電気自動車用永久磁石の高温磁区観察
ジャンル | マグネティックス |
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モード | MFM |
測定領域 | 50µm |
ステーション | NanoNaviⅡ |
装置 | E-sweep |
解説
Fig.1 電気自動車モータからNdFeB磁石を取り出し環境制御SPM ”E-sweep” の試料台にのせる
Fig.2 103℃における形状像とMFM像(a)と試料および探針の磁化モデル(b)
タイトル動画は電気自動車のモータからNdFeB磁石を取り出し、Fig.1のように樹脂に埋めて表面処理を施した磁石試料片を、高保磁力探針および真空中Q値制御MFMにより高温でその場観察した結果です。
NdFeB磁石は高温になると特性が低下してしまうため、Dy(ディスプロシウム)を添加して耐熱性を高めています。特に電気自動車など高温で使用する磁石には高い特性が望まれます。今後の電気自動車の普及に対して、レアアースの中でも特に希少であるDyの入手自体も大きな問題となっており、Dyを使わない高性能磁石開発研究が急務です。このような高性能磁石の基礎研究においては、磁石中の微視的な磁区の構造を理解することが重要です。日立ハイテクサイエンスでは、高保磁力探針および真空中Q値制御MFMにより、これまで困難であったNdFeB磁石の正確な磁区評価を可能としました。(1),(2)
Fig.1は、 電気自動車モータからNdFeB磁石を取り出し、試料片とした様子です。境制御SPM ”E-sweep” の加熱冷却試料台にのせて測定しました。
Fig.2(a)は、測定データの中から、103℃の形状像とMFM像を抜粋したものです。磁区構造が結晶粒界を超えて連続した様子がわかります。Fig.2(b)は、高保磁力MFM探針とNdFeB磁石の磁化状態のモデル図です。試料の磁化状態は、スピンが揃った単磁区結晶と、スピンが反並行に分布した迷図状の模様をなす多磁区結晶にわかれます。
再びタイトル動画について説明します。温度を上げる毎に単磁区結晶が多磁区結晶に変化していく様子が観察されています。また、多磁区結晶の模様自体も温度によって変化しています。(3)
日立ハイテクサイエンスでは、今後、MFMとTES(超伝導相転移端温度計)、FIB(集束イオンビーム)加工などの技術を融合させ、微量元素の分布と磁化分布などの相関についても研究を進めていく予定です。(4)
引用文献:
(1)T. Yamaoka, H. Tsujikawa, R. Hirose, H. Kawamura and A. Ito, "MFM Observation of Neodymium Magnets for Electric Vehicle with Ultra High Coercivity Probe in Vacuum Environment", CY-03, The 2nd International Symposium on Advanced Magnetic Materials and Applications (ISAMMA 2010), 2010.7.12-16, Sendai, Japan.
(2)アプリケーションブリーフ SPI No. 68 ”電気自動車用永久磁石の磁区観察"
(3)山岡武博, 辻川葉奈, 廣瀬龍介, 伊藤亮, 川村博, 左近拓男:"高保磁力MFM探針によるNd-Fe-B磁石の熱消磁過程その場観察", 日本磁気学会誌,35 (2011) 60-66.
(4)山岡武博: "SPMパラダイムシフト-「走査」の概念を変えた高精度かつ実用的形状・物性マッピング手法と、SPM&ビームテクノロジ融合によるレアアース分析の最前線”, nano tech 2011 シーズ&ニーズセミナー, 2011年2月18日, 東京ビッグサイト.
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