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構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術

16. 電子顕微鏡の原理(4)

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(4) 画像記録と有効倍率

一昔前までは電子顕微鏡による観察画像はすべて写真フィルムに記録したが、最近ではCCDカメラ(イメージング素子)を経由して、直接コンピューター内のハードディスクに取り込むことができる。
しかし、まだ階調や解像度の点でフィルムの方が多少優れている。
フィルムに記録した画像は10倍くらいまで引き伸ばすことができるが、一般的な1,000×1,000ピクセル(1Mピクセル)のCCDカメラで取り込んだ画像は、2倍程度が限界である。
しかし、トモグラフィーをするのであれば、感度がよく連続的に取りこめるCCDカメラは必需品である。
フィルムをまったく使わないのであれば4Mピクセル以上欲しいところである。最近では64Mピクセルのカメラも出回っているが、数千万円もする高価なもので一般的ではない。
4MピクセルCCDカメラと従来のフィルム撮影装置が備わっていれば、どのような用途にも対応できるだろう。
画像を記録する時の撮影倍率はいかに決めたらいいのだろうか。
もちろんこれは観察者が自由に決めていいのであり、細胞の全体像を撮りたいのであれば、それが十分入るくらいの倍率で記録することになる。しかし、ここには前項の分解能が密接に関与してくる。
すなわち、分解能を十分引き出す倍率というのが存在する。
例えば光学顕微鏡を肉眼で観察する場合を考えてみる。分解能のところで述べたように光学顕微鏡の分解能はおよそ200nmであるが、人の目の分解能はおよそ150µmである。
したがって、分解能程度の細かいものを見ようとすると200nmを150µmまで拡大しなければならない。すなわち、750倍以上の倍率が必要となる。
では接眼レンズの倍率を上げて総合倍率を高くすればいいのかというと分解能は200nmであるから1,500倍、2,000倍としても有効な情報は得られない。
このように無意味な倍率を無効倍率という。また、100倍で観察した時はヒトの目では試料内の1.5µmまでのものを観察できるので、フィルムなどで記録しない限り、1.5µmの分解能のレンズでいいことになる。
これらのことを一般的に式で表すと目の分解能(δε:100µm)、対象の実距離(見ようとするものの大きさ:δs)、倍率をMとすると

δs=δε/M

述のように最も効率のいい倍率は目の分解能と対物レンズの分解能を一致させることであるから、これにレイリー・アッベの分解能の式を代入すると

M=δε/δs M=δεNA/0.61L

ここに数値(NA:1.4、L:450nm、δε:150µm)を代入すると750倍を得る。
少しゆとりをみても700~1,000倍ぐらいが光学顕微鏡の有効倍率となる。これ以上ではただぼやけるだけである。しかし、フィルムやビデオカメラで撮影する時はヒトの目より分解能がいいので、輝点の中心の運動などを検知できるので、より高倍で撮影する意味がある。
さて、電子顕微鏡では分解能は十分高い上、フィルムかCCDカメラで記録することになるので、フィルム銀粒子の間隔やピクセル間隔が撮影倍率を決定する要因になる。
いま現像後の銀粒子の間隔を10µmとし、20,000倍で撮影した場合、ヒトの目では見えないが0.5nmの構造までもが写し込まれている。すなわち、生物系の試料であれば、一枚の写真で必要以上の構造情報が含まれていることになる。
1nmの構造を目で確認したいと思えば、フィルムを7.5倍に引き伸ばせばいい。そうすると1nmの構造が150となり、何とか肉眼で見ることができる。
一般的な電子顕µm微鏡の分解能は0.2nm前後であるから、1nmの構造には意味があるように思えるが、生物試料の場合実際の分解能は試料作製法で決まってしまう。
オスミウム酸で固定したり、エポキシ樹脂に包埋したり、あるいは白金を蒸着したりしているので、その時点で2nm以下の構造は無意味となってしまう。このためフィルムで記録するのであれば、生物試料の場合、電子ビームの集中により照射損傷が大きくなる高倍率で撮影するよりも5,000~25,000倍程度で撮影したほうがいい。
実際、電子レンズより光学レンズの方が収差の点で優れているので、高倍率で撮影するよりも、低倍率で撮影し、光学引き伸し機で拡大したほうがきれいな仕上がりとなる。
ここでは便宜的に現像後の銀粒子間隔を仮定したが、実際には感光材はフィルム面に塗られているので粒状性により決まる。そして、それは三次元的に存在するので、二次元的に並ぶCCDカメラのピクセルとは基本的に異なる。
一方、CCDカメラもどんどん進化しており、16Mピクセル以上のカメラではピクセル間隔は10µm以下となってきた。また、ハーフトーンの再現性もよくなってきたし、熱ノイズの問題も解決されつつあるので、 まもなくフィルムに取って代わるであろう。現在でもトモグラフィーはCCDカメラなしではほぼ不可能である(厳密には可能であるが現実的ではない)。

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