構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術
2. 免疫細胞化学(3)
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(3)光学顕微鏡による免疫組織化学との連続性
免疫標識法において電子顕微鏡と光学顕微鏡では異なる。そのため結果が一致しないことがしばしば起こる。
一般的な光学顕微鏡免疫染色ではホルマリンなどで軽く固定した組織の凍結切片や培養細胞の全載標本に一次抗体とTriton X100を同時に作用させ、細胞に穴をあけ細胞質を溶出させ、抗体の浸透を促進する。二次抗体には蛍光標識抗体を用いてシグナルを増幅して標的タンパクを識別する。
一方、電子顕微鏡免疫細胞化学では前述のように試料を樹脂に包埋するためグルタールアルデヒドなどの強い固定剤を用い、アルコールで脱水するので微細構造の保存がいい反面抗原性が落ちる。また金コロイドによる標識のため増幅がきかない。しかし、たとえ光学顕微鏡レベルであっても細胞の重複のない1µL以下の切片が作れ、保存性の優れた背景構造を持つことは捨てがたい。
そこでここでは電子顕微鏡用の試料ブロックを利用し、かつ金コロイド二次抗体標識による光学顕微鏡用の免疫組織化学法を紹介する。
電顕用樹脂切片を用いたレーザー顕微鏡免疫組織化学
金コロイドやその銀増感産物は表面偏光を起こすことから偏光顕微鏡でその存在を確認することができるが、普及が著しい共焦点レーザー顕微鏡の利用をすすめる。この場合、蛍光顕微鏡としてではなく強いレーザー光を利用した反射顕微鏡として使用する。また、共焦点レーザー顕微鏡では一般に複数チャンネルで画像を取り込むことができるのでシグナル像と透過像を簡単に重ね合わせることができ、その局在をより鮮明にすることができる。
実践技術
準備するもの:
- 上述の電顕免疫細胞化学法により固定し、Lowicryl K4Mに包埋した試料
- 一次抗体(標識したい蛋白質の抗体)
-
10nm金コロイド標識二次抗体
(一次抗体がポリクローナル抗体の時はGoat Anti-Rabbit IgG、モノクローナル抗体の時はGoat Anti-Mouse IgG) -
銀増感剤:IntenSE M silver enhancement kit
(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社) - PBS(-)(Phosphate buffer saline)
- 4% BSA in PBS(電顕免疫細胞化学と同じ)
- 蒸留水
-
シラン処理したスライドガラス
(自分で処理できるが、ダコ・ジャパン株式会社から販売もされている) - カバーガラス
- 染色瓶(洗浄に使用)
- エッペンチューブ(250µL、1,500µL用)
- ピペットマン(10µL、200µL、1,000µLなど3本程度)
- ピンセット
実験手順:
Step 1
0.5µm~1µmの準超薄切片(semi-thin section)の作製。図6のようにヒストダイヤモンドナイフまたはガラスナイフにより切片を切り、白金ループを用いてスライドガラス上の水滴に移す。シラン処理したスライドガラスを使えば乾燥後切片が密着し、以後の染色洗浄過程で切片が剥がれ落ちない。
Step 2
スライドガラスの上の水滴に少なくとも4枚以上の切片を浮かせてから、図2のようにヒーター(伸展板でもいい)で加熱し、水分を蒸発させ切片をしっかりとスライドガラス上に付着させる。その後スライドガラスをヒーターからはずし、室温まで冷却する。
Step 3
4% BSA/PBS 約500µLを滴下し、スライドガラス上の切片を完全に覆うようにする。このままで5分間放置し、抗体の非特異的結合をブロッキングする。
Step 4
1% BSA/PBSで希釈した一次抗体約100µLを切片上に滴下し、カバーガラスを載せ、1時間以上反応させる。一晩反応させる場合は抗体液が乾燥するおそれがあるので、水を含んだ紙を入れたモイスチャーチェンバー(図3)に入れるといい。
Step 5
PBSで3分ずつ3回洗浄する。
光学顕微鏡プレパラート用染色瓶にPBSを満たし、その中にカバーガラスを載せたままのスライドガラスを入れる(図4)。PBS液中でカバーガラスは自然に外れるので、切片を傷めることはない。
Step 6
洗浄後再びモイスチャーチェンバーにスライドガラスを置き、1% BSA/PBSで40倍に希釈した10nm金コロイド二次抗体100µLを切片の上に滴下し、カバーガラスを載せ、1時間反応させる。
Step 7
再び染色瓶にPBSを満たし、3分ずつ3回洗浄する。その後、蒸留水で10秒ほど洗浄した後、次の銀増感に移る。
Step 8
銀による増感反応
