構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術
3. 急速凍結法(3)
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(3)冷媒への浸漬凍結
ここでは急速凍結法としての浸漬凍結について述べる。化学固定した試料の凍結についてはコラムを参照されたい。
冷媒への浸漬凍結により無氷晶凍結となる部分は表面より500nm以下である。このため、哺乳動物組織の凍結には向かない。単離した蛋白質などを穴あきカーボン膜を張ったメッシュに載せ、凍結しクライオ電顕で観察するときに用いられる。
浸漬凍結装置はLeicaとFEIから市販されているが、いずれもプランジャーの先端にはロッキングピンセットが装着できるようになっている。ピンセットの先にメッシュを挟み、そこに単離した蛋白質溶液など載せ、濾紙で十分吸収し、乾燥しないうちにすばやく、液体エタン中に落下させ凍結する。冷媒は融点が低く、また沸点と融点が離れている気体が適しており、現在は液体窒素で冷却したエタンが一般的である。昔はフレオンやプロパンも使用された。浸漬凍結は必ずしも市販の装置が必要とは限らないが、凍結結果を均一にするためにも必要な備品である。
市販の装置を使用しない場合は図1を参照されたい。先ず、液体窒素で囲まれた小さな金属製のチャンバーにregulatorで制御しながら少しずつ液体エタンを注ぎ貯める。そして、ピンセットでつまんだメッシュをすばやくその中に入れ凍結する。気化したエタンは引火性が強いのでこれらの操作はドラフト内や通気性の良いところでかつ火花が起きないようなところで行う。
コラム
凍結速度
熱の伝導は固体、液体、気体の順で遅くなる。凍結速度のみを上げ純水を無氷晶(vitreous ice)凍結するためにはおよそ105K/secの冷却速度が必要である。 この速度を達成できるのは極低温に冷却された金属への接着のみである。しかも接触面から数ミクロンまでであろう。
熱の移動は金属の熱伝導率と接着面に依存している。 そのため、圧着凍結では金属は純銅を用い、その表面は鏡面仕上げとするが、それでも凍結は均一にはならない。加圧凍結に期待が寄せられたのはこのためである。
見た目には金属より液体の方が試料周辺に回り込み接触するので冷却速度が上がるように思えるが、多くの液体冷媒は比熱が小さく、接触と同時に気化し、試料に付着するので著しく冷却速度が低下する。
コラム
従来の凍結
凍結速度を上げずに無氷晶凍結する方法として加圧凍結が考案されたが、これを化学的に行う方法がグリセリンなどの凍結防止剤の添加である。しかし、グリセリンは細胞そのものを破壊してしまうのでグルタールアルデヒドで化学固定してからでないと使用できない。したがって、急速凍結法が確立されるまではフリーズフラクチャーレプリカ法は全て固定した試料を使って行われた。
40~50%のグリセリン濃度では液体窒素に漬けるだけで無氷晶凍結が可能であるが、画像がシャープではなくなるので、グリセリン濃度を25~30%ぐらいまで低下させ少しだけ凍結速度を上げることが考えられた。そのため融点と沸点が離れており、できるだけ低い温度で固化する気体を用いた。
20年ほど前ではFreon 22が一般的であったが、生産が中止されてからはプロパンが使用された。今でもプロパンを使用している人も多いが細胞内にしみこむ性質があることなどで現在ではエタンが一般的になっている。 プロパンは空気より重いため局所にたまりやすく引火爆発しやすいのが欠点である。一方、エタンは引火性がさらに強いもののプロパンより軽いので局所に貯留することは少ない。いずれにせよFreonとは違うので通気性の良いところで凍結する必要がある。
エタンなどの冷媒を一度冷却凝固させてから、金属棒などを中心部に押し当て、冷媒の一部を融解し、スラッシュ状にしてそこに試料を浸漬して凍結する。
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