当社グループはネイチャーポジティブな製品、技術開発を進めていきます。成功すると自然生態系の負荷低減、回復が実現するとともに、新しい製品・技術による売上上昇につながります。 【売上増加】 |
短期 中期 長期 |
大 |
* 機会の評価は、想定した時間軸における「発生確率」と「影響度」の2軸で評価を実施
特定した機会に関して、事業と自然にプラスの効果をもたらす取り組みについては下記を参照ください。
自然関連の依存と影響の診断
依存と影響のヒートマップ
直接操業およびサプライヤーを含む評価対象拠点の事業活動を整理し、ENCOREを使用して評価を行いました。その結果を基に、ヒートマップを作成しました。その結果、日立ハイテクグループのバリューチェーンにおける依存と影響の重要な項目がわかりました。
- 依存:直接操業およびサプライヤー共に「地下水」「地表水」に中程度、サプライヤーのみ「洪水と暴風雨からの保護」「水循環維持」に中程度の依存がある。
- 影響:直接操業およびサプライヤー共に「GHG排出」は非常に影響度が高く、「水質汚染」「土壌汚染」「固形廃棄物」「水の使用」についても影響度が高い。
依存のヒートマップ
VH:非常に高い、H:高い、M:中程度、L:低い、VL:非常に低い
影響のヒートマップ
*
本分析は、2024年6月までENCOREの分類(GICS)を使用しています。
GICSとは、Global Industry Classification Standardの略称。世界産業分類基準。1999年に米国のS&PとMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が共同開発した産業分類です。
優先地域の選定
優先地域の定義と選定方法
LEAPアプローチにおいては、要注意地域または重要地域にある拠点を優先地域としています。
■要注意地域の評価
「要注意地域」の定義に従い、評価ツールの分析結果やOECM*への登録状況を評価し、独自にスコア化しました。
■重要地域の評価
「重要地域」については次の条件でスコア化しました。
- ENCOREで影響が高いと評価されたセクター
- CDP水リスク回答で開示した水関連リスクにさらされている拠点
- 日立グループで実施している「日立環境管理区分調査」の評価
- 取水量
最終的には「要注意地域」と「重要地域」スコアの合計から、優先地域を選定しました。
出典: Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: the LEAP approach(P61)
* OECM:Other Effective area-based Conservation Measuresの略。保護地域以外で生物多様性保全に貢献している地域。
優先地域
直接操業15件、サプライヤー6件を優先地域として選定しました(詳細は、TNFDレポート(PDF形式、2.88MB)参照ください)。
今回選定した優先地域のうち、以下について取り組みをご紹介します。