IntenSE M silver enhancement kit中のA液とB液を等量混ぜ増感液100µL作り、これを切片の上に滴下しカバーガラスをかける。普通の正立光学顕微鏡で反応の進行状況を確認する。増感が進むと抗体による標識部分は黒化してくる。15分で十分な増感が得られるはずである。長く反応させるほどバックグランドが高くなる。もう少し増感したいというところで中止するのがきれいな像を得るこつである。
Step 9
蒸留水につけ増感反応を停止させる。染色瓶に蒸留水を満たし、3分ずつ3回洗浄する。
Step 10
0.5%トルイジンブルーで染色をする。
(染色液の作り方および染色、洗浄法は超薄切片法の(5)トリミングと薄切、semi-thin sectionによる試料確認の項目を参照:ただし、染色時間は親水性樹脂なので加熱せず室温で30秒)
Step 11
蒸留水で洗浄後、乾燥する。エポキシ樹脂をごく僅か一滴垂らし、カバーガラスをかける。60℃のオーブンで一晩重合させると半永久的なプレパラートができる。
観察方法:
偏光顕微鏡や暗視野顕微鏡でも抗体標識シグナルは観察可能であるが、ここではレーザー顕微鏡での観察について説明する。
共焦点レーザー顕微鏡は通常蛍光用のダイクロイックミラーが付けられているが、これを反射用に変更するか切り替える必要がある。反射像の撮影では蛍光観察とは違い波長依存性はなく、また褪色の心配はないので強度は強いほどいい。全波長を使用し明度を上げて観察する。手順は以下の通り。
- 透過像を観察し、焦点を合わせ、記録する。
- 反射モードに切り替え、反射像を記録する。この時反射像の光学切片を数枚作り重ね合わせた像(extended focus image)をつくって置き、透過像とのマージに使うとシグナルの鮮明な合成像が得られる。
- コンピュターソフト上で透過像の上に色を変えて反射像を重ね合わせると、抗体の結合箇所が容易に識別できる。
応用例として図5を掲げる。
参考文献
-
Roth J, Bendayan M, Orci L:
Ultrastructural localization of intracellular antigens by the use of ProteinA-gold complex. J Histochem Cytochem, 26:1074-1081(1981) -
Chaitin MH, Schneider BG, Hall MO, Papermaster DS
Actin in the photoreceptor connecting cilium: Immunocytochemical localization to the site of outer segment disk formation.
J Cell Biol, 99:239-247(1984) -
Warhol MJ, Lucocq JM, Carlemalm E, Roth J:
Ultrastructural localization of keratin proteins in human skin using low-temperature embedding and the protein A-gold technique.
J Invest Dermatology, 84:69-72(1985) -
Usukura J, Bok D:
Changes in the localization and content of opsin during retinal development in the rds mutant mouse: Immunocytochemistry and immunoassay.
Exp. Eye Res, 45:501-515(1987)
コラム
スライドガラスのシラン処理
シラン処理したスライドガラスは水をはじくので、水滴が丸くなり、高く盛り上がるため白金ループ中の切片を移しやすい。一方、水分が蒸発したときのガラス面との接着は強固であるので、その後、激しく何回水溶液で洗浄しても剥がれることはない。免疫染色やオートラジオグラフなどには必須の処理である。一度処理すると長期にわたって物性が持続する。そのため最近では市販されている。大量に作りたい人、特別な厚さ形状のスライドグラスにシラン処理をしたい人のために処理法を記載する。処理法は至って簡単である。
- シラン処理液200mLの作り方:3-aminopropyltriethoxisilane(Sigma-Aldrich Cat #A3648)2mLを無水アセトン198mLと混ぜ200mLとする(1% 溶液)。この溶液を染色瓶などに移してすぐ使用する。
- 別の二つの染色瓶に純アセトンと蒸留水をそれぞれ200mLずつ用意する。
-
ラックに必要枚数のスライドガラスを入れ、シラン処理液、純アセトン、蒸留水の順番でそれぞれ30秒ずつ浸漬し、最後に乾燥させれば出来上がりである。
なおシラン処理液は作り置きができないので、使用時に調製する。
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