構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術
10. クライオ電子顕微鏡法(Cryo-electron microscopy)(2)
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(2) 細胞の氷包埋
概念的には厚みの薄い培養細胞も、精製蛋白質同様氷包埋してからクライオトランスファーを使用して観察できるように思える。
しかし、精製蛋白質と比べ容積が飛躍的に大きくなることからいくつかの問題が生じる。
まず、液体エタンへの浸漬凍結では細胞丸ごと急速凍結すること(アモルファス氷により包埋すること)が難しい。仮に急速凍結できても、試料が厚すぎてよく見えない。
培養細胞では最も薄い辺縁部(cortical area)を観察したのが図1である。凍結は良好であるが厚さに依存する多重散乱のためストレスファイバーぐらいしか識別できない。
そこで、我々は膜を剥離し、薄くしてから氷包埋する方法を考えついた。非侵襲とは行かないまでも水を含んだ新鮮な膜細胞骨格を観察できる可能性があり、実際に成功した。
一方、ドイツのMax Plank研究所のBaumeisterのグループはあくまでも非侵襲性にこだわり、培養細胞の最も厚みの薄い辺縁部を材料として用いて、構造解析を試みた。
多重散乱から生じる像の不鮮明さをトモグラフィーにより解決し、同時に三次元構造も明らかにするという快挙を成し遂げた(参考文献1、2)。
しかし、多重散乱により生じる不鮮明さや分解能の低下をトモグラフィーでどこまで補うことが出来るのか問題は残る。実際、我々の観察結果と彼らの得た像の間にはかなりの質的な差が認められる。
細胞の氷包埋観察の特徴は何といっても電子顕微鏡では難しいと考えられていたnativeで水を含んだ蛋白質分子複合体の細胞内における構築を明らかにできることである。
膜細胞骨格などのクライオ顕微鏡観察はまだ始まったばかりであり、ここで紹介する方法を端緒に読者が独自の方法、考えを付加し発展させていただければ幸いである。
準備するもの:
- 浸漬式急速凍結装置
- 接着性を高めたカーボン支持膜を張ったグリッド
- クライオトランスファー
- 液体窒素
プロトコール:
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グリッドの接着性処理
アルシアンブルーを膜張りグリッドの上に載せ、1分間おく。
蒸留水で洗い流し乾燥する。乾燥後は出来るだけ早く使用する。 -
6cmのディシュウに細胞を培養し、底面の8割以上が細胞で覆われたところで実験に用いる。
培地を捨て、一度HEPESベースのリンゲル液で洗う。リンゲル液を捨てたら乾燥させないように直ちにアルシアンブルーで接着性を高めたグリッドを上部表面から軽く圧着し、つづいて引き上げることで、膜細胞骨格をグリッド上に採取する(図2)。 -
三角形に切った濾紙の端を使い余分な水分を取り除き、直ちに液体エタンに漬け急速凍結する。
クライオの成否は水分残量で決まる。どの程度の水分を残すかがノウハウである。水分を除きすぎたり残しすぎたりしないことである。初めは乾燥を避けるあまり水分が残りすぎて失敗することが多い。 -
クライオトランスファーにグリッドを載せ顕微鏡に装着する。
観察温度は液体ヘリウム使用の場合は10~20K、液体窒素の場合は100K程度で観察することになる。撮影倍率は照射損傷が激しいので10,000倍以下で撮影した。撮影にはlow dose systemを使うと損傷抑えることができる。
氷に包埋された無固定、無染色生物試料は一般に焦点近傍(on focus)ではコントラストが出ないので、6~10µm不足焦点(under focus)とし位相差コントラストで観察する。しかし、不足焦点とすると分解能は低下するので、必要最小限の不足焦点とする。
参考文献
*
Kurner, J., A.S. Frangakis, and W. Baumeister. 2005.
Cryo-electron tomography reveals the cytoskeletal structure of Spiroplasma melliferum. Science. 307:436-438.
*
Medalia, O., I. Weber, A.S. Frangakis, D. Nicastro, G. Gerisch, and W. Baumeister. 2002.
Macromolecular architecture in eukaryotic cells visualized by cryoelectron tomography. Science. 298:1209-1213.
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