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構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術

5. フリーズレプリカ法(2)

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(2) 免疫フリーズフラクチャー

フリーズフラクチャーやフリーズエッチング法は構造細胞生物学的に超薄切片法とは違う重要な構造情報をもたらすにもかかわらず、普及しなかったのは技術取得に時間がかかること以外に、重大な欠点があった。 それは物質を同定できないと言うことである。
前述のようにフリーズフラクチャー法では膜蛋白質を膜内粒子という形で観察できるし、また、フリーズエッチング法では細胞骨格を立体的に観察できる。 蒸着による分解能低下もコントラストが増加するのでそれほど大きな問題ではない。ただ、観察対象の膜内粒子あるいは線維の構成成分がわからないと言うのでは、たとえそれらが特殊な分布や立体構築をしていたとしても科学的には意味がない。
そこで構成成分を同定すべく考え出されたのが、免疫フリーズレプリカである。
しかし、後述するようにフリーズフラクチャー法とフリーズエッチング法では標識法が全く違う。これは白金蒸着で覆われる場所が異なることによる。<>br フリーズエッチング法では固定、標識後に凍結、蒸着してレプリカを採集するが、フリーズフラクチャー法ではこれが出来ない。すなわち、フリーズフラクチャーでは細胞骨格や膜の細胞質側表面が露出されないため、 標識金コロイドを蒸着によりしっかりと構造に固定できない。そのため、蒸着後に標識しなければならないが、蒸着後通常のレプリカ採集のように強い洗剤で洗うと脂質も膜蛋白も溶解するため、抗原性を維持したままそこに残すのは難しい。 このような困難を乗り越え内在性膜蛋白質を標識できるようになったのは藤本和博士の貢献によるものである。
フリーズフラクチャーにより膜が疎水性面に沿って割断され、 脂質二重膜の疎水性面が露出されそこが白金/カーボンにより蒸着させた場合、その膜の半葉はかなり安定で表面活性剤などでは溶けないと彼は考えた。
そこで、イムノブロットで用いられるSDS(sodium dodecyl sulfate)という表面活性剤をブリーチなどの漂白剤のかわりに用いてレプリカの洗浄をすることを考えた。つまり、SDSは洗浄力が弱いが、標本を化学固定することなく急速凍結し、 型のごとくフリーズフラクチャーレプリカ作製をおこない、そのレプリカをSDSで洗浄し回収すれば膜の半葉と膜蛋白はintactのままレプリカに付着し、残存していると考察した。
そしてこの蛋白が残存しているレプリカを免疫抗体で標識すれば膜内粒子が如何なる蛋白質から構成されているかを明らかにできる。 まことに素晴らしい発見と思われる。ただこの方法では膜内在性蛋白質の細胞質側表面に露出している部分を認識する抗体を使用しなければならない(図1参照)。

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実際の手順:

  1. 組織試料をカミソリで薄く細切し、割断する面を考慮しながら試料台に載せる。
    膜面(P、E面)を確率高く露出させるためにはナイフで試料面を削るよりも剥離するような力をかけた方がいい。このためサファイアガラスや薄い銅箔を試料面に被せ急速凍結する。そして、装置内にてナイフエッジでこの被せ物を剥ぐと膜の割断面を得やすい。
  2. フリーズフラクチャーレプリカ作製装置内で被せ物を剥離または組織の一部を割断し、直ちに白金を40度の角度から一方向の蒸着をする。つづいてカーボンを60~90度で回転蒸着する。
  3. 大気中に取り出した後、蒸着した試料をPBS(Phosphate buffer Saline)に浸し、蒸着膜を剥離させる。
  4. 2.5% SDS(10mM Tris buffer pH8.3、30mM sucrose)溶液に移し、スターラーで撹拌しながら蒸着膜に付着している余剰の組織を除去する。この時レプリカはかなり細かに分散し、また水中に没することがある。したがって、レプリカを次の溶液に移すときは白金ループを用いる。
  5. 4% BSA(Bovine Serum Albumin)(PBSに溶解)にて10分ずつ2回洗浄する。この後の免疫標識過程は原理的には超薄切片の標識法とほぼ同じである。
  6. ワックスプレート上に1% BSA-PBSで100~400倍に希釈した一次抗体液を500µL(標識するレプリカの量により調節)とり、レプリカを浮かべる(沈むこともある)。1時間インキュベーションする。
  7. 10mLのディスポディシュにPBSを満たし、そこにレプリカを浮かべ5分洗浄する。同じことを2回繰り返す。
  8. ワックスプレート上に1% BSA-PBSで25~30倍に希釈した金コロイド二次抗体液(粒子径10nm)を200µLとり、そこにレプリカを移し、約1時間標識する。
  9. 10mLのディスポディシュにPBSを満たし、そこにレプリカを浮かべ5分洗浄する。同じことを2回繰り返す。
  10. 10mLのディスポディシュに2% グルタールアルデヒド(PBSで希釈)を満たし、レプリカを移し10分間固定する。
  11. 10mLのディスポディシュに蒸留水を満たし、そこにレプリカを浮かべ5分洗浄する。同じことを2回繰り返す。
  12. レプリカを膜張りメッシュ上に回収し、乾燥後電子顕微鏡で観察する。

この方法をより詳しく知りたい方は開発者の以下のオリジナル文献を参照されたい。

1) Fujimoto Kazushi.: J. Cell Sci,108, 3443-3449(1995)

2) Fujimoto Kazushi.: Histochem. Cell Biol,107, 87-97(1997)

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